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第10話 家族相当のキス

 恐ろしいほど察しがいいクラウスは私の奥の手に気付いたようだ。エル・ファベル王国に対する切り札でもあるので、使いどころは慎重になる必要がある。


 独立国を成立させるために必要なものは、国民、領土、政治、他国が独立国として認めるかどうか――だ。

 アトラミュトス獣王国とティリオ魔王国は今まで通りの対応でもいいが、独立宣言をしたのちにどのような反応を示すか注視しなければならない。


 特に魔王の真意がクラウス――エミールを取り戻すことだとするなら、戦争を強いる可能性があることも視野に入れる必要がある。

 どちらにしても会談を行えるように準備も必要だ。


「(そうなった時の戦力差は正直、不利だわ。それに三カ国同時侵攻をさせないためにも先手を打つ必要がある)クラウス」

「はい、何でしょう」

「ティリオ魔王国の対処を一任するわ」

「おや、私に任せてもいいのですか?」


 楽しいことが大好きなクラウスのことだから面倒な条件をわざと引き受けてくる可能性は十分にある。

 いや完全にそうする気満々だろう。


(どれだけ私が貴方を見ていたのか、きっと貴方は知らないわ。……私の想いも、私が何を切り出したのかも本当のところはわかっていないし、一生気付かないのかもしれない。それでも……)


 クラウスの主人として、彼に認められる主人でありたい。

 だからこそ彼に侮られる訳にはいかないと奮起して、先に彼の手を封じる。


「もちろん、私の有能な執事が私にできない無理難題を受領する訳がないもの」

「ぐっ……」

「ロルフも、そう思うでしょう」

「ああ。お嬢の執事というならそれ相応の働きをしてこそであって、主人の手を煩わせるなど言語道断だろう」


 ロルフの賛同を得た私はクラウスに視線を向けた。

 胡乱な目をして視線を泳がせている。

 私が言わなければ全力で面倒な方向にするつもりだったのだろう。まったく油断も隙もない。


「クラウスなら三日と待たずに解決してくれるって信じているわ! 有能だもの」

「なっ……」

「そうだな。有能な執事なれば楽勝だろう。有能であれば、の話だが」

「ねー」

「なー」

「……わかりました。わかりましたよ。そこまで言うのなら執事として、最高の結果をお嬢様にはお届けしましょう」

「ふふっ、約束よ」

「代わりに戻ったら私にご褒美を下さいませんか? 下さいますよね」

「――っ」


 ぐっと距離を縮めて耳元で囁くのはずるい。

 低音ボイスは卑怯だと思う。

 だがここで「わかったわ」と頷いたら負けだ。アメジスト色の瞳を細めて「ほら、はいと言うように」と訴えかけてくる。

「そんな約束は――」と言いかけて、ちゅ、っと頬にクラウスの唇が触れた。


「~~~っ!?」


 忘れていたが、クラウスはこういう悪戯をよく私にしてくる。

 素の私なら恥ずかしさで身もだえしていただろうが、悪女の仮面を付けたままだったので平静をなんとか保てた。


「クラウス!」

「ご褒美の前払いですよ。では、行って参ります」

「あ」


 そう言ってクラウスは闇に溶けて消えた。

 揺さぶるだけ揺さぶって放置するのだから、狡い。


「むむむっ……逃げて行きました!」

「くっ、またもやお嬢を守れなかった。あの節操無しめ。今度、首をはねておきましょう」

「怖いから止めて。……クラウスのアレはいつもの悪戯だから一々気にしていたら身が持たないわよ」

「…………ふむ」


 歩き出す私に対してロルフは立ち止まったままだ。真剣に考え込む横顔は見惚れてしまうほどかっこいい。

 私にとってロルフは剣の師であり、兄のように思っている。

 少なくともこの瞬間までは――。


「お嬢」

「ん?」


 ロルフは私の長い髪の一房に触れ、キスを落としたのだ。


「――っ!?」


 私を見る碧眼の双眸は真剣で、熱い眼差しにドキリとしてしまう。

 今まで親しげでフランクに接してきていたロルフとは別人のよう。


「レジーナ、お嬢のことを本気で思っているのは、何もクラウスだけじゃないんだからな」

「――え」

「部屋に付いたみたいだ」

「あ、うん」


 ロルフは部屋のドアを開いて、私に中へ入るように促した。言われるまま部屋に入った瞬間、悪女の仮面が剥がれ落ちて、へなへなとその場に座り込んでしまう。

 情報量が多すぎて、困惑と羞恥心で頭の中がパンクした。


(え、ん、ちょ、どういうこと!?)


 家族として接してきた二人から急に異性として扱われ、クエッションマークが浮かび上がる。

 昔クラウスとロルフに花の冠を作って、結婚式ごっこを強要したことはあるけれど、あの時と今では全然違う。


(冗談……よね?)


 よくよく思い返せば、挨拶代わりに私から二人に頬へキスをすることはよく合った。

 それこそティムやレオにだって時々強請られる。


 大切だという意味でのキス――そう家族相当の大切にしているという意思表示ではないか。

 無理矢理自分を納得させようとしたが、碧眼の美しい目が私の心を射貫いたことを思い出しては頬が熱くなるのだった。

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