第15話 叔母の視点(ざまぁ展開)2
息子の合図と共に発砲音が響き、魔弾がレジーナの頭を貫く――ハズだった。しかし傍に立っていた若い執事が弾丸を素手で握り潰す。
瞬きの合間だったけれど、それを私は見た。
化物。
「魔法防御を擦り抜ける弾丸とは中々にいい腕をしています。ですが、その程度でお嬢様を殺せるとでも?」
艶然と笑う若い執事の頭から四本の羊に似た角が生え、背中にはコウモリの羽根が生じる。明らかに殺意のこもった視線に「ひい」と声が漏れた。
息子は床に座り込んで、化物に怯えている。
「ば、ばけ……っ」
「ば、化物っ!?」
「あら、私の執事に失礼な物言いね」
レジーナの傍にいた巨大な犬がジロリと睨んだ。主人を貶されたことを理解しているのか、前肢を立ててうなり声を上げる。
「この屋敷の財産と伯爵の地位。それを手にする覚悟が叔母様とデニス、あなたにあるのかしら?」
「あ、当たり前だ! ぼ、僕はデニス・フォン、シュルツ・ナイトメア家の長男だぞ!」
悲鳴に近い声だったけれど、勇気を振り絞って叫ぶ息子を心から褒めてあげたい。
腰に隠し持っていたダガーを抜くと構える姿は、まるで騎士のよう。
しかし地獄の番人の如く巨大な犬がうなり声を上げる。
それだけではない。部屋に黒い霧が蔓延し、視界が狭まり息苦しい。
「ふふっ、当主の資格が自分にあるというのなら示してみなさい」
ふとレジーナの指に兄と同じ指輪を見つける。
赤々と血のように美しい――。
「ああ――、あああ! それが証ね!」
手を伸ばした瞬間、閃光が走ったと思ったのだが――、自分の腕が切断され、赤銅色の血しぶきが飛び散る。
レジーナを守らんと騎士がマントを広げて血しぶきを被った。
金髪碧眼の機械人形が鋭く私を睨む。
私の愛していた人形が、私の腕を。
「あ、あああああああああああああああああ! ロルフ! 機械人形ごときが私を傷つけるなんてぇええええええええええええええ!」
「黙れ、下種が。その汚らしい手でお嬢に触れるな」
「ママン!」
「あああああああああああああ! 痛い痛い痛い痛い! 私は兄の妹だというのに、お前たちは、この屋敷は、いつだって私を悪者扱いする!」
「それは叔母様が使用人たちを導具のように扱うからでしょう」
「当然じゃない。私は由緒正しい伯爵家の一員であり、尊き存在なのよ。使用人どもと同じな訳がないでしょう!」
レジーナがパチン、と指を鳴らした直後。
影から漆黒の獣たちが私と息子を襲う。爛々と光る六つの赤い双眸に私も息子も悲鳴を上げた。
猫、いや猫に擬態した――獣。
私たちを丸呑みにするほどの巨大な口が開かれ、襲いかかる。
「わあああああああああああああああああああ!」
一目散に息子は私をおいて客間から飛び出した。
あんなに勇敢だった息子は脇目も振らずに、私を放置したことに衝撃を受ける。迫り来る獣を前に、腰が抜けてへたり込んだ。
そのまま大きな口は、パクリと私の体を飲み込み――視界がブラックアウトした。
ああ、遠くで息子の悲鳴が聞こえる。
鈍い音と断末魔が。
何を間違えたのだろう。
本来なら私が当主にだってなれたのに――。
豪邸も、使用人たちも、老いることも病むことも無い完璧な機械人形も――全部、全部私のものなのに――なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんでこうなったのぉおおお!?
パキン、と硝子の砕ける音ともに、真っ暗だった視界に色が戻る。
(……全部、夢だった?)
薄暗い部屋だが、牢獄ではない。
真っ赤な壁に、座り心地のいいソファに腰を下ろしていた。
左腕を見ると、包帯が巻かれ止血も済んでいる。
「おや、目が覚めましたかね」
「ここは……」
「ここは資格ある者が入れる空間、さあ、手を」
全身真っ黒なスーツを着こなした男が恭しく手を差し出してきた。
(ああ……、よくわからないけれど、私が当主と認められたのだわ)
服も着替えさせられて、黒い服に身を包んでいるもの。
「はい」
手を取った瞬間、手の甲に浮かび合ったのは《奴隷紋》で、腕と首に黒く重い枷が現れた。「はえ?」と間抜けな声が漏れた。
目が慣れて良く男の顔を見ると、初老の男――執事長のハンスだった。
「ではこれから死ぬまでこき使うように申しつけられておりますので、よろしくお願いしますね。奴隷05214号さん」
「嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ私はジェニー・フォン・シュルツ・ナイトメア家の――」
「ああ、そうです。ご子息でしたら、既にこちらに来て仕事をしてもらっています。お会いさせられないのが残念ですが」
「あ、あああああああああああああああああああああああああああああ!」
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7/11 微調整しました( ´꒳`)/♥︎ヾ(*´∀`*)ノ





