第18話 王子ラインハルトの視点1
親同士が勝手にまとめた婚約話だった。
レジーナ・フォン・シュルツ・ナイトメア。
ろくにあったこともない伯爵令嬢は、辺境地を収めているとか。学院で初めて会ったときは確かに美しい女性とは思えたが、愛想がない。
俺の気を引こうなどという考えはなく、定期的に決められたお茶会でどうでもいい政治の話やら領地経営など国のありかたなど眠たい話題ばかりで退屈だった。
ただ外見は悪くないので少し味見をしようとしたら、顔の良さそうな執事に邪魔されて何もかも面白くなかった。
契約上の婚約者。
そんな退屈な日々を一変させたのはシーラ令嬢の存在だ。彼女は明るく男を立てることをよく分かっている。愛想も良く健気で俺のことを心から慕ってくれる素晴らしい女性だ。
シーラ令嬢に恋心を抱くのにさほど時間はかからなかった。学院での日々が楽しいものに変わり、婚約者であるレジーナの存在が邪魔に感じていったが国王からは『婚約者を大事にしろ』と顔を合わす度に口を出してきた。
高々、伯爵令嬢になぜ王族である俺がへりくだり顔色を窺わなければならないのか。意味が分からない。
卒業を控え、俺は兄上の補佐をするための役職を得る。そんなときシーラはベッドの上で「一緒になることはできないのかしら」とさめざめと泣いて訴えた。
いつも公爵令嬢としての立ち振る舞いが完璧な彼女が俺の前では可愛らしく強請る。不安なのはわかる。
俺たちの思いは同じなのに、大人たちの勝手な取り決めで俺には婚約者がいる。
「婚約破棄をして、私を貴方の妻にしてほしい。……そう願うのは難しい?」
「それは……」
「ああ、レジーナが憎いわ」
大粒の涙をこぼして枕を濡らす彼女は酷く傷ついていた。そんなシーラのことを考え、彼女の父親である宰相に相談をしたところ『事故死に見せかけて殺してしまえばいい』と過激なことを言い出した。流石に暗殺計画を聞いたときは戸惑ったものだ。
宰相の話では昔から彼女の一族とは因縁があるらしく『これを機にあの領地を手に入れたい』と画策していたと話す。
「しかし、魔女を使って殺すなど……少しやり過ぎなのでは?」
「何をおっしゃるのですか。あの辺境地は亜人族や魔族も暮らす魑魅魍魎の跋扈する恐るべき場所なのです。一流の暗殺者でも、あの領地であれば成功率は一桁以下になるとお考えください」
「ふ、ふむ……」
「それに比べて魔女は奴隷紋で縛っておりますので、絶対に裏切りません」
魔女は国の保護対象のはずが奴隷紋と言う言葉に衝撃を受けた。《奴隷紋》は大罪人のみに使用されるもので厳重管理しているのだが、魔女が大罪を犯したとは聞いたことがなかった。
それを指摘したところ、宰相は溜息交じりに目を伏せた。
「いけませんな。第三王子ともあろう者が、そのように常識がないとは。何事も綺麗事だけではまかり通らないのですよ」
「そ、それは……そうだが」
「ご安心ください。王子の満足のいく結果を必ずお持ちいたします」
太鼓判を押したのは宰相だった。それが蓋を開ければ婚約者が有りながらの不貞行為の証拠に、暗殺未遂の首謀者の一人としてレジーナ本人から正式な抗議文と婚約破棄。ここまでなら婚約破棄ができたことを喜べたかもしれない。
だが耳を疑ったのは王家との契約不履行のためスフェラ領の独立宣言と、その日のうちに関所を一方的に封鎖したことだ。
これは後で知ったことなのだが、王家が伯爵家に支払う支援金が不足しているため、それを補う形で『レジーナが十八歳になるまで次期後継者争いから守る』名目で婚約契約を結んでいたという。つまりはカモフラージュだったのだ。
(そんな話など聞いたことがないっ!)
執務室に呼び出され、宰相と罪状が事実であるか確認を取らされた。宰相も最初は誤魔化そうとしていたが、ぐうの音も出ないほどの証拠を突きつけられて青ざめている。
「父上、そんな話は初耳です」
そう叫んだのだが、国王は顔を真っ赤にして婚約する際に話したと反論してきた。いかにスフェラ領が重要か、今回の婚約は政治的なものだと何度も、説明していたと言い出す。デタラメだと思っていたが、従者たちの証言では説明があったらしい。
俺が聞き流していただけ。
「まったく、お前は学院で何を学んできたのだ。経営学はもちろん、歴史の授業でも話があっただろうに」
(そう言えば何かとレジーナは経営学や歴史の話をしていた……。あれは自分のことを話そうとしていた?)
彼女は彼女なりに歩み寄ろうとしていた――?
スフェラ領のことを知らないままでは、俺が恥をかくと思って――?
不器用なりに俺を思って、俺に好かれとようとしていた?
(ああ、そうか。なるほど。婚約破棄を叩きつけるだけでは俺の気が引けないと思って、独立宣言などというカードを引っ張り出してきたのか。それほどまでに俺のことを……)
「聞いているのか、ラインハルト!」
「わかりました。今からでもすぐにレジーナ嬢へ謝罪の手紙を書き、事態の収束を行います」
「む、そ、そうか」
俺の言葉に国王は言葉を濁した。
彼女がここまで俺のことを思っているとは――気付かなかった俺も悪いが分かりづらいやり方をしたレジーナも悪いだろう。
次に会ったときはその辺も含めて分からせなければならない。
手紙を送り彼女が受け入れやすいよう提案も記載しておいた。本来なら花束やアクセサリーも付けるべきだろうが、あまり相手を調子に乗らせてはいけない。
これで万事解決。
何もかもこれで上手くいく――そう、思っていたのに。
王国断罪編に入りました(*’∀’人)
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