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失意の魔剣士と四人の少女7

「…………は?」


 グレイヴが、間の抜けた声を上げる。

 その視線は、つかみ取られた自分の鞭に向いていた。

 自分が見ているものが信じられないといった様子だ。


「なっ、なん……。えっ? なんで、俺の鞭を握って……」

「操作魔術を見せびらかすのはいいが、これでは本末転倒だな。せっかくの先端の速度が落ちてしまっているぞ。鞭の強みを消してどうする」


「いっ、いやいやいや。違う違う。違うって。そういう問題じゃ、なくてだな……」


 言いながら、ゆっくりと奴の表情が泣き顔に変わり、そして。

 ついに、グレイヴが叫んだ。


「……掴めるわけ、ないじゃん!? 素手で、鞭をさぁ!? 遅くなってようが、音速越えてんだぞ!」


 ないじゃん、と言われても、掴んだものは仕方あるまい。

 そのまま手に力を籠めると、バチッ、と鞭に電流のような光が走り、はじかれるようにグレイヴが手を離した。


「ヒッ!? ……なっ、なんだ!? なにをしやがった!?」

「大したことはしていない。鞭に俺の魔力を流して、制御を奪っただけだ」

「はあっ!? だっ、だけって、そんなわけあるかぁ! そんなこと、操作魔術を俺以上に使えないと……。……まっ、まさか……?」


 グレイヴの顔が、真っ青に変わっていく。

 そう、俺は元素魔術以外に、操作魔術も身に着けている。

 そもそも、先ほど火球を曲げて飛ばしたのは、元素魔術と操作魔術を掛け合わせた技。


 操作魔術もさして得意なわけではないが、グレイヴ程度の使い手から制御を奪い取るぐらいは、どうということもない。


「ひっ、ひいっ……。ばっ、化け物だ! こいつ、人間じゃねえ!」

「こっ、殺されちまう! 逃げろ! 逃げろおお!」


 それを見ていた【正当なる金貨】のメンバーたちが、ヨタヨタと逃げ散っていく。

 そして、その場にはグレイヴだけが取り残された。


「あっ、ああああっ……。馬鹿な……。剣だけでも、あんな化け物みたいに強かったのに、魔術までそんなレベルだなんて、ありえねえっ……! 嘘だ、嘘だぁ……! ひっ!?」


 地面にへたれ込み、ぶつぶつと何かを言っているグレイヴ。

 だが、俺が鞭を手ににじり寄ると、奴は顔を絶望に染めて、情けない悲鳴を上げた。


「さて。では、したことを償ってもらおうか」

「まっ、待ってくれ……! しっ、仕方なかったんだ! おっ、俺だって正しく生きようとしたんだ! だけど冒険者の生活はやっぱり最低で、いつまでもあんたみたいにはなれないし……! 俺だって、良い目を見たかったんだぁ……!」


 ボロボロと涙をこぼしながら、赦しを請うグレイヴ。

 こいつはこいつで、大変だったのだろう。それはわかる。

 だが、ここで見逃せば、こいつはどこまでも堕落していくだろう。


 ここは心を鬼にして、罰を与えてやらねばならない。


「グレイヴ。ケツを出せ」

「ひっ……!? 待って、待ってくれぇ……! ゆっ、許してぇ……!」

「ケツを出せ、と言っている」


「ひっ、ひいいいいっ……!」


 びしり、と鞭で地面を打ちながら催促すると、グレイヴはぐずぐずの泣き顔で観念したようにケツをこちらに向け、そしてずるんとズボンを下げた。

 それを見て、カーラたちがきゃっと少女らしい悲鳴を上げ、慌てて視線を逸らす。


「……別に、ズボンまで下ろせとは言っていないのだが。まあいい。そらっ!」

「ぎゃひいいんっ!?」


 鞭を構えると、俺はそれを遠慮なくグレイヴのケツに叩き込んだ。

 バシン、と強烈な音がして、たった一撃でそこに大きな赤い跡が付く。

 可哀相だが、それでも俺は心を鬼にし、鞭を振るい続けた。


「これは、ヴィルを蹴った分! これは、カーラの手を打った分! これは、リアンナを引き倒した分!」

「ぎゃん! ぎゃああんっ! ああああっ、赦して、赦してくださいいいい!」


「そして、これは……裏切られた、過去のお前の分だ!」

「ぎゃああああああああーーーっ!!」


 最後にひときわ強く打ち下ろすと、グレイヴは絶命しそうなほどの絶叫を上げ、そのままがくりと崩れ落ちた。

 俺は鞭を放り捨てると、意識があるのかわからないグレイヴにささやきかける。


「今回は、これで見逃してやる。だがいいか、もしまた道を踏み外したその時には……俺が、お前を殺してやる。もっとも残酷な方法でだ。わかったな」

「あっ……。あっ……」


 尻を赤く腫れ上がらせ、口から泡を吐きながら、返事とも取れない声を漏らすグレイヴ。

 これで、立ち直ってくれればいいが。


 そんなことを考えていると、そこで、興奮した様子のヴィルたちが駆け寄ってきた。


「イングウェイさん! すっっっげーーー! すげえ、すげえっ! やっぱり、とんでもなく強い!」

「信じられませんわ、とてつもない魔術の数々! どうやって、あれほどのものを身に着けたんですの!?」


「おじさん、凄い、本当にかっこいい……! やっぱり、おじさんは世界一かっこいい!」

「いっ、いっ、イングウェイさんの、戦いを生で見られるなんて、嬉しくて、どうにかなっちゃいそうですっ……! はああっ、すごかった……!」


 俺の周りを取り囲み、口々になにか言い始める少女たち。

 ……正直、対処に困る。

 ブレイバーにいた時は、こうやって人に取り囲まれるのはアルの役目だった。


 慣れない環境に戸惑い、俺は少女たちを押しとどめ、真面目な顔で言った。


「待て、気を抜くのは早い。まだ終わっていない」

「えっ? でも、あいつらはイングウェイさんが追っ払って、もう大丈夫なんじゃないの?」


「馬鹿言え。奴らは、驚いて一時逃げ散っただけ。正気に戻れば、怒りをたぎらせて復讐に来るぞ。そうなれば、やり方はいくらでもある」


 そう、隠れてギルドに火を放ったり、俺の留守を狙ったり。

 そういう陰湿な手に出られると、こちらは圧倒的に不利だ。


「で、でも、じゃあ、どうしますの……?」


 不安そうに言うカーラ。

 それに、俺は不敵な笑みで返した。


「決まっている。こちらから出向いて、争いを終わらせてやるんだ。……お前たちもついてこい。冒険者の世界を、見学させてやる」

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