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目覚め


まるでスイッチが入ったかのような突然の目覚め。明かり一つない真の闇は瞬きをしても何も見えず、手探りで自分の置かれている状況を確認する。

冷たい床に冷たい身体。左手首に張り付いている硬質の輪っか以外、自分が真っ裸なのだとわかった。


(何が…あった?)


記憶にあるのは全てを掻き消す程の強い光のみ。

眠る前どころか名前すら思い出せなかった。


「あ…あー…だれ?」


間抜けな問いかけに答える者はいないようだ。

上体を起こして四つん這いになる。左手首の腕輪状の物を外そうとするが、骨と一体化でもしているのか、まったく外れる様子がなかった。


(なんっ…だよこれ。石?金属みたいな――え?)


そこで囚われている可能性に思い至り、急激に不安が広がる。パニックになりそうな瀬戸際で、つま先が何かに当たった。


足を伸ばしていくと、何かが倒れた音がする。するととても小さな光が現れ、すがるように身体を捻って覗き込んだ。


文字だろうか?ガラス質の表面には見た事もない文章の後に矢印が描かれている。指先でなぞると光が溢れる小さなガラス板は僅かに動いた。


(…っ!なんでもいい!もっと明かりを!)


震える指で押し込むと、カチッという音と共に、光は白から緑へ変わる。直後に眩い光が溢れ、キツく目を瞑った。


しばらくして目が慣れてくると、ゆっくり瞼を開けてみる。手の中には長方形の箱の上に、半球状のガラスが付いた謎の装置があった。


(なんだこれ?スノードーム…じゃないよな)


中で舞っている光る粒子が、周囲を照らす。それを頼りに辺りを見渡すが、見覚えのない部屋だった。


部屋は八畳くらいの広さで、灰白色の天井や壁が見える。用途不明の物が散乱しており、正面の両開き扉は外からこじ開けられたかのように、内側へ歪んでいた。


(寒…何か服は?――っ!?)


振り返れば今にも倒れてきそうな、高さ二メートル程の円筒形ガラスケースがあり、その奥からは天井が抜けて土砂が雪崩れ込んでいた。


(ここに入っていた?俺は…)


理解出来ない状況に頭を悩ませるが、答えはなく、足元に注意しながら部屋を出た。




薄暗い通路は廃病院を彷彿とさせ足が竦む。僅かな音も反響して広がり、不安が募る。


(床冷たっ!このままじゃ風邪引くぞ。明かりもいつまで持つか)


意を決して進むがすぐに分かれ道になる。何処も酷く荒れていて、砂利を踏んだ足が痛んだ。

正面の通路は瓦礫の奥に生き物のような塊が見え、左の通路の先には部屋の扉が見えた。


(なんだあれ…死んでる?ってかデカいな…とりあえずここを素足で登る気にはならないな)


左の通路を進み、僅かに開いていた扉の隙間から中を覗く。その部屋にはベッドがあり、見るからに人骨と思しき物が横たわっていた。


(いきなり死体か…でもなんか妙に整っているな。ベッドシーツも綺麗だし、作り物か?)


軽く押すだけで音も無く開いていく扉。中へ入ると手前の壁際に衣装棚のようなものがある。試しに一番上の戸棚を引くと、中には女物の服がいくつか掛けてあった。


不思議な質感のワンピースやシックな色合いのドレス、スリットが大胆なスカート等を横へずらしていくと、白衣に似たものを見つける。前後を確認したり匂いを嗅いでみるが、無臭でホコリっぽさや汚れ等はなかった。


(縫い目が見当たらないけど、材質はなんだ?化繊?)


少し迷った後、それを羽織り他の引き出しを確認する。やはり女物の衣類が一通り入っているようだ。


ボロボロに炭化した本が並ぶ棚や汚れたカップが置かれたままのテーブルも確認するが、どれも知っている物とどこかが違っていて困惑する。そこではたと気付く事があった。


(記憶?さっきからいったいなん何の記憶と比べていた?)


