第20話 王子ラインハルトの視点3
「そ、それに我が国との貿易ができなければ、亜人族と魔族の供給が追いつかないだろう。そなたの領土では食料はもちろん、職人たちも含めて人口数が圧倒的に少ない。土地もそうだ。食料などはどうまかなうつもりだ。我が国の農作物がなければ供給が追いつかないはずだ」
「そ、そうです。国王様のおっしゃるとおりだ」
「今からでも独立宣言を取りやめれば」
「たしかに。交渉をするにしても、そちらへの輸出品の価格についてあまり大きい態度をしない方が良いのではないかな?」
国王と共に大臣たちは、独立宣言を取り消そうと必死だ。
あくまでも政治的な立場で意見を言う彼らに、黒服の執事は苦笑した。まるで出来の悪い三文芝居を見せられたかのような反応を示す。
「本当に愚かな人たちですね。我が主人がこの提案をする上で、それらの問題に気付かないと本気で思っておられるのですか?」
「ど、どういう意味だ?」
『そうですね。人族との取引というのなら、別にエル・ファベル王国だけと言うわけではありませんもの。あなた方の背後に何がいるのか――よくよくお考えになって結論をお出し下さいませ』
それだけ言うとレジーナは通信を切った。
あまりにも一方的な要求に苛立ちと殺意が芽生える。
こちらが下手に出れば、あのような言い回しをするとは笑止千万。王族をなんだと思っているのだ。
「父上。こうなった以上、三の全面戦争を行い、かの領土を蹂躙してしまいましょう!」
「なっ、ラインハルト。本気で言っているのか!?」
動揺する国王にはかつての威厳はない。もはや年老いた哀れな老人にしか見えなかった。そこまでしてあの女に媚びへつらう必要があるだろうか。いや、ない。
「父上の兵と義勇兵を募り、かの領土を我が手に取り戻して参りましょう。どうか許可を!」
年老いた国王を含め他の大臣たちは困惑しつつも、俺の言葉に耳を傾けている。手応えはあった。しかし、またしてもあの執事が空気を読まずに爆笑したのだ。
「くはははっ、あー、本当にここまで愚かな道化がいるとは。人族とは本当に面白い。本気で戦争を考えているなんて、英雄譚を見過ぎでは?」
「なっ!?」
あまりにも馬鹿にした態度に、帯剣していた剣を抜いて執事に刃を向ける。
こう見ても他の騎士と同じように鍛錬を積んできた。
いくら魔族とは言え、俺の剣の腕があれば――そう思っていた瞬間。
ゴリ、っと嫌な音が響いた。
「あ?」
「失礼。あまりにも目障りでしたので、つい」
執事に刃を向けていたのに、剣は床に落ちて俺の腕はあり得ない角度に曲がっていた。
「あああああああああああああああああああああああああ!」
「おや、王族の悲鳴はもう少しユーモアと品があると思いましたが、あまり変わらないものなのですね」
「おまああああああああ!!」
会議室に居た衛兵たちが大槍を手に執事を捕らえようと肉迫する。先に手を出したのはどう考えても執事の方だ。
王族に手を出した以上、魔族だろうと五体満足で返しはしな――。
鮮血が舞った。
まるでワルツを踊るような足取りで、その男は甲冑を着た全身武装の騎士たちの首を軽々と切り飛ばしたのだ。
それらの首はボールのように何度か跳ねて床に転がった。
会議室が一瞬で血の海になり、そこからは阿鼻叫喚。
大臣たちは我先にと会議室を飛び出して一目散に逃げていった。
誰一人王族である俺や国王を慮って護衛する者はいない。
「まったく自分の力量も分からずに挑んでくる方々が多いようですね。ああ、だから軽々しく戦争などと言ってしまうのでしょう」
「お、ま」
「まあ、私のお嬢様を侮辱したのですから。このぐらいの制裁は許してくれるでしょう」
その言葉に執事がレジーナのことを相当入れ込んでいるのが分かった。
ああ、俺に攻撃をしたのも全ては嫉妬。一時的でもレジーナが俺のものだったことが許せない狭量なのだろう。
「そんなことをしてもお前ではレジーナの心は手に入らない。なにせあの女は俺の婚約者なのだから。主従関係のお前とはちが」
「黙って貰えますか」
「むぐっ!?」
いつの間にか執事は俺の口を片手で封じていた。
細腕のくせに信じられない怪力だったが、この男は俺を殺せない。そうレジーナに命じられているのだろう。でなければ騎士のように首を落としていたはずだ。
「ず、図星がぁ。レジーナのことが好きなくせに、認めるのが怖いのか」
「黙れ」
鈍い音がしたが最後に、あの男が苛立った瞬間が見られたのは面白かった。ああ、魔族というのは自分の機微にとことん疎いのだろう。
暗転。
意識が遠のいていく。
次に目覚めたら義勇兵を募ってあの領土を奪い、レジーナを我がものにする。
絶対に。そう絶対にだ!
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