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プロローグ



 彼……いや、彼女になるのか?

 何方で呼ぶのが正しいのか、今だにその答えが分からずにいるが、まぁ彼女で良いだろう。

 普通の時は、女性な訳だし。

 俺と彼女との出会いは、本当に偶然だった。 

 でも、その偶然が代り映えしなかった俺の人生を大きく変化させる出来事となったことは言うまでもない。



 


####




 今日の日中気温は、最高気温の四十度。

 そんな中、一眼レフカメラを首に下げ、俺が訪れたのは地元の観光地『清水寺』

 煌々と照る付ける日差しの下で流れる汗の量は以上で、紫外線が俺の白い肌を容赦なく焼きつけ、刺激する。

 朝起きてから何も口にしていなかったせいか、乾いた喉がやけに痛い。

 霞む視界とぐるぐると回る景色。

 俺はその場にしゃがみ込み、目を閉じて俯く。

 周りの音が、声が、遠のいていく気がする。

 



 ヤバイ、熱中症になったかも……。 




 怠くなる体とは対照的に頭はやけに冷静で、そんな事を考えながらその場に蹲る事になった俺。

 周りの誰もがそんな俺を見て見ぬフリで横切り、歩いて行くのが分かる。

 少しは、声掛けようとかいう気は無いのか。

 自分の体調管理が万全じゃなかったにも関わらず、そんな毒を吐いてしまう俺は相変わらず捻くれているなと思う。

 西城裕斗、今年で二十七歳になる普通のサラリーマン。

 平日は広告代理店で働き、休日はカメラ片手に京都の街をぶらつく事を趣味としている。

 何処にでも居る、普通の一般人だ。



 知り合いも傍に居ない今、この状況をどう打破するか考える。

 だけど、考えるよりも体調の悪化の方があまりにも酷くて俺は柄にもなく泣きそうな気持になった。

 だが、そんな時。




「大丈夫ですか?」




 目の前で止まった人の気配。

 頭上から降ってきた言葉と、特徴的な中性感溢れる声。

 さっきまで容赦なく照り付けられていた日差しが遮断され、影を作り出される。

 俺は薄ら目を開け、顔を上げる。

 燦燦と照る付ける太陽がバックになり、目の前に立つ人の顔が影でハッキリと見えない。

 



「体調悪そうにしてるのが見えて声掛けさせて貰ったんですけど……」




 百七十超えの身長の俺よりも、見るからに小柄な体格。

 一瞬女性かと思ったけれど、身に着けている小物や服装は全てメンズもの。

 中学生だろうか?




「あ……大丈夫です…」

「大丈夫そうには見えないんだけど……良かったら水飲んで下さい。さっき買ったばかりなので新品です!」

「……。 ありがとうございます」




 お礼を言って差し出されたペットボトルを受け取る。

 冷たく冷えた水が乾いた喉を潤したい衝動を掻き立てる。

 俺は遠慮なく蓋を開け、乾いた喉を潤す為に水を必死に流し込む。

 ゴクゴクと喉を流れて行く冷たい冷水が、熱くなった体に染み渡る様に巡回していく。

 渡された水と見下ろす人が作り出した日陰のおかげで、少しだけ体が冷えていくのが分かる。

 



「少しはまっしになりました?」

「はい。すみません、水代払います」

「水代? いいですよ、そんなの!お気になさらず!」




 アハハと笑う彼の声は、とても明るく無邪気に感じる。

 京都に転勤になって五年が過ぎたが、こんなに気さくな人にあったのは初めてだ。

 関西人はフレンドリーな人が多いと聞いたけど……。





「ハル君! そろそろ撮影再開出来そう?」

「ん? あぁ!オッケー!すぐ行くよ!」





 遠くから聞こえてきた女性の声に返答する彼を見上げる。

 ハル君っていうのか……。

 笑顔のまま、その女性に手を振るハル君の姿をボーッと見上げていると、視線が俺に移され大きな瞳と目が合う。

 ドキンッと心臓が大きく跳ねる。

 さっきまで冷めていた体の熱が、視線が合ったと同時に上がってくるのが分かる。




「僕、そろそろ行こうと思うんですけど、体調どうですか?」

「え…あぁ!もう大丈夫です」

「良かった~。 僕、そこで少しの間撮影してるので、もし何かあったら気兼ね無く声かけて下さい!」

「あ、はい」




 ぎこちない俺の返事を聞いた彼は、小さく頭を下げて俺に背を向け歩き出す。



 撮影って、何のだろう?



