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interlude



 暗闇だった。


 視界に入る僅かな光は周囲の機器の小さなランプやメーターの蛍光のみで、そのほんの僅かな光源さえ、出力を絞っているようであった。

 そんな足元もおぼつかないような真っ暗闇の中で、『彼ら』は慌ただしく働いていた。


「第四層突破、第六鏡面結界突破!」「次元迷彩、欠損ありません!」

「機体損耗率、2%以内!」「現在位置、目標都市上空! 浮上位置誤差27%と推測!」

「全行程完了! 再起動準備完了!」


 次々と交わされる報告。最後の言葉が終わった瞬間、お互いに殆ど見えない中で彼らは知れず顔を見合わせ、口端を上げた。

 彼らの一人が代表するように声を上げる。


「大尉殿!」


 それは彼らの後方であり、上方であり、中央であった。

 そして何より、彼らという組織の中枢であった。


「――結構だ、諸君! 第二魔導巡洋型潜空艦クロムウェル、再起動!!」


 ぱん、と手が鳴らされる。


 かち、かち、かち、と天井に一列縦に並んだ電灯に光が戻っていく。部屋前方の壁面もまたモニターとしての機能を取り戻し、暗闇に沈んでいた部屋が輪郭を取り戻してゆく。


「中隊諸君、実にご苦労だった。艦の機能九割を落としての次元迷彩航行。真っ暗闇の中での艦制御。普段であればおよそ必要のない労をかけた」


 大きな会議室に近い縦長の部屋

 あらゆる所に設置された大量の機器。

 円形に歪曲した壁面を埋めるデイスプレイ。


 そこは指令室であり、長大なコックピットだった。ちょうど巨大な試験管の中に床と大量の設備を敷き詰めたような形状であり、後方に行くほど階段状に高さが生まれる構造であった。

 そしてその最上段中央、物見台として突き出た場所に『彼』は泰然と座していた。


「だが、見るがいい! 諸君らの眼前に広がるものこそが、その労力の成果だ!」


 低く、力強い声が浪々と艦に響き渡る。

『大尉』と呼ばれた男は頑丈な司令椅子から立ち上がり、白手袋に包まれた両手を広げて前方を指してみせた。


 前面の巨大なモニターが外映像に切り替わり、外界が目の前に展開される。

 目に映った光景に艦内の面々からおぉ、と感嘆の声が上がる。


「此処こそが我々の目指した場所だ。遥か大陸の果て、極東の大地! ソラと循環の祝福を受けた黄金郷。魔と自然と(ことわり)が一体として存在していた、望むべき大霊地!」


 そして、


「――今まさに人によって死に絶えようとしている、悲しき斜陽の地だ」


 彼はモニターの向こうに向けて至極哀れんだ口調でそう呟き、再び声を張り上げた。


「クロムウェル全艦乗員に告ぐ! 状況は第三段階に移行、我らはこれより行動を開始する!」

「「了解しました(イエス・サー)!」


 一様に重なった返答と共に動き出した人員たちを確認し、男は満足そうにシートに腰を落として脚を組む。

 膝の上で指を合わせた彼は壁面に映る都市を眺め、微笑を浮かべた。


「……さて、返して貰おうか超能力者諸君。私の、我ら魔術師(ウィザード)の聖地を」




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