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第34話 黒幕の影

 私は「ジャックを客間に案内して」と言ったはずなのだが、ロルフに従って向かった先は地下牢屋だった。


(何故に!?)


 鉄格子越しにジャック・ド・フルノーと対面する。彼は拷問を受けた痕なのか両手の爪が可哀想なことになっていた。


 裏カジノで全勝無敗のディーラー、いやすでにヴォル様に負けているのでその看板に偽りありだが。本来ならラファエルおじさまに任せてもよかったのだが、彼には少し話も合ったので身柄を引き取らせて貰ったのだ。


「これは……領主様に拝謁が叶うとは思いませんでした」

「そうね。私も牢獄で会うとは思っていなかったわ」

「……それで何をお聞きになりたいのですか。ただのディーラーである自分のお話などあまり興味もありませんでしょう」


 こんな状態でもよく口が回るものだ。

 自分が死なない自信があるのか、あるいは生きることを諦めているのか。


「帝国の人間がスフェラ領に訪れていたのは皇帝の命令? それとも単なる物見遊山だったのかしら?」

「…………っ」


 今までヘラヘラしていた彼の笑みが削がれ、狂犬のような鋭い目つきに変わった。


「──私が帝国の人間だという根拠はあるのですか?」

「エル・ファベル王国の学院に在籍していたときに、留学生で()()()()という名家の子が居たのを覚えていたの。確か――侯爵家の三男が放蕩者だと聞いたけれど、こんな所でお目にかかるとは思わなかったわ。世間は狭いわね」

「そのようで。……それで?」

「帝国では特殊な薬を配合する薬師がいると聞いたことがあるの。例えば惚れ薬に似た効果を持つと同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そんな便利なものが……お嬢様、試しに飲んでみません?」

「飲みません!」

「……お嬢、今後あの道化師のお茶は、飲まない方がいいんじゃないか」


 ロルフが真剣な眼差しで訴えてくる。

 流石のクラウスもそんな下種なことはしないだろう。そう口にしかけたのだが。


「世の中には私の知らない摩訶不思議な薬があるのですね。勉強になります」

「…………クラウス」

「おや、私がお嬢様に一服盛るとでも思っているのですか」

()()()()()()()だと思いたい」

「そこは()()()()()()()でしょう。酷いですね」

「日頃の行いだな」

「黙れ、ポンコツ」


 クラウスとロルフがいがみ合いに発展してしまったので、私は慌てて話を戻す。


「ずっと引っかかっていたのよね。エル・ファベル王国にとって我が領地は、金の卵だというのにどうして手放すような言動を繰り返しているのか。歴代の当主たちの記録を調べて出てこなかったけれど、クラウスが面白い情報を見つけ出してくれたわ」

「ええ。ここ数日、エル・ファベル王国で情報収集を行った際に、宰相閣下の奥方が帝国の侯爵家の出身だったと知りまして、そこの名も()()()()()()()()()。エル・ファベル王国の有力貴族たちの次男や三男と婚姻を結び、身内になって少しずつその薬を多用し、スフェラ領が独立に向かうように百年単位で実行していたようです。これには私も驚きました。人族の寿命では百年単位の計画は破綻します」

「そう人族ならね。……スフェラ領の存在価値を貶める計画立案者は、皇帝を支える竜人族なのでしょう?」

「………」


 帝国がエル・ファベル王国の立ち位置を狙っているのなら、全面戦争を選ぶ手もあったが、それでは被害が大きくなるだろうし、食糧不足を懸念して搦め手を選んだのだろう。

 それが成し遂げつつある。


「帝国と王国は不可侵条約を結んでいるけれど、人身売買も未だ残っている。それらを潰すためフルノー家は邁進していた」

「……そうですよ。モルガナに近づいたのも、全ては人身売買が未だ行われているという事実をスフェラ領の当主に知らせるためだったのです。まさか獣王と魔王まで出てくるとは思っていませんでしたが」

「どうして危険な端を渡ったのかしら。もっとやり方はあったと思うけれど?」

「実害が出ていなければ腰を上げない可能性があったからです。自分やその家族がそうだったように……」

「ジャック・ド・フルノー。今はフルノーと名乗っていますが、幼い頃に両親の借金によってエル・ファベル王国の奴隷商人に売られて、のちにフルノー家に引き取られて養子になった経歴がありますね」


 クラウスはそっと私に耳打ちした。

 近い、と思いつつもなるほど、と。納得した。

 こうやって少しずつエル・ファベル王国を内側から瓦解させていったのだ。


 学院で私を悪女に仕立てたのも、帝国側が仕組んだものだったのだろう。でなければ身に覚えのないシーラ嬢への嫌がらせの証拠やら目撃者などねつ造させるには、あまりにもできすぎていた。


 あの時の私には知る力も人脈も、何も無かった。

 彼らからしたら私をスフェラ領に戻す口実を作りたかったのだろう。

 あるいは──。


「もう一つ、聞いておこうと思うのだけれど――私の父を事故死に見せかけて殺したのは、帝国側の人間かしら?」

「!」

「なっ」


 あの頃、クラウスの力は衰えていた。

 それは父の能力の限界だったのか、あるいは別の要因だったのかは不明だったがクラウスが消える前に次の当主との契約をさせることで、スフェラ領の特異性を保とうと考えていたとしたら、黒幕としてはあり得なくはない。

 その場の空気が凍りつく中、ジャックは疲れ切った顔で微笑んだ。


「さあ、自分は直接関係していないので、わかりかねます。……ただ、皇帝陛下なら遠大な計画を考えそうですかね」

「そう」


 口元を綻ばしたジャックの目を見た瞬間、彼が饒舌だった理由に気付いた。


「──っ、ロルフ、クラウス!」

「皇帝陛下、万歳!」


 私の言葉と同時にジャックが叫んだ瞬間――彼自身の体が突如発火し始めたのだ。

 体の内側から紅蓮の炎がジャックの体を焼き尽くし、モルガナの時と同じように火だるまになった。


 本来ならものの数秒で丸焦げだっただろうが、私がロルフとクラウスに命じたことでロルフは即座に鉄格子を破壊、クラウスが魔法で炎ごと消し去ったため火傷は負ったものの一命は取り留めたようだ。


「クラウス、これって魔法? それとも──」

「条件によって自動着火する術式でしょうね。モルガナの体に施したのは彼のようですが……それにしても、助けてよろしかったのですか。本人的には自害することが本望だったのでは?」

「確かに。自殺志願者までわざわざ助けなくていいんじゃないか」


 ロルフとクラウスの意見が珍しくあったようだ。騒ぎを聞きつけて駆けつけたロベルトが応急処置を行う中、私は倒れたジャックを見つめる。


「死んで罪を償うとか、命を粗末にする人間は嫌いよ。だから優しくない私は、彼が『死ぬのが嫌だ』って言わせてやろうと思うの」

「またお嬢の悪い癖が……」

「まあ、お嬢様と出会った段階で彼の命運は決まっていたのでしょう」


 クラウスの言葉にロベルトとロルフ、そして執事長のハンスと治癒魔法の使える料理長のウーテがその場にいたのだが、全員が「たしかに」と深々と頷いていた。


(なんだか酷い言われようだわ)


更新が途絶えていてすみません。



【完結】

呪われた歌姫メアリーは歌って全てを解決しますわ! ~両片思いなのに喧嘩ばかりで素直になれない二人は、お互いに誰にも言えない秘密があるそうです~


https://ncode.syosetu.com/n8735il/

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