 その場に座ったまま、小走りで移動したハル君の姿を目で追う。

 黒のタンクトップに涼し気な白のカッターシャツと黒のスキニー、白のスニーカー。

 首に銀のネックレスと耳にはエメラルドグリーンのピアスが光に反射して輝く。

 京都の街が一望できるスポットに移動した彼は、カメラを持つ女性と少し話をした後、石で出来た手すりに腰掛け、ニコニコと景色を見て笑っている。

 


 よく笑う子だな……。



 純粋にそう思った。

 そして、カメラを構えた女性が軽く手を上げると、さっきまで無邪気に笑っていた顔が一変。

 カメラを見る視線が鋭く、次々に変えられるポーズの動きはしなやかで、カメラの前に立つことが慣れた、その動きに俺は目を奪われた。

 男のはずなのに、しなやかなシルエットは女性を思わせる。

 だけど、鋭い眼光やポーズの一つ一つは男らしく堂々としている。

 顔も髪も服装も、さっき聞いた声も全て、俺の知っている女性とは程遠い。


 

 目が離せない……。 



 二十七年間生きてきて、イケメンと呼ばれる部類の人間に出会った事は何度もある。

 東京という大都会に居た時何て、ごろごろといた。

 だけど、誰かを見て目が離せないと思ったことは今まで一度だってなかった。


 

 撮りたい。

 


 彼の姿をこのカメラに映し出し、切り取りたい。

 そう思った瞬間、自然と動いた手はカメラを構え、彼へと向けていた。

 撮影がひと段落したのか、レンズ越しに見る彼の顔は、太陽に負けない位の眩しさを放っている。

 


 こっちを見てくれないだろうか……。



 気づいてくれる訳無いと分かりながらも、心の中でそう思う。

 その時、風の吹き回しが起こり、あまりの強風に俺は目を閉じた。

 周りの木々が激しく揺れ、ガサガサと音を鳴らす。

 そして風が収まり目を開けると、さっきまで少し遠くに居た彼が此方に向かって歩いて来ていた。

 カメラを構えたまま固まる俺。

 



「体調はどうですか? 僕、そろそろ別の場所に移動するので…」

「あ、はい。大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

「いえいえ!それじゃ、僕はこれで!」




 立ち上がった彼は、小さく手を振って歩き出す。

 向けられた背中を見て、言葉は沢山浮かんできた。


 