名前も何も思い出せないのに、知らない世界が脳裏をチラつく。手に触れていた物を取り上げて覗き込めば、そこには知らない顔があった。


(こんな顔してたんだ…)


背中まで伸びた灰色の髪に淡褐色の瞳、特徴のない中性的な顔。歳は二十歳前後で、やや痩せ気味の身体は百七十後半といったところ。目立った怪我もなく、体調も悪くない事からひとまず安堵した。


鏡を戻すと側にあった赤い紐で髪を纏める。屈む度に視界を遮られ、鬱陶しかったからだ。


その後ベッドへ近づき、恐る恐る覗き込む。自身と同じ白衣に汚れたダイビングスーツのようなものを着た白骨死体は、変わった形状のサングラスを掛けていた。そして左手首には同じ腕輪が嵌められている。女にしては骨格が大きく、男物と思える靴がベッド脇に置いてあった。


(どうするか…めちゃくちゃ嫌だけど、怪我して歩けなくなったら詰み、だよな)


よく確認してから履いてみる。縫い目のない材質不明の靴は、思っていたよりも良い感じだった。


「よし…次は――ひゃい!?」


振り向いた先には姿見があり、白衣に靴だけの自分の姿に心臓が飛び出しそうになる。口を抑えてしばらく硬直していたが、何かがやって来る様子はなかった。


(これじゃだたの変質者じゃないか…)


壁掛け棚から折り畳まれてあったタオルを取り、腰に巻き付ける。さらに奥の部屋を覗くとそこはかなり広い空間で、様々な装置らしき物で埋め尽くされていた。


中央には大型の円筒形ガラスケースがあり、中に人影が見える。それを避けて周りから調べようとした途端、部屋の四隅にあった非常灯が点灯した。


(なんだなんだ!――って…女?)


装置のいくつかが連動して起動し始めると、液体で満たされたガラスケースがライトアップされて、全裸の女性が浮かんでいるのが見えた。


液体が排出されて気泡が増えていく。カウントダウンのようなアラームが鳴る中、慌てて入口に引き返すが、ガラスケースのドアが突然開いて抜け切らなかった液体と共に女性が流れ出して来た。


「うわっとととっ!」


びしょ濡れになりながら受け止めた身体は、氷のように冷たい。顔に掛かった薄緑色の髪を払って顔を確認してみれば、作り物かと疑うほどに美しく整った顔立ちをしていた。


(綺麗な人だな…欧米の人かな?いやそれより生きてる?)


寒さに震えていると、装置が停止した音にビクつき、女性を滑り落としそうになる。支え直した際に彼女の左手首に付いていた腕輪に触れて、強い衝撃を感じた。


(なんだ!?ゴーレムクリエイト?――っ!)


直後に腕の中の女性が目を見開き、その緑色の瞳を見た瞬間、意識が遠退く。強い怒りと憎しみ、激しい後悔、絶望の末に救いを求めてその手を取った。


ハッとした時には全裸の女性と手を繋いで、見つめ合っていた。


「…っ!ごっごめん!」


今更ながら慌てて顔を逸らす。女性は何も言わず、ただ繋いだ左手へ視線を移し、右手で腕輪に触れる。すると表面に光が走り、文字らしき物が浮かんだ。


「え?…ティナ?」


読み上げてみるとそれが彼女の名前だとわかった。そして自分の腕輪にもハルと書かれていた。


「俺の名前?ハル…さっきのは?」


先程呟いた言葉を思い出そうとするが、お互いに震えている事に気付く。


「不味い、服着ないと」


隣の部屋へ連れて行き、タオルをまとめて引っ掴む。それを差し出してもなかなか受け取らないので、濡れた髪を拭いてあげる。再び見つめ合いそうになるが、押し付ける様にタオルを渡した。


背後から聞こえてくる衣擦れの音に、落ち着かず他の事を考えようとする。しかし無視すればするほど気になってしまう。少しして背中に感じた手の感触に振り返ると、緑樹柄のワンピースを着たティナが左手を差し出していた。


肩まで伸びた薄緑色の髪はまだ湿っぽく、ほとんど濡れたまま着替えてしまったか、服も身体のラインに沿って張り付いてしまっている。伏せた目は潤んでおり、緑の瞳はハルの腕輪を捉えていた。


その姿に見惚れるハルは、無意識に彼女の差し出された左手に触れる。すると様々な情報が頭の中へ流れ込んで来た。


(うっ!――ホムンクルス?ゴーレム…オートマターって)


