第14話 叔母の視点(ざまぁ展開)1
空が白みつつあるものの、完全に夜が明けきらない時間帯。
馬車を急いで走らせ、屋敷へと向かう。
揺れが酷く、愛する息子は青い顔をしていた。無理もない。馬車に乗る前に食事をとっていたのだから。
「ママン、まだ屋敷には着かないの?」
「もうすぐよ。雇った暗殺ギルドから依頼完了の連絡が来ているのだから、他の親戚たちが気付く前に兄の財産と伯爵の証を坊やが見つけるのよ」
「僕が」
「そう。そうすれば貴方は名実ともに伯爵当主なの」
「僕が伯爵になったらママンに贅沢させてあげる!」
「まあ、まあ! 嬉しいわ!」
優しい子に育ったと我ながら思う。
なぜ兄の妹である私が冷遇されなければならかったのか。あの屋敷も本来であれば兄の死後、私が所有して当然だというのに誰一人私を立てようとしなかった。
レジーナもそうだ。
兄の娘として大事に、大事に育てられたせいで世間というものをまるでわかっていない。年長者を立てることも、身を引くことも知らず好き勝手した結果だ。悪く思わないでほしい。
(もう少し下手に出ていれば死ぬこともなかったでしょうに……。呪うなら自分の傲慢さを呪いなさい)
「ママン、屋敷の門が開いたよ。僕らを主人として迎えてくれたんだね!」
「そうよ。いつもここに来る度に煩い門番が足止めをして本当に腹が立ったもの。門番も新しく手配しているから今度はすんなり入れるわよ」
仰々しいほど硬く強固な門が主人を迎えんと音を立てて開いた。
これこそがふさわしい対応だと実感する。
屋敷は争った形跡は感じられず、馬車は屋敷の入り口前に停車した。ドアを開けたのは私が手配していた暗殺者――ではなかった。
「お待ちしておりました、ジェニー夫人、デニス様」
「え」
黒い燕尾服を着こなす初老の男。
そう兄の教育係を務めた執事長のハンスが出迎えたのだ。思わず悲鳴を上げそうになったのをなんとか堪えた。
執事は笑顔を絶やさずに屋敷のロビーへと案内する。上質な黒い絨毯を歩きながら客間へと案内されるのだが、使用人たちの視線はどこか冷たい。
客間に入ると二メートルは超えるだろう大型の黒犬が、女主人の傍に寝そべって控えていた。
全身真っ黒でベールを被った喪服の令嬢――兄の忘れ形見であるレジーナがソファに座りながら私たちを出迎えたのだ。血の気が引くのを感じた。
「あら叔母様。連絡も無しにこんな朝早く訪れるとは……何か急ぎの用でしょうか?」
「(あり得ない。襲撃が失敗した? それとも手違い? でもそれなら任務が完了したなどと連絡は入らないはず……情報が少なすぎる。どちらにしてもここに来たのは姪を心配してという風にすれば……)実はね――」
「レジーナ、お前の所有するものは全部僕が貰う。今おとなしく僕の言うとおりにすれば衣食住の保証はしてやろう」
「デニス!?」
ゲップと共に私を庇って息子が一歩前に出た。
いつの間にこんなに立派になったのかしら。少し弱気になっていた私に息子はさらに言葉を続けた。
「ママン、安心して」
「デニス(ああ、本当に立派になって……)」
「僕はここに来る前にある人物に多額の金を渡して狙撃手を手配した。僕らが通される客間の間取りも、お前が何処に座るかも把握していたからな!」
「まあ! デニス、貴方いつの間にそんなことを!」
「ふふん」
レジーナの表情は窺えないけれど、動揺しているのか声が出ないようだ。私の暗殺が失敗したかもしれないと焦ったものの狙撃手がいるならば、こちらの勝利は確実。
チェックメイトだわ。
「さあ、レジーナ。僕も従妹を殺すのは忍びない。伯爵当主の証を渡してくれるのなら命と生活は保障しよう」
「完璧だわ。さすが私の自慢の息子よ」
「ありがとう、ママン」
勝利に酔いしていたが、ここでレジーナは失笑する。そのことにデニスは酷くプライドが傷つき、顔を真っ赤にした。
「レジーナ! 自分の立場が分かっているのか!?」
「そうよ」
激昂する息子に対してベールを被っているレジーナの表情はよく見えなかったが、怯えるようすはない。余裕な笑みを浮かべたまま、彼女は唇を開いた。
「そちらこそ自分たちの現状を何一つ理解していないのですね。流石は『無能な白豚』と呼ばれるだけのことがありますわ」
「なっ」
「暗殺者だけではなく狙撃手を雇う大金を捻出したのは驚きだけれど、せめて一流を雇いなさい。でなければ捕まった途端、自決するか拷問に耐えるぐらいでないとアッサリと雇い主を売るんだから」
「その手の脅しには乗らないぞ!」
「わ、私の差し向けた暗殺者は……どうしたというのよ!?」
「我が屋敷の使用人たちは有能だから簡単に捕縛してくれたわ。ああ、それと狙撃手だけれど――」
「煩い! 撃て!」
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