祭り【彼女の場合】
落ち着いた様子の雅と違い、こちらエア宅。
「え、いや、何これダレこれ!?」
「いやだからエアなんだよね!?」
「私だけど!」
だけども!どうしてこうなった!
普段のエアは茶髪をサイドテールにまとめており、少し先に癖がある程度。
なのに今は綺麗な金髪で普段より随分長い髪にツインテールの強い巻き毛。
更に赤薔薇に黒リボンがおまけについている。
ドレスもヒラヒラだし黒地の裾に赤薔薇が舞っていてお揃いである。
まるでどこかの時代の姫とかにいそうだ。
目の色も普段は茶色、今は金の瞳。
金髪、金瞳、それは即ち――
「魔族の、妃だ」
そう、思い出した。
夢だと思ったけど本当だったんだ…
あの湖の中で雅と会って、キスして、それから―は、お、覚えてないけど。
あのとき恋人の雅もあそこにいた。それなら魔王なのは―
「雅…」
今どこにいるんだろ?まだ家にいるのかな?
でも本能的にこれだけは分かる。
魔王と妃が誰なのかを明かすのは非常に危険なこと。
そうでないと周りの人を人質に取られでもしたらあっという間に殺されてしまう。
なので魔族になっている間は元の名とは別の名前を持つ。
「…アイギス・フォンクレア」
勝手に頭の中に名前が浮かぶ。
「えっと、とにかく今は私、アイギスだから!そう呼んで!」
「あと危ないからアオはまた後で来て!」
バタバタと家を出ながら言い置いて、アイギスは喚ぶ。
「おいで!私の九尾ちゃん!」
コーーーン…と遠くから鳴き声が聞こえた気がしたら、彼女はもうそこにいた。
ゆらゆらと尻尾を揺らし、主人に乗るよう誘っている。
ふわふわのその背に乗ると、九尾は優雅に空に飛び上がった。