断片的な映像と強調される単語。動物と触れ合う彼女が振り返り、誰かに向かって手を振っている。そこへ何かが降り注ぎ、血を流して横たわるティナ。最後に光が全てを飲み込み、一人取り残された機械仕掛けの女性が手で顔を覆って泣いていた。


混乱する頭を抱えて蹲ると、優しい手つきで頭を撫でられた。今見た事から推測するに、目の前の女性は人ではなく、ティナという女性に似せた自動人形らしい。


(人じゃない?っていうかこの腕輪は…)


腕輪を確認するも特に変化はない。少し目を離している間に、彼女はベッド脇のドレッサーから淡く光る水晶体を取り出していた。


それを受け取ると光が部屋全体に照射され、半透明の男が現れる。


「…見えているだろうか?もう時間がない。必要な事だけ伝える――」


白衣を着た中年の男の姿を見て、無意識にベッドの白骨死体へ視線が移る。そうしている間にも男は彼女の可能性について語り出した。


男は人造生命体ホムンクルス研究の第一人者で、死んだ娘から摘出した胚を元に、世界初のホムンクルスを生み出したという。

それは生物的進化が止まり、出生率の低下が著しい人類にとって希望であり、未来なのだそうだ。

しかし外界では長く生きられない事がわかり、ゴーレムコアに格納されて自動人形オートマターの核として延命させたらしい。


荒廃した世界に適合出来るようになるまで、どれほどの時間が掛かるかもわからず、男はホムンクルスの娘を守り導く役目の者を召喚したようだ。


「…なんだって?」


突拍子もない話に呆然となるハル。もっと情報が欲しかったが、ドレッサーを中心に周りを調べてみてもひび割れた水晶体がほとんどで、無事な物は二つだけしかなかった。


しかしそれらを再生していくつかわかった事がある。


魔法が存在するこの世界で、人類は科学的魔法技術を発展させて栄えていたが、星の生命力を吸い上げ集積する魔導機関アトラスによって、荒廃させてしまったようだ。


生物が住むには厳しい環境の地上から離れ、アトラスに支えられた天上都市ルナリウムガーデンに移り住んだ人類。彼らは電脳化し、アトラスから供給されるエネルギーで活動するゴーレムを操り、都市の機能を維持していた。


都市では中央管制棟に集う中央議会が権力を持っており、不老不死研究から派生したホムンクルス研究を命じられた男は、進化生物学の研究者だった娘のティナと共に、都市から離れた地上の研究棟で生活していた。


しかし都市で何らかの問題が発生したようで、ゴーレムが人類を襲い始めてティナは命を落とした。


研究棟を閉鎖した男は、アトラスの膨大な力を使って異次元から召喚される者に、娘の電脳メモリーを移植したホムンクルスを託したらしい。


「ゴーレムクリエイトってのは、つまるところ異世界召喚された者に与えられるスキルみたいなもので、左手首の腕輪が発動のキーになっているのか。この力を高めていけば彼女を完全な存在にできて、世界が救われれば俺も帰れる?」


しかし男の姿は時折乱れたり、映像が飛んだりしていて、何かの意図を感じてにわかには信じられなかった。それを繰り返し見ている間ティナはずっと黙ったままで、じっとこちらを凝視してきている。何か言おうとした時、ハルのお腹が鳴いて空腹を訴えていた。


(…とにかく今だ。今この状況を何とかしないと)


まず手始めにゴーレムクリエイトを試してみる事にした。左手首の腕輪を見つめながら念じてみると、部屋の中の物質の詳細が視界の中に表示される。


「おぉ!――ってほとんどわからないじゃないか…そうか。経験が足りないのか?」


記憶にある知識から、経験を積みスキルアップしていく事で見えてくる物があるとわかった。


「ティナ、さん」


映像の姿から二つか三つ年上に見えた彼女に呼びかけ、奥の部屋を指差して移動する旨を伝えると、後を付いてきてくれた。


(ちょっとだけ心の余裕が出来た気がする。しかし映像の女性はだいぶ活発な感じだったのに、その女性の記憶を移植された彼女はまったく喋らないな…まさか話せない?)


