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第19話 王子ラインハルトの視点2

 翌日。

 大会議室に呼ばれて部屋に入った瞬間、国王及び大臣たちの表情が鋭く俺を睨んだ。重々しい空気に足がすくむ。


「入りたまえ、ラインハルト・フォン・バイエルン・トイテンベルク」

「はい」


 粛々とした空気が広がる中、会議室に足を運ぶ。

 室内は会議室というより裁判所に似てコの形にテーブルが展開されていた。

 突き刺さる視線に耐えながら会議室の中央、国王の前に出る。


「これで役者が揃ったようですね。それでは我が主人との交渉を開始しましょう」


 黒の燕尾服を着こなした男が、俺の前に姿を見せた。

 黒紫色の髪、アメジスト色の鋭い視線――ああ、そうだ。レジーナの執事。


「お前がここにいるということはレジーナも来ているのか?」

「レジーナ、などと我が主人を呼び捨てにしするとは――ここで火だるまになって死にたいのですか」

「――っ!」


 男の手から青白い炎が生じ、会議室がどよめく。

 よく見れば男は四つの角を持ち、背にはコウモリの羽根を生やしているではないか。


 魔族。

 それも言語が通じると言うことは上位魔族に違いない。時折、人族に興味を持ち人に擬態して国に居着く魔族が居ると聞く。魔族は人族に危害を加えない。それは慈愛とか義理では無くそもそも興味が無いのだ。故に無害。

 自分よりも弱い者に対して虐げることも、その力を見せびらかすこともしない。ただ自身に火の粉がかかるあるいは、その魔族にとっての逆鱗に触れることを除けば――だ。


「この国を支えてきた我が主人に対して、暗殺しようとする愚か者がいるなど考えもしませんでしたよ。代々契約不履行を幾度となく行い、こちらの提案を無下にするのですから――()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ひい」


 青い燐光が会議室中を包み込み、その火に肌が焼けかけた瞬間――第三の声が響いた。


『クラウス、座興はそれぐらいにしておきなさい』


 魔族を窘める声で炎は消え去り、クラウスと呼ばれた魔族は「はい」と素直に従った。

 凜とした声は聞き覚えがある。

 魔族が恭しく折りたたみ式の手鏡を開くと、その場に喪服に身を包んだレジーナの姿が映し出された。半透明でありながら姿を見せたことに会議室がざわめく。


「エル・ファベル王国の皆々様、私はレジーナ・フォン・シュルツ・ナイトメア。次期伯爵当主――いえ、スフェラ領を統治する者です。以後お見知りおきを」

「レジーナ」


 彼女の金色の髪が灰色となっていたが、以前よりも大人びた顔と美しい容姿に思わず生唾を飲んだ。黒ドレスも妖艶で悪くない。

 しかし彼女は俺を視界に入れることも無く、国王に話しかけた。


「事前にクラウスが手紙を届けていると思いますが、エル・ファベル王国に用意された選択肢は三つです」

(ああ、なるほど。あくまでも俺への思いを引き出すために――愛い奴だ)

『まず一つ目の選択肢ですが、王家が私の暗殺及び伯爵家へ対して契約不履行を行ったことを全面的に認め謝罪。我が領土への独立を認めたのち、関税を含めた条約を改めて交渉する道を選ぶ場合』

(ん? んんん? 王族が謝罪をする……だと? ははっ、大きく出たな)

『二つ目、謝罪を一切認めようとせず、我が領土との交渉を拒絶して不可侵条約を結ぶ道を選ぶ場合』

(何を言っているんだ? ……ああ、これは三つ目で俺との結婚を入れるつもりなのだろう。まったく、気を持たせる奴だな)

『三つ目はお互いの主張が平行線かつ折れる気が無い場合は――』

(うんうん)

()()()使()()()()()()()()()()

「はああああああああああ!?」


 思わずとんでもない提案に耳を疑った。何を考えているのだ。


「おい、レジーナ。何を考えている!? お前が俺の提案した内容を受け入れれば丸く収まるのだぞ!!」

『提案? ああ、あれは提案だったのですね。脅迫かと思いました』


 低く冷めた声に俺は脳天を強打された気分だった。

 俺を見る目は鋭く冷たい。


『あれは殿下ご本人にとって都合のいい内容でしょうに』

「なっ! 俺の愛妾になれるのだぞ! 嬉しくないわけないだろう」


 失笑する彼女は本当に哀れんだ目で俺を見据えた。


『宰相の戯れ言を信じて、私を殺そうと魔女を差し向けたかたが今さら何を言うのでしょう。大方国王陛下に婚約理由を聞いて焦ったのですか。どちらにしても私が提案した三つのいずれかの選択を行い結論を決めて下さいませ。……ああ、戦争になることを視野に入れて今から我が領土にいる者たちが『貴国に戻りたい』と言い出した者は戻らせましょう』

「ま、待ってほしい! 我が愚息と宰相が取り返しの付かないことをしたことは重々分かっている。だが、それでも、伏して願う。独立宣言を取り消してくれないだろうか!」


 国王はその場を立ち上がり、懇願するような声で自分よりも年下の小娘に縋っている。その言動には王としての毅然とした振る舞いなど欠片も残っていなかった。



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