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第9話 売られた喧嘩は買いましょう

「ご主人様、さて招かれざる客人たちの処理はどのように致しますか?」

「そうね……」


 こういうとき悪の女王なら――気丈に、そして容赦なく平坦な物言いで対応する。

 そう彼らは、私の大事な家族を殺そうとしたのだ。そんな者たちに慈悲など与えてなるものか。凄惨な採決が必要なこれは、見せしめに他ならない。


「暗殺未遂の証人ですし、しばらくは屋敷の地下投獄に繋いでおいて――その後は死か、領民あるいは私の麾下に入るかの選択をあげましょう。足を洗って普通に暮らしたいのなら希望も聞くわ」


 今まで話を聞いていた暗殺者と魔女の表情が変わった。 

 エル・ファベル王国であれば、爵位を持つ相手に刃を向ければ死罪が基本だ。しかしここはスフェラ領であり、その法は伯爵家当主である私が決められる。

 だからこそ傲慢に、そして恩赦を与えられるだけの余裕を見せつける必要があるのだ。


「この領土で暮らすのなら再雇用までの保証をするわ。ただ領主として領土を損なう言動をした瞬間に死ぬ誓約書を書いて貰う」


 好き好んで暗殺あるいは殺し屋になった訳ではない者もいる。そうせざるを得なかった環境や生い立ちに踏み入ることはしないが、選択肢の幅を増やすことぐらいは出来るのだ。

 少なくとも私の屋敷にいる者たちの大半は、元殺し屋か暗殺者などの訳有りばかり。


「どれを選ぶかは自分らで決めなさい」


 もう一度だけ、どう生きるのかの選択肢を彼ら自身に返して上げたい。

 その選択肢がどれだけの恩恵なのか分かる者は、大抵この地に残る。この領土は複雑な事情を持つ者にとっては住みやすい場所なのだ。


 それだけ告げると、後の処理を執事長のハンスに任せて自室に戻る。

 廊下を出ると金髪碧眼の偉丈夫――ロルフが待っていた。忠犬かと思うほどケモ耳と尻尾が見える。


「ロルフ」

「自室に戻られるのか?」

「ええ」

「お供しよう」

「ふふっ、拒否しても付いてくるのでしょう」

「バレたか。……にしても、また屋敷に再雇用者を増やすつもりか?」


 二人きりの時、ロルフは少し砕けた言い回しになる。

 甲冑音を響かせながら隣を歩くロルフは問うたので、「さあ、彼ら次第よ」と言葉を返す。私は単に選択肢を少しだけ増やしただけだ。

 私の我が儘。

 気まぐれのようなもの。


「お嬢は、本当にお優しい」

「そんなことないわよ(悪女らしい振る舞いだったと思うけれど……失敗だったかしら)」

「お嬢の代ぐらいだぞ。雇用者が以前よりも倍に増えたのは」

「そう……だったかしら?」

「ウーテなんて手を繋いで屋敷の中に戻った時は――ひと思いに殺……いえ、屋敷も騒然とさせていただろう」

「中庭の噴水に引き摺り込んだのに、泣きながら殺せないというのだもの。放っておけなかったのよ」

「ヨハンナとリーンも暗殺で潜り込んだのに……」

「行き場所が無いし、呪いも掛かっているのは不憫でしょう」

「ロベルトも成り行きだったか……。節操なしと言われてもしょうがないと思うぞ」

「そのとおりです」

(クラウス、いつの間に!?)

「今の料理長や庭師、侍女たちも、お嬢様が連れてきたようなものです。その上さらに増やそうなどと……」


 私が王都に向かう前の、幼かった頃の話だ。

 それは結構な頻度だったので、父は再雇用専門施設を設立して住み込みでの働き口を作る制度を作り上げた。

 それによって三国に居場所がなかった人たちが衣食住を求めて領地を訪れるようになり、スフェラ領はさらに発展を遂げていったのだ。


「家族は多い方が楽しいでしょう。それに元々人手は足りなかったもの」

「そうかもしれませんが……」


 父の代では少数精鋭だったため、ハンスが料理なども担当していたのだ。門の護衛もゴーレムのティムとレオがいれば十分だった。稀に暗殺や殺し屋が屋敷内に入り込むが、大半は騎士団かクラウスに捕縛あるいは粛清される。

 その中で運良く生き残ったのが彼らなのだ。


(まあ、大半が私と関わった、あるいは人質にした結果、私が気に入ってしまったというのがことの顛末なのだけれど)


 父には「またとんでもないものを拾って来たな!」と頭を撫でられたものだ。それが誇らしくて、目に光を宿した者たちに手を伸ばしてきた。

 あくまでも私の我が儘で、気まぐれだ。


「いいですか、()()()()()になったことですし、これ以上は自重してくださいね」

(強調しなくても、わかっているのに……)

「みんなのお嬢だっていうのに、独り占め宣言か。拗らせ執事、いや道化師が」

「独り占めもなにもそう言う契約ですから、ポンコツは黙っていてください」

「誰がポンコツだ? 斬るぞ」

「ははっ、その剣で? ご冗談を」

「(またクラウスとロルフの言い合いが始まった)……それよりクラウスのせいで仕事が増えたのだから、しっかり働いてもらうわよ」


 私の宣言を挑戦状として受け取ったのか、クラウスは楽しそうに「勿論です」と言葉を返す。

 彼のせいでいろんな所に手紙を送ることになったし、領地内とはいえ場を整える必要も出てきた。


「それと開発中だった飛行船の進捗の確認も至急お願い」

「飛行船? ……ああ、なるほど。そういうことですか」

(今の発言で何もかも筒抜けなのが怖い……)

「承知しました、私の主人(マイマスター)


次回は明日更新予定ですo(≧∇≦o)(o≧∇≦)o

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