ティナがいた部屋を隈なく調べて、奥の装置からこぶし大の核を三つ見つける。水晶体――メモリーコアに出てきた男が言っていた、暴走しないよう改良されたゴーレムコアらしい。


「一か八か…あれ?スキルに反応しない?」


一対の翼が青い核を包むゴーレムコアを左手に持ち、ゴーレムクリエイトを念じてみるが何も起きなかった。他の甲殻に覆われたコアも、爪に掴まれたコアも同様で、スキルレベルが足りないようだ。


「おいおい…守ってくれるゴーレムがいないまま外に出て大丈夫なのか?まさか俺が戦うの?」


冷や汗が流れる。背後のティナを見てみると、微かに困ったような表情をしていた。


(いや…まだ他にあるかも知れない)


他にないか最初の部屋まで戻って探すと、ガラスケース前に転がった衣装箱を見つける。中には男物の服に靴と、肩に斜め掛けするスリングバッグが入っていた。


「なんでこれがここに?」


ティナの父親の物にしては小さく、ハルには丁度良いサイズで、ティナの服とは違って記憶にある世界のデザインに近かった。


まるでハルが召喚される事が決まっていたかのようで、注意して見つけていればティナのいた部屋まで順当に事が進むよう、お膳立てされていたかのようだ。


(蹴飛ばしてしまったか…さむっ!早く着替えよう)


ボクサーパンツとスキニーパンツ、Tシャツにトレーナーとマウンテンパーカー、靴下と運動靴を履く。スキルによれば、スリングバッグはマジックバッグになっており、質量に応じて三百キロまで収納出来るらしい。


「マジックバッグ!すごいな…?」


それが何かわからないでいたのに、急に記憶が蘇えり興奮している自分に困惑する。度々繰り返されるその現象に気が休まらない。


(元の世界の記憶なら、自分の記憶なんだろうけど、まるで知らない誰かが俺の中にいるみたいだ)


気を取り直してガラスケースに触れてみる。その後スリングバッグを意識してみたが、何も起きなかった。


次に固定されていない装置を触ると、光の粒子となって消えていった。


「出来た?中は…なるほど。こんな感じなんだ」


スリングバッグに触れただけで、中の収納物が頭の中にリストアップされる。今収納した物は、壊れた浄化装置の一部だったようだ。


その後、全ての部屋を行ったり来たりしながら、必要そうな物を掻き集める。特に最初の部屋に散乱していた素材等は優先して回収した。


「識別出来ない物質はスキルアップに必要なんだろうけど、この調子で入れていったら、300キロなんてすぐいっぱいになるぞ」


そう言いながらもティナの衣装棚は丸々回収した。

なんとなくそうすべきだと感じたからで、ティナも喜んでいるように見えなくもない。他に動力不明の照明装置や蓋を捻れば水が出る容器、開くと発熱する金属板等、魔法の品のような物も入れた。


「半分くらい埋まったし、これくらいか?」


最後にベッドの人骨――ティナの父親に別れを告げようと思ったが、ティナは特に思う事もないのか、ただ見下ろしているだけで何もしない。その様子に違和感を感じたが、シーツを頭まで掛けてから部屋を出た。


(食料がない…ティナも食事が必要なのだろうか?)


通路を引き返し瓦礫の奥を覗き込むと、砕け散った何かの骨と、それに覆い被さる人型の物体があった。


(これがマーダーゴーレム?あの骨はもしかして…)


進化生物学の研究者だった生前のティナには、可愛がっていたペットがいた。


(骨や周囲の状況からして、戦いの末に死んでしまったのだろう。もしかしたらその時にティナも巻き込まれて?)


骨を見下ろすティナはやはり表情一つ変えず、何を思っているかはわからない。


「完全に止まってる…よな?こいつが言う事聞けばいいんだけど…刺激しないように――ととっおわっ!?」


瓦礫を乗り越える際、足元の石がぐらつきバランスを崩した。転びそうになりながらゴーレムへと向かっていき手を着いてしまう。すると蹲っていたゴーレムの頭が動き出し、ハルに向かって振り返った。


(やばっ!)


