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interlude


 聞いてない、と青年は思った。


 確かに治安維持隊に所属していれば危険な任務の一つや二つ、こなすことも珍しくはないだろう。あるいは少々特殊な状況に置かれることも。

例えば、たかが高校の入学式に警備として動員される、とかだ。


「は、ははは……転職しようかな、俺……」


 もちろん、想定外というものは起きるべくして起きるものだ。


 その入学式で突然、女学生が生徒会長に向けて発砲する、というのもまあ――分からないでもない。少なくとも今の世界において理解が難しいという程でもない。


 そしてそれを、自分の出る幕も無くあの化物が片付けてしまった、というのも。


 だがそれでもこれは聞いていない、と青年は思った。


 閃光と衝撃波。そして轟音。遅れて爆風。

高校中の強化ガラスを瞬時に破壊し、二つの施設を吹き飛ばし、頑強な校舎にヒビを入れた災厄。


「――――、」


 冗談のような光景に、彼は絶句してタバコを取り落とした。小一時間前まで百名以上の人間が並んでいた広々とした校庭に、巨大なクレーターが出来ている。


 幸運だったのは今朝の件について上官からのありがたい叱責の憂さを晴らしに、校舎裏までヤニを入れに行ったこと。そのために彼は無傷だった。


 不幸だったのは、彼が無事な人間の中で最も現場に近い者であったことだった。


()()()()()()()()……!」


 想定外というものは起こるべくして起こる。

 隕石の落下だけなら――いかにそれが凄惨な被害を生むとしても――ただの災害に過ぎない。だがしかし、目の前のソレは明らかに青年の許容範囲を遥かに逸脱するものだった。



【……、……?】



 声が、した。


 気のせいだと思いたかった。なぜならアレから声がするのは、いいや、音声が発生するなどあってはならない事だからだ。ただでさえ今日は朝から脳が困惑しているのだ、これ以上負担をかければパンクしてしまうに違いない――――


「ひ、ぃ」


 顔面蒼白になった哀れな青年の口から、堪え切れなかったように悲鳴が漏れる。常識と理性がいくら否定しようとも、本能は恐怖を抑えることが出来なかった。


 人影があった。もうもうと立ち上る粉塵の中に、ありえざる投影が起きていた。

 異形。シルエットを見ただけでそう呼ぶに足る、その姿が。

 幾本もの巨大な触手を背負った少女の影が、そこにはあった。


「……」


 音もなく青年の身体が崩れ落ちる。

容量を超えた恐怖に意識を落とすことを選んだ彼の脳が最後に思考したのは、地面に落ちたタバコの不始末のことだった。



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