第30話 急な来客は困ることが多い
屋敷に戻ったのは、オレンジ色の夕焼けが空を染めた頃だった。
何やら屋敷が騒がしく、馬車を降りると執事長のハンスが足早に駆けつける。彼は襲撃があった日でも落ち着いていたのだが、今日ばかりは焦燥を拭えない表情を見て嫌な予感がした。
「お嬢様、大変でございます。急な来客がありまして、すぐに客間へ来て頂けますか?」
「わかったわ!」
私はロルフとロベルトを連れて客間へと急ぐ。
客間で優雅にお茶を嗜んでいたのは、なんと昨日再会した魔王――ヴォル様だった。
人族の姿ではなく角と羽根を出して、自宅のように羽を伸ばしているではないか。
「ヴォル様!?」
「はははは、やあ、レジーナ。せっかくなので君の屋敷に厄介になろうかと思ってな」
(レティシア様といい、先触れを出すことを覚えてほしい……)
「我なりのサプライズだよ。驚いただろう」
「驚きはしましたが……。知らせを聞いておりませんで、遅い帰宅になって申し訳ありません」
「構わん。……それにしても面白い連中を取りそろえているな。退屈せずに楽しませて貰ったよ」
そう言いながらカードゲームやらチェス盤などがテーブルの上に散乱している。みんな頑張っておもてなしをしてくれたのだろう。
ありがとう、そしてご苦労様。
ハンスにお茶菓子とお茶を出すように指示を出して、私はソファに腰を下ろす。
「エミールは一緒じゃないのか」
「はい。彼は神出鬼没ですので」
「ここに寄ったのは、愚弟が面倒をかけるかもしれないと思ってな。あとレジーナ嬢に力添えをしてもいいと思ったからだ」
「……交渉日までヴォル様も待てないのですね」
「まあ、本当は昨日のカジノで君と勝負をしてみたかったのだけれど、邪魔が入ってしまったからね。少し遊んでくれないかな?」
この人もクラウスと同じく退屈が苦手なようだ。
私はテーブルに並べられたものを見て、チェス盤を取り出した。
「これでしたら、少しはお相手できるかと」
「なんだ、カードゲームを選ばないのか?」
「魔法でカードの数字を変えられたら、どんなイカサマ師でも勝てないでしょう」
ヴォル様は喉を鳴らして笑った。
「なんだ、バレてしまったのか。……それを含めた心理戦は楽しめると思うのだが?」
「でしたらチェスでヴォル様が勝ちましたらカードゲームをしましょう」
「面白い」
チェス盤を並べて静かに勝負が始まった。クラウスともよくチェスを指すけれど、勝ったことは一度もない。それはクラウスが勝負を付けることを嫌がり、引き分けにしようとするからだ。
クラウスはいつも私との勝負に決着を付けることを嫌がる。
もしかしたら私との関係をちょっとでも変えたくなくて、停滞を望んでいたのだろうか。
永遠なんて、この世界にありはしないのに。
時と共に人は変わる。
それは良くも悪くも変わりゆくもので止められない。
愛は不変と言うけれど違うと思う。
愛という呼び名は同じかもしれないけれど、思いの深さは違う。
チェスの駒を動かしながら、ふとそんなことを思った。
ヴォル様の差しかたは的確で無駄がない計算式のよう。淡々と駒を進め最適解を紡いでいく。
だから私は味方の退路を断つ方法で、その計算にエラーを生じさせた。
「ほう。そこに置いてはナイトをみすみす捨てる気か」
「そうかもしれませんね」
「あはははっ、ああ、なるほど、なるほど。エミールがレジーナ嬢を傍に置きたくなる理由がなんとなく分かってきたよ。君なら何か面白いことをしてくれる――そんなふうに思わせる」
「ありがとうございます」
計算式が狂った後はガタガタで、あっという間に私が勝ってゲームは終了となった。
拍子抜けしてしまうほどに。
「レジーナ嬢、君は専属執事を増やそうとしているんだって聞いたけれど、我にしてみてはどうかな?」
「…………はい?」
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読み切りです。
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