第21話 微睡みの中で
悪女の仮面を外した私はヨハンナとリーンに甘やかされ、メイク落としお風呂、マッサージに髪の毛を乾かして貰うという至れり尽くせりの後にベッドインした。
ベッドに横になり、寝返りを打ちまくってお気に入りの大きなクッションに抱きつく。
ラベンダーの香りに癒される。
「はあーーーーーーーーーーーーーー。つーかーれーたー。あー、もうヤダ。面倒なことばかり増えてくるぅーーーー」
「三国の交渉が終われば落ち着きますから、それまでの辛抱ですよ」
「うーーー」
ヨハンナは、そう言って私を慰めてくれる。
「まあ、エル・ファベル王国に使者で行ったあの執事が大人しくしていれば――だろう」
「あーーーーー、うん、そうだよね。流石に会議室にいる大臣や王族を殺してはいないと思う……」
「甘いな、お嬢は」
(お嬢?)
ロルフはさらっと会話に加わっていた。
いつもなら部屋の外で護衛しているはずなのだが、一応レディーの寝室なのだけれど。しかもロルフは寝間着なのだ。
「あの男がそんな殊勝な奴だったら、お嬢がここまで苦労はしていないだろう」
「まあ、そうかもしれないけれど……。ところでロルフはどうして部屋の中に? 警備は?」
「寝る前だって聞いたから、お嬢の顔が見たくて――ダメだったか?」
ここぞとばかりにワンコのような「かまってくれないのか」としょぼくれた表情を覗かせる。
なんだか日に日に人間味を増している気がした。
剣の師をしていたときは、もっと淡々としていたし、会話は前々からあったけれど何かが違う――気がする。
「……別に。ダメとは言ってないけど?」
「そっか。お嬢も疲れているだろうからしっかり休んでくれ」
愛嬌たっぷりの笑顔に色香も加わって心臓に悪い。
気苦労の多い妹に対する兄という雰囲気とは違う。
お休みの挨拶をするロルフに何だかドキドキしてしまう自分がいる。可笑しくなったのはロルフやクラウスではなく、私自身の心境の変化なのかもしれない。
(まあ、二人も格好いいし。大事な家族だもの。好かれているのは嬉しい。……恋、か。父様が亡くなる前は恋をしてみたいと思っていたけれど……)
私が王国の学院に通っていた頃は殿下と恋ができるかもしれない、と期待もしたけれど殿下の意識の低さや自画自賛俺様気質に嫌気が差した。
途中でシーラ令嬢が出てきたので婚約破棄になることはなんとなく予想はしていたし、私としても有り難かった。
今は恋だとか恋愛にベクトルを向けている気持ちの余裕はない。
でもクラウスやロルフに女性扱いされるのは――嫌じゃない。二人にそんな意識があるかは不明だが。
(色々問題を片付けて一年後ぐらいには婿探しをなんていいかもしれない。私を大切にしてくれて、ずぼらな私も受け入れてくれる……人。いるかしら)
***
まどろみの中。
ベッドに近づく足音が聞こえてきた。
静かだけれど真っ直ぐに私の元に歩み寄る。
この足取りを、私は知っている。
微かに鉄と花の香り。
「ただいま戻りました」
(相変わらず私が寝ていても勝手に戻ってくるのだから……)
「何だか無性にお嬢様の顔が見たくて最速で戻ってきたのですよ。褒めて貰おうと思ったのに、眠ってしまうとは本当につれないかただ」
(いや、魔族と違って人族は寝ないと……。ダメなの知っていて寝室に忍び込むのだから……)
瞼は重く、目を開ける気力も無い。
私がクラウスの言葉に反応して付き合う必要は一切無いのだから。そもそも主人の部屋にノックも無しに入ってくるなんて、執事としてどうなのだろうか。まあ、それを言ったら護衛なのに持ち場を離れたロルフも同じなのだろうけれど。
「お嬢様は私のだと言っているのに、こうも次から次へと悪い虫が出てくるものですね。もっと私もお嬢様にアピールをして、意識して貰わなければならないのでしょうか」
(…………また、……クラウスがなにか……すう)
「いっそのこと既成事実を作ってしまった方が面白いのかもしれませんね。……でも、それは機を熟してから」
唇に何かが触れたものの意識を手放した私には、それが夢か現実かなども含めて記憶から抜け落ちていた。





