祭り【フィナーレ】
既に湖中心近くの界隈は人だかりが出来ていた。
今日の主役のために作られた台座はどの角度からもよく見えるようにデザインされている。
繊細そうに見えるそれはやはり魔族が作った物なのだろうか。
また上空へと舞い上がった白龍に乗り、2人は台座付近へと来ていた。
「大丈夫か?」
「…緊張してる」
「だろうな」
メナークは平然として見えるが、これだけの人だかりを前に魔王として立つことを何とも思っていないのだろうか。
いつも人とは違って飄々として見える彼だが、エアと付き合うことになったのも未だに謎である。
エアとしては彼の不器用な優しさに惹かれているのだが。
「とりあえず名乗りだけあげて黙っておけばいい。あとは俺が何とかする」
「わ、分かった…」
「行くぞ」
ス、と角度を付けて勢いよく降りる白龍からアイギスを抱き上げたまま台座へ着地したメナークに衆目が集まる。
その瞬間場が一気にざわついた。
「白龍だと!?」
「歴代でも龍とは…」
「龍の中でも高位じゃないか…」
それだけでもメナークの実力を測ったらしい者たちは声を漏らしている。
メナークが立ち上がり、横にアイギスを下ろすと今度はシンと静まり返った。
既にメナークの力量の前に気圧されているのだろう。
{此度の魔王、メナーク・フォンクレアである}
ピリ、と空気が震える気がした。
「妃のアイギス・フォンクレアです」声が小さくなった。無理だ!
そそくさとメナークの横に戻って、プルプル震える足を抑えつける。
あぁ、今ならスヤスヤ寝ているであろううちのジャンガリアンハムスターと代わってしまいたい。
チラと横を見上げると、臆する様子もなくメナークは言葉を続けている。
{この場へお集まり頂いた方々へまずは感謝を。そして気になっておられるであろう我の方針を伝え申し上げる}
方針。魔族は魔王の決めた方針に従って動くタイプの部族だ。
だから魔王が交代した今、メナークが決めた方針にしか皆従わない。
それで祭り前までは魔族側はあんなに静かだったのだ。
よくよく気配を辿ってみると、魔族側も静かなりに聞き耳を立てているのを感じられる。
{我はどの領地も侵犯する気はない。だが武には武を以て返す。悪意には正義を以て返す。謀りごとがあれば壊す。}
ザワッ…―!
恐らくこれは人間だろう。前代魔王とは全く違った方針、しかも弱者を守るような言い方に驚いたのだろう。
{我からは以上である。皆、祭りの続きを楽しまれよ。}
そのまま優雅に一礼したかと思うと棒立ちしているアイギスを抱き上げて、後ろに控えていた白龍にさっさと乗り飛び去ってしまった。
アオもギリギリ見えるか見えないか、台座を見上げていたのだが、あまりの素早さに何も見えなかったと後で語っていた。
「―…じゃないの」
「だが―が」
「どうせ―…が…」
影では何かが動き出そうとしていた。
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