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第3話

(や、やってしまった)


 私は、迂闊というか、考えが足りないというか、昔、いや前前世の藤崎恵麻のころからそういうところがあった。だから正直、良い人生では無かった。


 藤崎恵麻だった私は、何もかも並みの娘だった。何か特技があるわけでも、美少女と呼ばれるような顔でも、モデルのようなスタイルでもなかった。並みの大学に入学し、このまま並みの人生を歩んでいくのだろうと思っていたとき、彼氏ができた。三つ上の一流大学の人だった。当時はサークルの合同コンパが流行していて、そこで知り合った。怪しむべきだった。私にはもったいないほどカッコよかった。彼にとっては、マンネリ解消の遊びだったと気付いたときには、深みにはまっていた。愚かにも私は自殺した。大学に入学してから半年後のことだった。


 ヴェスティーナ・フォン・ルデンブルクとして転生したときもそうだった。藤崎恵麻だったころの記憶に影響され、男への対応を間違えた。私のせいで家は没落し、母は心労で病気になり、早くに亡くなった。唯一良かったのは、魔王を単独討伐したという功績を、最後に残せたことぐらい。母が死に、私も死に、残された父と弟は苦労しているかもしないが、もしかしたら私の功績で、出世しているかもしれない。そうであって欲しいと思う。


 私は、前世のことを考えながら寝台の上でうずくまり、騒ぎを眺めていた。


 不寝番の若い女性の叫びに、衛兵が駆けつけた。


 無駄に広い部屋の中のすべての明かりが灯され、捜索されたが、不審者が見つからないと、衛兵はすぐに部屋をでていった。


 かわりにやってきたのは、身分の高そうな格好の女性と年配の大人たちだった。


「アメリア侍従長」


 不寝番の女性が身分の高そうな格好の女性に声をかけ、なにやら話している。きっと、説明をしているのだろう。


「エリストレア様は、確かに少し足りないところがあります。しかし、そのようなことを言うのは、さすがにおかしいわ」


(おい、アメリア侍従長とやら、聞こえているぞ……)


 だが、おかげで名前がわかった。


(エリストレア、エリストレア、私の名前はエリストレア……間違っても、ヴェスティーナと名乗らないようにしなければ)


 間違えないようにしなければと、何度も名前を頭に刻み込む。そしてしばらくの間は、馬鹿な幼女のふりをしなくてはならないのかと、泣きたい気持ちになった。


 さて、ここでごまかすことは、なんとかできなくはない。私がとぼけて否定すればよいのだ。ここは身分社会だ。上位のわたしがとぼければ、不寝番の女性が勘違いをして騒いだことになる。


 だが、それはできない。ここまでの騒ぎになったら、単なる勘違いで、「ごめんなさい」では済まないからだ。この不寝番の女性の、今後の人生を踏みにじるような行為は、断じてできない。これは私のミスなのだ。だからこの後、私に対して張られるであろうレッテルは、きちんと私が受け止めなくてはならない。


 覚醒初日どころか、覚醒数分でやらかしてしまったと、いたく反省した。もう遅いが……


「クロッグ先生」


 アメリア侍従長がわたしの近くに来ると、一人の白衣の男性に声をかけた。どうやら専属医らしい。私は、クロッグ先生と向き合わされた。


 クロッグ先生は、私の脈を計り、熱を測ると、口の中を見て、喉を触診する。


「姫様、失礼いたします」


 クロッグ先生が一言わたしに断り、私の頭を見始めた。きっと頭をぶつけて、おかしくなったのかと思っているのだろう。


 そのとき部屋の向こうから、複数の足音が聞こえてきた。


(また、おおぜいやってきた。どれだけの大事になっているんだ……)


 姫と呼ばれるくらいだから、私がいるのは宮殿だろう。騒ぎが宮殿中に広まってしまったのかと、恐ろしくなった。


「エリスは、エリスは無事なのか?」


 男の声が聞こえてきた。その瞬間、私の心は衝撃に震えた。


 そして、体は強張り、心臓が激しく脈打つ。心の中に、どす黒い炎が沸き上がり始めていた。


(こ、この、この声は……)


 忘れるわけもない、私の不倶戴天の敵……


 男が近寄って来た。あきらかに高価な靴と寝間着のズボンをはいているのが分かる。


「皇太子様、どうぞ」


 クロッグ先生が、その場を退く。


 私は、唇をかみしめた。


 男がわたしの前に立つ。


 私は拳を握りしめて、顔を上げ、男の顔を見た。


 癖のある金髪、顔をはよいが、取り繕うことを知らない軽薄な面持ち……


 私は、寝台の上で立ち上がる。憎悪を込めて、男を睨む。


「なしぇ、きあまきゃここにいりゅ。せくららこうたーし!(なぜ、貴様がここにいる。セクハラ皇太子!)」


 私は、魔力を全力で活性化した。

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