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第22話 突然の来訪

 カーテンから漏れる陽射しの熱を感じて、薄らと目を開く。

 いつもなら小鳥の囀りが耳に届くのだが、そういったものはなく、寝返りを打ちながら近くのクッションを抱き寄せようとした瞬間、壁のような硬い何かにぶつかる。


(んん……壁?)


 こんなにベッドが狭かっただろうか。

 寝ぼけていた私は違和感を覚えながらも、重たげな瞼を開くと――。


「おはようございます。お嬢様」

「~~~~!?」


 新品のような黒の燕尾服を着こなした偉丈夫――クラウスがベッドに横になっていたのだから、驚くのも無理はない。

 悲鳴にならない悲鳴を上げる私をクラウスのアメジスト色の双眸は、宝石のように輝かせていた。


「く、クラウスの変態! 馬鹿ぁああああああああああああ!」

「あはははっ、その顔もいいですね――」


 私が投げつけたクッションが、クラウスの顔面に直撃。ベッドにあるだけクッションを投げつけても、クラウスはニコニコしている。


 私の声に反応してか、ノック無しにロルフが飛びこんできた。ベッドに横になっているクラウスを目視した瞬間、剣を抜いてクラウスに斬りかかる。

 しかし剣はクラウスを貫くことはなく、クッションを真っ二つに切り裂き、羽毛が舞った。


(お気に入りのクッションが)

「まったく、お嬢様のために粉骨砕身しているのだから、ご褒美を貰っていただけだというのに……」

「主人と同衾しようなどと不遜にもほどがある」

「おや、羨ましかっただけではないのですか?」

「黙れ!」


 クラウスは道化の曲芸のような身軽さで、ロルフの剣戟をさらりと躱す。


(さ……最悪の目覚め……そしてうるさい)


 私はベッド傍に置いてあったティーポットを手に取り、自分でお茶をカップに注ぐ。

 ほのかにミントの香りがした。

 ポットもまだ温かい。

 恐らく目覚めの紅茶を用意した後、ベッドに入り込んだのだろう。

 私を襲おうとした――と言うより観察していたのだろうか。


「ん、美味しい」

「それは何より。あ、ミルクを入れるとさらに美味しいのでオススメです」

「そう」


 クラウスはにこやかな笑顔のまま、ロルフの剣を両手の平で合わせるように挟んで受け止めている。素手で機械人形オートマタの剣技を受け止めている時点で、色々可笑しいのだが、深くは考えなかった。


 この屋敷が賑やかで騒がしいのは、いつものことだ。

 まだ爆音が聞こえない限り、平穏――なはず。

 そう思っていた私の考えを打ち砕くように、またしてもノックも無しに扉が勢いよく開いた。


(みんなノックの存在を忘れているのかしら……)

「お嬢様! 大変です、屋敷に獣王が!」

「え」


 獣王。

 アトラミュトス獣王国を収める女王で、今回の交渉にも来るだろうと思っていたのだが、思っていた以上に早い。二週間も待てなかったのだろう。

 身支度を調えて、急いで客間へと向かった。


「遅くなって申し訳ありません、レティシア女王陛下」

「堅苦しいのはいいって、レジーナ。お久しぶり☆元気だったぁ?」

「はい」


 ケモ耳を生やした狼人であり、アトラミュトス獣王国の女王。豊満な胸に腰のラインも引き締まっており、真っ白なフリル満載のドレスを纏う彼女は、お忍びと言う言葉をまったくもって理解していなかった。


 いや、スフェラ領に入るまでは、身分を隠していたと思う。たぶん。

 アトラミュトス獣王国の挨拶は、抱擁から始まる。これは『あなたを信頼している』という意味があるらしい。


「ええっと、レティシア様。交渉日は二週間後と思うのですが……」

「ああああん、もう! レジーナ、レジーナ。相変わらずかわいいわねぇ。もうお肌もツルツルで、ちっちゃくて可愛い。可愛い。もう、お持ち帰りしたいわ~~~☆」


 私の言葉を遮って、百九十センチの巨体は私を抱き上げた後、その豊満な胸にぎゅうぎゅうにされる。圧死するんじゃないかな、これ。


「女王、お戯れは、その辺にしていただけないでしょうか」

「ふん、醜男が私に意見を言うとは。不愉快だな」


 眉目秀麗のクラウスに対して醜男なんて言うのは、レティシア様ぐらいだ。

 彼女は可愛いものが大好きで、愛でる趣向がある。そのため彼女の傍に侍る騎士たちは皆少年だ。しかも可愛い。


 この女王様は可愛いもの、美味しいものが大好きな変わり者なのだが、生まれが私と近いこともあり、外交で何度かあったことがある。

 幼い頃から自分の外見にコンプレックスのある彼女は現在、女王としては文句ない働きをしているのだが、色々拗らせていた。


「姉上……相変わらずだな」とロベルトがひょっこりと顔を出す。

 ロベルトは、王位継承権を放棄してスフェラ領に逃亡した――実は第一王子だったりする。がたいがよく、この姉弟が並ぶと壁にしか思えない。庭仕事をしていた彼を呼びつけたのは私だ。


「ん、ああ。ロベルトか。お前は本当に私と同じで、可愛げのない体格だな」

「ほっとけ」


 久々の姉弟の再会を果たした後、漸くお茶を出して話し合いになった。



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