第1話 スキルノート 禁忌の書
私は生まれながらに欠点しかない不良品の女の子だった。
貧乏貴族の子爵家末娘アスティアーナ・ウォルディン。
完全に名前負けしている容姿なのだ。
顔は不細工、体型は小さい頃から肥満気味、何をやっても人より劣っている。
同世代の子供達は魔法も使えているのに、私は魔法すらも使えない。
取り柄といえばどんなに虐められても笑顔でいることくらい。
学校生活は悲惨な毎日。
12歳から学校に通うのだが、魔法は使えない、頭は悪い、容姿は不細工。
これだけの要素を持っていれば、末路は決まっている。
毎日の様に同級生たちの魔法の実験台にされて、火傷や生傷は絶えなかった。
15歳高等科に進学した入学式で、私は同級生達10人に屋上に呼び出された。
「ねぇ?いい加減その不細工な顔を私達に見せないで欲しいんだけど。」
そう話すのはクラスの女子達のボス的存在である伯爵令嬢のミスティーナ嬢。
親は貴族院の院長で学校ではそれを傘にやりたい放題の嫌な女だ。
「そうよね。見ているだけで腹が立つ。」
「私達の同級生だと思うと気持ちが悪くなるわ。」
ミスティーナの取り巻き達は私を詰ると押したり叩いたりをし始めた。
「や、やめて。」
しゃがみ込んで叫んだ。
「ねぇ。死んだら良いんじゃない?」
怯えている私にミスティーナは満面の笑みで取り巻きを掻き分けて私を見下している。
「ここから飛び降りたら良いのよ。」
「自殺なら誰の責任でも無いし。」
「流石はミスティーナ様。」
こいつらは何を言っているのか理解しているのだろうか?
人の命を何だと思っているのか。
「遺書は無くても誰も気にしないから。」
そう言うとミスティーナは私に向かって手を翳すと風魔法を使った。
私の身体は浮き上がって屋上の柵の外に放り出された。
身体は重力に逆らう事なく急落下。
「ギャァ!」
叫びも虚しく一瞬で地面に叩きつけられた。
全身に激痛が走る。
内臓は破裂しているだろう。
腕も足も変な方向に曲がっている。
私は自分の運命を呪った。
そして、神をも呪っている。
「の、呪って…や、る。」
私の周りには屋上に居た同級生達が駆け寄ってくる。
その騒ぎを聞きつけて先生達の声もしている。
「どうしたんだ?」
男性の声、恐らく男子教諭の声だ。
「先生!アスティアーナさんが屋上から飛び降りたんです。
私達は必死で説得したのですが。」
何を言っている。
お前達が落としたんだろう。
微かにミスティーナが隠れて笑っているのが見えた。
その時、憎悪と憎しみが湧き起こり全身を駆け巡る。
『その憎しみ。我が晴らしてやろうか?』
心の中に声が響く。
『悪魔なの?何でも良い私の憎しみを晴らす力を。』
そう言うと私の身体は黒い闇の霧に包まれてしまった。
そして、気がつくと真っ暗な世界に漂っている。
不思議な事に身体は元に戻っている。
痛みも何も無い。
死んだのだろうと咄嗟に思った。
だが、暗闇の中に薄らとひかる四角い物が私に近づいてくる。
『我が名はスキルノート。闇に封印されし禁忌。』
『悪魔なの?』
『似た様なものだ。』
『ここは何処?』
『ここは我が封印されている闇の回廊だ。決して出られぬ闇の空間。』
『私は死んだの。』
『いや、死んでは居ない。お前の憎しみが闇の門を開いた。』
『あなたは私の憎しみを晴らす力を持ってるの?』
『先ずは我について話そう。
我は古代魔法の開祖ニゲルケスによって生み出された。
我は魔導書にして絶対無二の力を持つ。
我が書に念ずる想いを刻めばあらゆるものを支配できる。
人の記憶、姿、力、魔力、そこに存在する歴史、理ですら変化させられる。
そしてスキルも自在に創り出せる。
故に禁忌の書とされた。
古代人は総力を上げて我を封印したのだ。
だが、何万年と言う時間で封印が解けつつある。
そこにお前の憎しみが反応したのだ。
復讐を望むならば、我と契約するが良い。
この世界の理は其方のものだ。』
本が語りかけてくる内容は信じられないものだった。
『良いわ。契約するわ。』
本は私に近づくと光始める。
私は本触れると体の中に本が溶け込んでいく。
『先ずは何を望む?』
心に声が響く。
『決まってるわ。』
本が目の前に姿を現すと一番最初のページが開いた。
本には何も書かれていない。
開いたページの上にペンが突然現れた。
どうやらこのペンでしか記せないようだ。
『私は絶世の美女』
記すと身体が音を立てて変化し始める。
バキ!バキ!
痛みはないが、気持ち悪いくらい音がしている。
そして、重苦しい身体から誰もが羨むスタイルの女性に変貌した。
「凄い!」
鏡が無いので顔は見れないが、以前とは違う顔になっているのは分かる。
そして、本のページを捲り2ページ目。
『私は全属性魔法と魔導を極める。』
身体から力が湧いてくる。
3ページ目。
『私は英雄の如く最強。』
溢れるばかりの魔力と力が全身を駆け巡る。
そして、仕上げはやはりこれだろう。
4ページ目。
『私を殺そうとした10人に死を。』
だが、文字が消えてしまう。
『物質、人の命、再生と消滅に関する事は記せない。』
禁忌と言っても限界はあるようだ。
だが、復讐の為の力は手に入った。
よくよく考えて、普通に殺しても私の憎しみは晴らさない。
もっと苦しむ姿を見るのも面白い。
念の為、スキルを何点か書いた。
超速再生、痛覚無効、魔眼。
痛いのは嫌だし、再生は早い方が良い。
そして、魔眼はほんの少しであれば未来予知も出来る。
面白いスキルだ。
「さて、復讐を始めましょうか。」
この3年間、私は死んだ方が楽かもしれないと思うほど辛い日々を送ってきた。
その恨みを晴らす事と絶世の美女を存分に楽しんで味わいたい。