第25話 会いたくない人にしか会わない件
その日の夜はヨハンナとリーンたちの協力の下、社交界用のドレス――もっとも私の装いは父の死から一年間は黒服で過ごすと決めていたので、露出を抑えた黒のドレスにしてもらった。
連れ添うクラウスとロルフも黒のジャケットにベスト、タイ、シャツは真っ白で使用人と騎士の恰好から貴族らしい装いに。元々造形が整っているのもあり、かなり格好いい。
ふとロルフが帯剣していないことに気付いた。
「なんだか帯剣していないロルフを初めて見た気がする……。落ち着かなかったりしないの?」
「ああ、武器関係は体内にも搭載しているので問題ない」
(そうだ、機械人形だったのをすっかり失念していたわ)
ぽんぽんと頭を撫でるロルフは外出が嬉しいのか、いつになく上機嫌だ。
レティシア様は真っ白のドレスに身を包み、露出もかなり高いものの一応アトラミュトス獣王国の女王という立場は理解しているようで白いベールを被っている。
もっとも彼女を知っている人から見れば、ベールの意味はあんまり無い。ヨハンナたちもせめて白ではないドレスを提案したのだが、却下されたそうだ。
こんなこともあろうかと、認識阻害用のアクセサリーを付けて貰ったのでよしとしよう。私たちにはレティシア様に見えているが、第三者からは別人に見えている。
ロベルトは途中まで一緒だったが、ラファエルおじさまの元に向かうため別行動になった。
馬車で着いた先は、思いのほかオレンジ色の煌びやかな一流ホテル風の建物だ。このホテルの支配人はモルガナとは異なり、地下一階から三階にかけて裏カジノの場所を提供して貰っているらしい。父のサインと印が、ある契約書が本物なら別段このぐらいできても可笑しくはない。
(わぁ……!)
魔導転送によって地下一階に赴くと高い天井にシャンデリアが目映い光を放ち、黄金と赤を基調とした絢爛豪華だが悪趣味な空間が広がっていた。
カード、スロット、ルーレット、クラップス、闘拳賭けなど異様な熱気と耳を塞ぎたくなるようなテンポのよい音楽、賑やかな声、声、声。
(耳に来るわね……!)
社交界やサロンとも違った雰囲気に面食らってしまう。もし素の自分だったら、その場の空気に呑まれて座り込んでしまったかもしれない。
悪女の仮面を付けているおかげで平静を保ち、周囲を見渡す。
(さて、問題のディーラーは……)
ふと見覚えのある顔が視界に入る。トランプゲームに勤しみ、金貨を詰む壮年の男。
紺色の丈の長いジャケット姿の魔族を私は一度見たことがあった。
できることなら他人の空似であってほしいと思ったのだが、現実はそう甘くはない。
(あーーーーーーーーーーーー、あの方は……もしかしなくても……)
「兄様がなぜここに……」
「あ☆魔王もお忍びとはね~」
(はい、魔王様確定しました! 確認ありがとうございます)
このまま見なかったことにして踵を返したい気持ちになるが、そうも言っていられない。いや本当に国の代表が何をしているのか。
頭が痛くなったがこれも耐えた。
(お家に帰りたい。お家に帰ってウーテの美味しいケーキを食べて、お風呂に入ってベッドにダイブしたいっ!!)
「お嬢様、現実に戻ってきて下さい」
(ぐすん……っ、ってそうだったわ。ここでは領主らしい姿を見せつけなければ!)
魔王様は角や羽根を隠しており完全に人族の姿で、カードゲームに興じている姿は実に楽しそうだ。ディーラーである青年が脂汗を流している。
「お嬢様、あのディーラーがジャック・ド・フルノーです。蜘蛛の糸を張り巡らせて獲物を狙っていたのでしょうが、相手が悪かったようですね」
(距離が近い……)
耳元で囁くクラウスの声は、ディーラーを心底哀れんでいた。
あのディーラーも相手取っているのが魔王だとすれば、裸足で逃げ出したくはなるだろう。その点に関しては同情する。
(あれがフルノー。もしかしたらって思っていたけれど、実物を見て確認したわ。彼は帝国の人間ね。でもなんで?)
魔王様とディーラーはブラックジャックを行っているようだ。
ディーラーよりも合計数が多いと勝ちだが21を越えると負けという比較的単純なものだが、心理的な要素も影響するため、上級者向けのゲームだ。
またイカサマをしているのなら、基本的にディーラーに軍配が上がる。亜人族たちをも騙せたのだから相当の場数は踏んでいるのだろう。しかし眼前に相手取っているのは、あのクラウスの兄である魔王様だ。
小細工が通用する相手ではないだろう。
「倍賭けよう」
「なっ(馬鹿な。表に見せているカードは3、9。伏せているカードはKですでに21を越えている。それなのにサレンダー(降伏)せずに勝負するというのか? 今までの大金をドブに捨てるつもりなのか?)」
ディーラーの表情がやや固いものの、勝負に出るようだ。
「勝負です。自分はAと9で20」
「我は3、9と――9だ」
「な、はっ!? そんな確かにKだったはず」
「何を言う。我が見た時からこの数字はずっと9だったぞ」
「イカサ――」
「証拠は? 何よりなぜディーラーである貴様がカードの数字を知っている? そちらのほうがイカサマを使ったのではないか?」
「ぐっ!」
どういう魔法を使ったのか不明だが、ディーラーがイカサマを使うのなら、魔族は魔法を駆使して対応するだろう。
たとえばカードの数字を別に変える――など魔王様であれば造作も無い。もちろんイカサマだがそれを証明できるかはまた別問題だ。
イカサマはイカサマだと証拠が無ければならないし、そもそも伏せているカードをディーラーが知っているのを言及されてしまえば、窮地に陥るのはディーラー自身だ。
ディーラーは負けを認め、倍以上の金貨を魔王様へと差し出す。
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