第17話 報復の決意を新たに
「お嬢、この手紙の主を殺してもいいか?」
「これだからポンコツは、どうせ殺すなら精神的に追い詰めてからでないと」
「なんだと?」
ロルフとクラウスが啀み合うのはいつものことなのだが、私の頭の上で繰り広げないでほしい。煩い。
思えば二人はこんなに感情豊かだっただろうか。
幼い頃から父の傍にいた二人は、そこまで会話をしてなかったような。
「ハンス、エル・ファベル王からの手紙は来てないのよね?」
「はい。大方、こちらから出した王子の不貞の証拠や独立宣言をどうにか収めたいと考えておられるのでしょう。その考えそのものが、あまりにも愚かなことかと」
「そうね。私が伯爵家当主となる以上、この領地から出ることはできないし王家との婚約も破談になる。そもそも私と王家が婚姻関係を結ぼうとしたのは、王家が我が一族に対しての支援金や物資を渋ったからなのよね」
独立国だったスフェラ領がエル・ファベル王国の属国になったのは、様々な条件を呑んだからだ。爵位、個々人の関税をエル・ファベル王国のみ緩める代わりに、王家が年間で伯爵家に支援金を送ること。人材の提供、食料の提供などなど無理難題を王家に提案し締結させた。当時契約を結んだ伯爵当主は策士だったのだろう。
王家も金の卵となる領地を得るメリットを考えて承諾した。
もっともよっぽどのことが無ければ条件を破ることは無かっただろう。しかしエル・ファベル王国はスフェラ領を手に入れたことで調子に乗ってしまったのだ。
恐れ多くも帝国に戦争を自ら吹っかけたのだから。背後には魔族や亜人族がいると戦力に数えてしまったことだろう。
そもそも亜人族も魔族も本来言語そのものが異なる。ただこのスフェラ領では『それぞれの言語を話しても自動翻訳されて伝わる』という特別な術式が施されていることを王家は知らなかった。
結果、圧倒的な戦力差に三年と経たずに敗戦。
賠償金を皮切りに、飢饉による死亡者数増加、重税に耐えきれずクーデターなどが重なり、王家の権力は衰えスフェラ領に対して資金額を捻出することが難しくなった。
それに元々は公爵家だった称号も初代から百年で、難癖を付けて爵位を下げる行為を繰り返し、度重なる称号の改正だとか。
「爵位に支度金など用意できなくなった王家は王子との婚姻を結ぶことで、伯爵家との繋がりを保とうとした。……その辺りは父様が私を後継者争いに巻き込ませないためのカモフラージュだったけれど」
ふと視線を逸らすとヨハンナとリーンが王子そっくりのわら人形を作っているのが見えた。
しかもかなりスピードでいくつもある。ナニソレ、怖い。
「ええっと……ヨハンナ、リーンも何をしているの?」
「お嬢様の屋敷に来られることを見越して、屋敷の外観に串刺しにして飾っておこうかと」
(ナニソレ。怖い!? 串刺し公とか異名が付きそう!?)
「面白い趣向ですね。呪いの藁人形を思い出します」
(また不穏当なワードが……)
「……さて、お嬢様。エル・ファベル王国に手紙を送るのなら私がお嬢様の代理として行って参りますが」
「正式に伯爵家当主を名乗っていないけれど当主の証としての指輪を得た以上、状況を動かすためにも劇薬を送ったほうが効果的のようね。クラウス、私の代理で行ってきてくれる?」
「お嬢様は、酷いですね。私が劇薬など。もう少しオブラートに包んでください。照れます」
「……照れるところが可笑しいのだけれど」
「ああ、そうだ。お嬢様を狙っていた魔女から面白いものを手に入れましたよ。これを使ってみては?」
差し出したのは折りたたみ式の手鏡のようで、遠方に居る相手と会話ができる魔導具のようだ。魔族では念話が可能なのであまり使われていないらしいが、人族であればかなり貴重な代物にあたる。
「ああ、これは便利ね」
「そうでしょう」
クラウスは再契約をしてからずっと楽しそうだ。無理もない。
彼は退屈を嫌う。平穏を憎み、常に刺激を求める。
そこで、はたと思う。
父様は平穏を愛していたし、代々の伯爵当主もスフェラ領の平穏に尽力を注いでいた。それを退屈で、つまらないと思い『激動の時代を呼び起こしたい』とクラウスなら考えるのではないだろうか。
自分の都合よく動く当主候補が非力で、縋る相手がいないように仕向けることなど彼であれば容易い。
(父様は事故死した。殺害された可能性もゼロじゃないけれど、クラウスが現状を楽しむために仕組む可能性は――充分にある)
可能性の一つとして。
父様の死については引き続き調べる。
その結果次第でまた考えればいい。
今はエル・ファベル王国だ。
王子と宰相に関しては私を殺そうとしたのだから、それ相応の報復をさせて貰わなければ気が済まない。
(私がシーラ公爵令嬢を疎んだ悪女だと思い込んでいるのなら、ご希望通り、悪役令嬢として次の舞台を演じきって見せましょう)
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