身構えるも何も起こらず、そのゴーレムは立ち上がって見下ろしてくる。


(え?何もない?…もしかして?)


左手を見つめながらゴーレムへ下がるように念じる。するとそのまま後ろ歩きで下がっていき、奥の壁にぶつかって止まった。


「もしかして言う事を聞くのか?」


後から降りてきたティナに警戒した様子はない。

恐らく無意識の内にゴーレムクリエイトを使ってコアの命令を書き換えていたようだ。


改めて見てみれば、記憶にあるゴーレムのイメージとは違い、球体関節人形をゴツくした外見をしている。顔は無く逆三角形の胴体に太い腕、ゴリラのような見た目だ。


「大丈夫そうだな…たぶんティナの父親の筋書きとは違うんだろうけど、こいつを連れていこう」


制御出来ないコアはマジックバッグにしまってある。目の前のゴーレムに先を行かせるが、見覚えのある場所で立ち止まった。


「ここ…彼女が手を振っていた場所だ」


そこは広大な温室のような場所で、いくつもあるプランタースタンドに枯れた植物があるだけだった。

天井の一部には穴が空いていおり、地肌が覗いている。その事からこの施設が地中に埋まっている可能性が出てきた。


(どれくらいの月日が経ったらああなる?生き埋めにしては空気があるし、たぶん大丈夫だろう。それよりも…)


視線の先には崩れた壁へ寄りかかる人型ゴーレムと、大量の骨が散乱していた。


「あれも動くかな?」


ティナに問うも首を傾げられてしまう。中へ入り慎重に近づいていくと、ゴーレムの胴体は凹んでいた。


左手で触ると頭が動き出し、立ち上がろうとする。しかし直ぐにプランタースタンドを巻き込んで横転してしまった。


「どこか損傷しているのか?」


スキルを発動させると、頭の中にゴーレムの状態を示すステータスが表示された。内部のゴーレムコアに問題があるようで、修復に必要な素材のリストがポップする。


(便利だな…とりあえず直せそうだが、どうやって?)


ゴーレムの胸に手を当てていると、ゴーレムコアがボディを抜け出し手に収まる。白いコアの中央、ガラス質の表面に僅かな亀裂が入っていた。マジックバッグ内の壊れた装置をスキルによって解体。必要素材を費やして直し終えると、コアを元に戻して起動した。


立ち上がったゴーレムは一体目とは違い背が高く、手足が長いタイプのようで機動力は有りそうだった。


(よし…いいな。順調だぞ。後は…飯があればな)


通路に戻って先に進むと、ひどく破壊された食堂らしき場所に出る。ここにもゴーレムの姿があったが、溶解していて原型を留めていなかった。


そこから離れた場所には、半身だけ残った自動人形が転がっており、焼け焦げた姿から大きな爆発があった事がわかる。


(確かティナの世話係の自動人形がいたはずだ…)


状態を確かめていると、今まで無反応だったティナがその自動人形の半分消失した顔に触れる。表情は変わらないが、悲しんでいる事はわかった。


「ごめん…直せないみたいだ」


ゴーレムクリエイトに反応はするものの、何か重要なパーツが足りていないのか、修復に必要な素材のリストすら表示されなかった。


いつまでも離れないティナの様子から、その自動人形を回収する。修復の見込みもないが、何かの役に立つかも知れない。


一部が吹き飛んだカウンターから奥の厨房へ入る。ほとんどが腐っていたが、収納の片隅にあったフリーザーの中から、乳白色の粉が入った袋と小さな種が入った容器を見つけた。


(これはなんだ…ゴマ?非常食みたいなものか?他にはないし、持っていこう)


フリーザーごと回収すると、マジックバッグの容量が切迫しているのを感じる。


(おっと、もう少し吟味してから収納しないとな)


通路に待たせていたゴーレム達を連れてさらに進む。しかし何処まで進んでも明かりの外は真っ暗闇で、徐々に気が滅入ってくる。すると不安な心が伝わったのか、手を繋いできたティナから優しく微笑みかけられた。


(無事に抜け出せるだろうか?彼女を守り導く役目。俺が選ばれたのには理由があるはず…やってやるさ)


ティナの手をしっかり握り返し、真っ暗な通路を進む。

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