第3話
「お、お前まさか獣力持ちか!」
覆面の男が少し焦った様子で言った。
「あ?何言ってんだお前...
いいから早く掛かって来いよ。」
「く、くそ!喰らいやがれ!」
覆面の男は先ほど以上の速度で
たいがに右ストレートを喰らわせようとした。
しかし、拳はたいがの手前で止まった。
「ぐ、ぐはーーー!」
たいがのつま先が覆面男の腹に刺さっていた。
「おせーよ。ふざけてんのか?
さっきのスピードで来いよ。」
自分の能力が格段に上がったことに
たいがは気づいていない。
腹を抱え両膝を着き、悶絶しながら覆面男は思った。
(く、苦しい...動けねー...
ここまで力の差が生まれるものなのか...
一刻も早くボスに報告しなければ...)
腹を押え、よろよろと後ろに下がりながら覆面男が言った。
「き、きさま...覚えておけよ。
その中途半端な強さが命取りになるぞ...
俺たちを敵に回したこと、一生後悔させてやる。」
そういうと男は車に乗り、逃走した。
たいがの額から虎の文字が消えた。
「ふー。なんとか勝てたな。
それにしてもあいつ途中からやけに弱くなったよな。
なんだったんだ、あれ。
いや、俺が急に強くなったのか?んー。わからん。」
先ほど起きた現象を不思議に思いながら、たいがは気づいた。
「あ!そういえばあの姉ちゃんがいなくなってる!
いつの間にか逃げ出してたのか!
うおー!どこ行きやがった!感謝状ーーーー!」
あたりを見回しているたいがから少し離れた位置の、
電柱の陰から一人の男が無言でたいがを見ていた。
翌日。学校の教室にて...
自席で頬杖を突きながらたいがは考えていた。
(はぁー。感謝状残念だったなー。
もうちょっとで有名人になれたのに...
あいつらまた現れねーかなー。
今度こそ感謝状をゲットしてやる。
いや、何考えてんだ俺は!平和が一番だろ!
何か平和的に感謝状をもらう方法ないかなー。)
どうでもいいことで悩んでいた。
「たいがくーん。」
「おー、蛇沼。今日も前髪揃ってんな。」
「へへ、そうかなぁ。
さっき知らない女子から言われたんだけど、
なんかたいが君に話があるから屋上に
来てほしいって伝えてほしいって。」
たいがの目が急に開いた。
(ま、まさか昨日の俺の活躍を見ていた女子が
俺に惚れて...)
「そ、そうか!めんどくせーなー。
まぁ、でもシカトするのも悪いよな。
しょうがねーから行くかー。」
冷静を装うたいがだが明らかに口がニヤけていた。
たいがが屋上に向かう階段を登りながら言った。
「で?なんでお前が着いてくんの?」
蛇沼が笑顔で答えた。
「いいじゃん。親友なんだし。」
「ふーん。そうだな。」
(親友なら人の恋路を邪魔すんじゃねー!!!)
たいがは少しイラついていたが、
屋上のドアの前に着いたときにはそんな感情は
無くなっていた。
(こ、こ、この奥に俺の運命の人がいるのか...
心臓飛び出そうだ...)
少し震えた手で屋上のドアをそっと開けた。