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第6話

(ううう……なぜですか……姫様……あのような男と……)


 これは悪夢だ。そうに違いない。私の姫が、あのセクハラ皇太子と結婚するなんてありえないのだ。


(プリンのごとき柔らかい姫の唇を……まさか、あのような男に蹂躙されてしまうとは……)


 唇だけではない。この娘が生まれたということは、あんなことやこんなこともされたということだ。


 私は、姫とセクハラ皇太子が裸で抱き合っているところを想像し、胸が苦しくなった。


(私の無実を信じてくださり、助けて下さったのに……なぜ……)


 私は女神に忠誠を誓う女神の騎士だが、私を救ってくださった姫にも同じように忠誠を誓ったのだ。


(私を助けた……)


 私はそこで、ある可能性に気付く。私を助けるということは姫の立場を危うくするものだったことに。


(きっとガルディック帝国の権威をかさに、無理やり姫をものにしたのだ!)


 そう思うと、改めて殺意が沸いてくる。


(殺す。殺してやるぞ。どんな手を使おうとも! ガルディック帝国皇太子エラストゴン!)


 私は殺意と共に目が覚めた。




「もう、大丈夫でしょう」


(こ、この声は……)


 私はまたしても知った声に、開けようとしていた目を慌てて閉じる。ここは寝たふりをするのが賢明だ。


(メルンドルフ大司教……)


 まさか、大司教自らが来るとは思わなかった。この大司教は、女神教聖騎士隊の責任者でもある。つまり、前世の私の上司だった。


 この人の肩書は、それだけではない。暗殺者、尋問官、そして悪魔祓い……


(そうか……私は悪魔付きと判断されたのか……)


 転生は信じられてはいないが、悪魔付きは信じられている。なぜなら、実際に悪霊がとりつき暴れる者がいるからだ。悪魔祓いは、神聖魔法の一つである神言魔法で行われる。これは言葉に魔力を纏わせ、相手の精神に干渉する魔法。


 メルンドルフ大司教は神言魔法を極め、一つの極大魔法を生み出したことで恐れられている。


 極大魔法ミスティルアリア……別名、贖罪魔法……


 この魔法は相手の罪悪感をひたすら増幅させ、償わせるというものだ。


 具体的には、いわゆる奉仕である。自殺などではない。


 ただ、この極大魔法の極悪なところは、寝食を投げ捨て、罪滅ぼしのために奉仕するというところだ。つまりたどり着く先は、餓死か過労死だった。


 しかも罪悪感の対象は人でなくても、なんでもだ。蟻でも、朝食として食べた野菜でも……


 蟻一匹を踏み潰して罪悪感を感じていたら、ひたすら死ぬまで蟻の世話をする。


 野菜を食べて、命を頂いて申し訳ないと感じていても同じだ。


 何かに罪悪感を感じたことがない者など、ほぼ皆無だろう。しかもこの極大魔法は記憶の彼方に忘れ去ったはるか昔の罪悪感だろうと、引きずり出す。


 ただこの極大魔法は、使い勝手が悪い。女神像を顕現させ歌わせ、敵味方無差別に干渉するからだ。そこで生み出されたのが、肩たたきバージョンである。


 この大司教に肩を叩かれ「罪を償いなさい」と囁かれたら、悲惨な死が待っていると、教会関係者からも恐れられている。


 最高位の教皇ですら、この人には命令などしない。現実的に女神教における陰のトップがこの人だった。


(クッ、まさかメルンドルフ様を呼びつけるとは……腐ってもガルディック帝国か……)


 あのような皇太子を抱えてなお健在なガルディック帝国の権威に、恐れを抱くと同時に、苛正しい気持ちになる。


「大司教、娘は?」


(何て呼び方をするんだ。大司教猊下と呼ばんか。この罰あたりな、セクハラ皇太子め。いや、もはやセクハラなんて言葉では生ぬるい。略奪下種野郎だ)


 私はこのセクハラ、いや日本だったら強制わいせつで逮捕されているであろう皇太子を、心の中では略奪下種野郎と呼ぶことにした。


 目をつむりながら、聞き耳を立てる。


「もう大丈夫でしょう。女神もそうおっしゃっておりました」


「女神様が、ですか?」


「ええ、なぜか神言魔法が効かなかったので、女神に奏上したのです。おかげで魔力が空になりました。ですが、女神から悪魔は去ったとのお言葉を頂きましたので、大丈夫でしょう」


(なんてことだ。女神の騎士たる私が、女神に尻拭いをしてもらうとは……)


 自分の愚かさに、今すぐにでも女神に謝罪をしたくなる。だがこの幼女の魔力では、言葉を届けることはできないだろう。


「このような深夜に、ありがとうございました」


(な、なにぃぃぃ! 夜だとぉぉぉ! まさかメルンドルフ様が就寝中のところを呼びつけたのかぁぁぁ!)


 私はガルディック帝国の恐れを知らない振舞いに、冷汗が流れるのを感じた。


(やっぱり、こいつは馬鹿だ。教団にそのような貸しを作って……いくらガルディック帝国とはいえ、ただでは済まないぞ)


「礼ならば、そこにいるマリアテーゼ様、いや、亡きヴェスティーナに言うことです。彼女の功績があったからこそ、我々教団はレストランデ王国の者の言葉を聞き入れるのです」


(へ? そんな……まさか自分のミスに、自分の功績を勝手に使われるなんて……)


 私は、複雑な気持ちになった。いやそれどころか、どこか損をした気分だ。


「ヴェスティーナ……」


 略奪下種野郎が、苦々しく呟いた。


「それでは、これにて……」


 メルンドルフ様が去っていく足音が聞こえる。


(待って、待って下さい、メルンドルフ様! どうかこの略奪下種野郎に、猊下の極大魔法を、極大魔法を喰らわせてください! 私の功績全てと引き換えにしていいですからぁぁぁ!)


 私の願いは届かなかった。

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