第16話 ご褒美とは
叔母様と従兄が少しでも謝罪するのなら廃嫡して野に放つか、ひと思いに殺してしまおうと思っていたのだけれど、思っていた以上に性根が腐っていた。
話し合いの結果、地下牢獄で罪人として生涯働き続けるという執事長のハンスの提案を採用。叔母の所有していた屋敷を即座に解体し、身体的、肉体的、経済的、性的などの暴力によって虐げられていた使用人たちのケアを命じた。
「はあ……。思っていた以上に好き勝手やっていたようね」
「そのようですね。……親族の方々も似たようなことばかりしているのですが、同じく地下牢獄送りに?」
「大人組みはそうね。まだ分別の付かない子供たちは廃嫡して孤児院に入れて、強制的に性根を叩き直す形にとどめておいたわ。万が一、私に子が残せないことも考慮してナイトメア家の血筋は絶やしてはいけないもの」
ふう、と溜息を漏らす。
貴族にとって血を繋げることは義務に近い。今は当主代行として動きつつ、スフェラ領の当主となった暁には婚約あるいは結婚問題が出てくるだろう。
(結婚――っ!)
思わず今朝見た夢の内容を思い出し、慌てて頭を振った。
「お嬢? もしかして気分でも悪いのか? 血を見せてしまったし……」
「お嬢様、顔色が……。やはり寝不足でしたか?」
グッと顔を覗き込むロルフとクラウスに私は頬に熱が集まる。二人の距離感がやはり可笑しい。悪女の仮面を被り直し、平静を装って答える。
「大丈夫! ……それと親族と叔母様たちの中に父様殺害を目論んだ者は?」
「虎視眈々と当主の座を狙ってはいましたが、行動に移した者はいませんでした」
「そう。……だとすると次に考えられるのはエル・ファベル王国の誰か?」
そう言えば王国からの連絡がない。
もっともアトラミュトス獣王国やティリオ魔王国と異なり、エル・ファベル王国は王族派と貴族派、そして反政府活動が活発化しており国として中々に複雑な状況にある。即断即決はできないだろうし、独立宣言をして一番困るのはかの国だ。
「(エル・ファベル王国こそ父様が亡くなって一番困るはずよね。スフェラ領がただの土地じゃないって分かってない馬鹿がいるわけ……)あ」
「どうした、お嬢!」
「お嬢様?」
「いたわ。……ここの領土を軽視している馬鹿が」
「もしかして、あの馬鹿王子ですか」
「お嬢の魅力が一ミリも分からなかった奴ならありえる」
「姫さん……。元の姿に戻ってもいいか?」
「あら」
私のソファの傍に寝そべっていたロベルトがのそのそと起き上がった。真っ黒な毛並みはモフモフしており、猫とは違うものの癒しを求めて「えい」と、抱きつく。
「ひ、姫さんんんん!?」
「もふもふ」
大きなヌイグルミ感覚で飛びついてみたが思っていた以上に毛並みがモフモフしているし、温かい。ロベルトはあわあわしているものの、尻尾がもの凄く揺れ動いているのが見えた。
そんなところも可愛い。
悪女の仮面なんか一瞬で消え去っているが、この可愛さの前ではしょうがないだろう。
「姫さん、くすぐったい……」
(癒される~)
「お嬢様、私へのご褒美は頂けないのですか?」
にっこりと笑っているが、クラウスの圧が強い。心なしか目が笑っていないのは気のせいだろうか。「お嬢、私も!」とロルフも便乗する。
「え、え!?」
悪女の仮面が剥がれた今、詰め寄る二人に狼狽えてしまう。
しかもご褒美とは何を求めているのか。期待の眼差しを向けられても困るし、何が正解なのか分からない。
「ご苦労様、よく頑張りましたね」というねぎらいの言葉をかければいいのだろうか。なんだか違う気がしなくもない。それともロベルトの頭を撫でたりするのがご褒美に入るのだろうか。大の大人――というか他種族によってはそれが褒美になるのか。しかし父様の頃そんなものはなかったはずだ。
悶々と悩んでいても答えは出ないと思い、勢いとノリでクラウスの頭を撫でてみた。意外と髪はサラサラしている。
頭を撫でた瞬間、何故かクラウスは終始無言で固まっていた。
その事に疑問を覚えつつもロルフの頭も撫でる。こちらは私が触れたことで嬉しそうで、頭の上に犬の耳の幻覚が見えるぐらい気に入ったようだ。なんだか可愛い。
(これがもしかして学院内で流行っていた恋愛小説に出てくるワンコ系男子?)
「お嬢―、毛繕いしてほしいにゃ」
「してほしいにゃー」
「ミーにチャムまで」
「え」
「お嬢様から頭を撫でて貰える?」と言う情報は瞬く間に屋敷内に広がり、結果的に長蛇の列になったのは言うまでも無い。
「お嬢様」
声を掛けてきたのは執事長のハンスだ。
(ま、まさか。ハンスも頭を撫でてほしい―――とか!? それともお説教!?)
「こちらを」
一通の手紙を差し出してきたので、内心ホッとした。しかし手紙の内容を読んで憂鬱な気分に逆戻りする。
手紙の主が私の婚約者であるラインハルト殿下だったのもあるが、頭が痛くなったのは内容のほうだ。
私が溜息を漏らしたことで、その場に居た皆が手紙に視線を落とす。
彼らに見られても問題は無い――はず。
「『反逆者になりたくなければ、弁明しに王都まで来い』ですか、ああ、これだから王族は……」
「『不貞の証拠が嫉妬』だ? 頭おかしいんじゃないか」
「『今謝罪をすれば愛妾にしてやる』……うわぁ」
クラウス、ロルフ、ロベルトの表情が強張っていく。殿下の挑発めいた文章を見せるのではなかったと後悔したが、もう遅い。
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