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第五章 Welsh_Crusader -7



 一体、何年分だろうか。


 幼い少女の姿をした男は吹き荒れる血の暴風雨の中、自分でも意外なほど静かな思考でそう考えていた。目を瞑り、魔力が伝えてくる視覚を見る。

 浮き上がった影――高速で動くのは御影カオリか――に右手のマスケットを向ける。


「――――」


 この暴風に使用した血液は今まで自分が少しずつ貯蔵し、魔力を込めてきたものだ。

 今までの年月そのものと言えるものを、こうして全て解放した。

 髪として貯蓄し、限界まで伸ばした魔力の予備も、もう尽きる。


 彼らを打ち倒し『本』を手に入れたとて、果たして大深に接続し、強制励起出来るほどの力が残っているだろうか。いや、その時はその時、この身を炉心にくべるまでだ。


(――そうだ)


 私はここに一人でやってきたのではない。

 彼らを、薔薇十字軍ローゼン・クルセイダーを率いてきたのだ。


 自分一人欠けたとて、歴史が変わるのを見届ける者はいる。その在り様を、(ウロ)のような魂を埋めるために、新たな人生を歩んでいけるはずだ。


(そうだ、それでいい)


 必要なのは環境だ。

 権力でも金でも、まして人でもない。


 そういったモノは所詮――生きていく先々で選択されるもの。


 魔術師(かれら)に必要なのは、生きてゆくための、立つための確かな地盤なのだから。


「――――――――」


 武器を振るう。

 魔力を回す。

 意思を放つ。


「――――――――――――」


 魔弾を掻い潜り、懐に潜り込んだ超能力者の少女から飛び退き、距離を取る。

 両手のナイフを振るう彼女の剣線をサーベルで受けきり、補充した魔弾を発射する。

 横から飛び出した傭兵が魔弾の幾つかを蹴り飛ばす。

 残った魔弾を爆発させて傭兵を引き下がらせ、手負いであろう超能力者にサーベルを振り下ろす。超能力者は苦しそうな挙動で両手のナイフでガードし――


「――――、――――?」


 待て、と大尉はゆるやかな思考の中で生まれた違和感に気付く。


 あの超能力者……確か、ハルと呼ばれていた鉄を操る少女。


 彼女は魔弾を右腕に二発、モロに喰らったはずだ。

 ただの鉛弾でも一部位としては致命的、まして魔弾をまともに受けて両腕を動かすなど不可能だ。


(…………こいつは)


 幼女は気づく。

 目の前の敵が、超能力者ではないことに。


 魔力を集中させて姿を確認してみれば、それは翼を背中に生やし、頭に大きな角を戴いた、謎の生命体だった。ヴィクトリア(ソレ)はこちらの思考を読んだかのように、にやりと苦し気な笑みを浮かべた。


「……ッ!」


 強化した脚で、謎の生命体を蹴り飛ばす。


(なに……!?)


 大尉は戦場に満ちる血液の視覚を総動員して消えた超能力者を探す。


 だが、この戦場に在る影は三つしかない。

 詳細な姿は分からずとも、途中で入れ変わりでもしたなら流石に簡単に判る。これ以上の幻覚は無い筈だ。

 だというのに、一体彼女はどこに行ったのか。


 幼女は答えを求めるように、一番遠い場所に立つ少年に認識を集中させる。

 戦わずに立ちすくむ彼の目は、確かにこちらを見つめていて、


「――――、」


 ドンッッ!!!


 身体の中央に衝撃があった。

 ほぼ直上から放たれた弾丸が、大尉の腹を穿(うが)っていた。


 幼女は爆発したような痛みを感じながら天を真っすぐ見上げる。

 遥か頭上、高くそびえる本部ビルの屋上。


 そこに空を遮る鉄の船底はなく。

 夕刻を背景に狙撃銃を持った銀髪の少女と、それに寄り添う妹の姿があった。


「――、――――」


 幼女が空に手を伸ばす。

 魔力が切れる。


 紺色の髪が輝きを失う。

 制御を失った赤い暴風雨は、内部に秘めたエネルギーを解放するように、戦場を大爆発で包んだ。


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