表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/35

第24話 仮面を外した私

「あーーーもーーーーうーーーー。次から次へと問題が出てくるぅうう」


 私はベッドに身を投げて愚痴を漏らした。レティシア様を客室に案内して自室に戻った瞬間、悪女の仮面を外す。


 常に凜として、自信に満ちた悪女らしさに慣れてきたとは思う。しかし素に戻ると一気に力が抜けて、何もやる気が起きないダメな令嬢へと逆戻りする。


(無理無理無理ーーーーー。今更心臓がバクバクするんだけれどぉおおおおお)


 ヨハンナは苦笑しつつも、話を聞いてくれるので、安心して愚痴を零せるのだ。

 零しすぎると窘められるけれど。


「それにしてもあのクラウスが、裏カジノの件をお嬢様に話していなかったことに驚きました」

「みんなは知っていたの?」

「いえ。そう言うわけではないのですが……。この手の報告なら真っ先に面白がって報告するのでは? と思ったのです」

「ああ……そっち(たしかに面白いこと大好きなクラウスが、見逃すとは思えない。いや、この場合、事態がさらに面倒な方向になった頃に、何食わぬ顔で『実は~』と言い出して私の反応を楽しむためなのでは?)」


 そう考えると、ストンと腑に落ちた。

 クラウスは私の執事である以上、私に害をなすことはしないだろう。ただ私が悩み苦しむ様を見ることに、愉悦を感じている節がある。


 今のクラウスはスフェラ領というおもちゃ箱に、次々と見たことのない包装紙に包まれたプレゼントが届いている感じなのだろう。楽しくて、目を輝かせる子供の心境に違いない。

 けれど少しだけ、本当に少しだけ胸がチクリと痛んだ。


(分かっている。クラウスは退屈を紛らわせてくれる人がいるなら誰でもいい。娯楽に飢え退屈を嫌う魔族。……私は家族を守りたかった。クラウスに消えてほしくなかった。それが叶ったのだ――それ以上を求めるべきじゃない)


 胸の澱に沈殿する感情は芽吹かせず、風化させてしまう方がいい。

 あるいはレティシア様の言葉通り婿探しをすることで上書きしたほうが、生産性はあるのかもしれない。


(まあ、どちらにしても裏カジノの件と、交渉日の準備に集中しないと! 胃がキリキリするけれども……)

「どうやら前伯爵当主のサインと特別な印を真似て裏カジノの一角を買い取ったのが、一週間前。それからあるディーラーを雇い、今のところ全戦全勝だとか。ディーラーの名前はジャック・ド・フルノー、エル・ファベル王国出身のただの人族のようです」

「(フルノー……)――ん??」


 やたら声が近くで聞こえるので顔を上げると、すぐ傍にクラウスの顔があった。

 吐息がかかりそうなほど近い。ギョッとしてしまったが、すぐさま悪女の仮面を被った。


「近いわ、クラウス。そして急に現れないで!」

「これは失礼しました。お嬢様の驚く顔が見られるかと思ったら、つい」

「なにが、つい、よ」

「しかし思っていた以上に違法行為を繰り返しており、裏組織のボスであるラファエル様も動くところだったようです」

「え……ラファエルおじさまが」


 ラファエル・グレルマン。

 スフェラ領の裏組織の総括であり父の古い友人であり、レティシア様の親戚に筋に当たる。

 アトラミュトス獣王国に居られず、彷徨っていたところを父が声をかけたという。


 義理人情に厚い人望もある人だが、戦闘となるとド派手にやらかすので、その前に情報を掴めたことは幸いだっただろう。


「そう。……独立宣言をした以上、伯爵当主ではなく領主として闇組織の方々に名前を覚えて貰うには、ちょうどいいかもしれないわね」

「確かに。お嬢様を怒らせたらどうなるのか、知らしめるには都合がよいかと」

「それじゃあ、レティシア様に今夜向かうことを伝えておいて」

「かしこまりました。……ところで護衛として連れて行く人数は、いかがしますか?」

「戦争をしにいくわけじゃないのだから、私とクラウス、ロルフ、レティシア様でいいでしょう。ロベルトにはラファエルおじさまに伝言を頼んで、いざという時の援軍に来て貰うようにするわ」

「ではそのように」


 部屋を立ち去ろうとするクラウスの背中に、私は声をかける。


「クラウス」

「なんでしょう?」

「……貴方はこの件について、知っていたの?」

「まさか。私も此度の交渉の方に気を取られて、気付いておりませんでした。そのことに関しては申し訳ありません」


 振り返らず淀みなく彼は答えた。

 その背中からは何も読み取れないし、そう言われたら「わかったわ」と言葉を返すしかない。

 クラウスは一礼すると、部屋を出て行った。


(あああああああああああーもう、無理っつうう)


 私はもう一度枕に突っ伏して深い溜息を吐き、夜まで誰も部屋に通さないようにヨハンナに頼んで、自堕落な時間を堪能することにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