 『お名前は何て言うんですか』

 『今度お礼をしたいので、連絡先を教えてください』

 『また此処に来ることはあるんですか』




 だけど、一番言いたい言葉は……




「い、一枚だけ!」

「え?」

「一枚だけで良いから、写真撮らせて貰えないかな?!」




 勢いよく立ち上がった俺を見て、目の前の彼は目を丸くする。

 俺の顔をまじまじと見た彼は、視線をゆっくると下に向け俺の胸元で止め、笑った。

 その視線を見て首に下げているカメラの存在を思い出す。

 続く沈黙を破る様に、そのカメラを前に出し言葉を続ける。




「俺、写真撮るのが趣味で、もし君が嫌じゃなければ……その……」




 目の前に立つ彼からの返答が返ってこず、気まずい時間が続く。



 引かれただろうか…。


 キモイと思われただろうか…。



 当たり前だ。 見ず知らずの人間から写真を撮りたい何て言われて、引かない奴何ていない。

 やってしまったと、一気に後悔が募る。

 不安な気持ちに負けるように自然と首が俯く。

 そんな俺を余所に聞こえてきたのは小さな笑い声。

 顔を上げ、その笑い声がする方を見ると、口元に手を当て笑いを堪える彼の姿が目に入った。

 くしゃりと笑う彼の顔は、少し幼さが感じられる。




「笑っちゃってすみません! めっちゃ必死だったので」

「いえいえ! えっと…ということは……」

「僕なんかで良ければ幾らでも! ちょっと待ってて下さい! 一緒に来てる子に伝えてきます!」

「あ、はい! すみません」

「いえいえー!」




 嫌な顔一つせず、そう言った彼は連れの方の所に駆け足で行き、少し話をしてからすぐに俺の元に戻ってきた。




「何処で撮りますか?」

「え?あ~えっと…それじゃ…三重塔の前に立って貰って良いかな?」

「はい! ポーズとか表情の指定とかあります?」




 その質問に返答が困る。

 俺は今まで、趣味程度で風景を撮ることはあっても、人物を撮る機会は一度も無かった。

 ポーズとか表情とか、どうやったらモデルを上手く撮れるのか。

 そんな知識は一切無い。

 その事を思い出した瞬間、自分が言い出した事でありながら後悔の念に襲われる。

 



「えっと……」

「ん? 指定とかは無いですか? なら、好きな様に動きますけど…」

「あ、はい!それでお願いします!」

「了解です!」




 カメラを構え、レンズ越しに彼を見る。

 右足を前に出し、ズボンのポケットに片手を入れ、顔は横に向けられている。

 遠くから見ていた時と同じようにギャップ溢れる、その表情が目の前にある事に息を呑んだ。

 シャッターを切っていく度に、少しずつ動きを変えてくれる。

 撮りやすい。




「ラスト一枚いきます」

「はーい!」




 そして、ラスト一枚を撮ろうとした時だった。

 さっきと同様、強い風が吹き込む。

 その影響で目を瞑ってしまった俺は、そのままシャッターを切ってしまう。




「うわぁ。今日風が強いですね…」

「ですね……」




 前で髪を整えながら、そう言って笑う彼。

 俺は会話をしながら、撮った写真を確認する。

 そして、数枚撮った写真の最後に強風の中ノールックで撮った写真に差し掛かる。

 ディスプレイに映る彼は、髪を手で抑えながら満面の笑みを浮かべている。

 



「いい写真撮れました?」

「あ、はい。見ますか?」

「見る! おぉ、凄い!めっちゃ盛れてますね!」




 ディスプレイを覗き込む様にして見る彼との距離が縮まる。

 ほのかに香る石鹸の香りが鼻を擽る。

 



「ハル君! まだかかりそう?」

「あ、ごめん。 もう行く!」



 そう言って女性に手を振る彼は、顔を上げ俺を見た。

 後少し動けば、唇が触れるのでは無いかと錯覚させられる程の距離にある顔。

 パッチリとした大きな瞳が俺を真っすぐ捕らえる。




「それじゃ、僕はそろそろ行きますね!」

「あ、はい」




 彼の声でハッと我に返る。

 何時の間にか距離が出来ていた俺と彼は、向き合う形で立つ。

 



「熱中症には気を付けて下さい! 水分補給しっかり! それじゃ!」

「あ、はい。…ありがとうございました」




 手を振り、去っていく彼を見送り一人になった俺は、カメラのディスプレイにもう一度目線を落とす。

 それは、嵐の後の静けさか。

 彼が居なくなった今の空間に少し物足りなく感じる。

 


 あ、そう言えば名前を聞いてなかった。

 


 そう思い出した時にはもう遅く、周りを見渡すも彼の姿はもう何処にも無い。

 もう会うこともきっと無いのだろう。

 ディスプレイに映し出されている最後に撮った彼の笑顔の写真。

 


「綺麗だな……」



 呟く様に、独り言の様に言ったその言葉は、誰に届くでも無く、優しく吹く風にのって静かに消えるのだった。


 




初めましての方は初めまして!

何時も応援して下さっている方は、お久しぶりです!沖田さくらです!

今回、新しい小説を書かせて頂く事になりました!


この小説は、コスプレイヤーをメインとした小説になります!

私自身凄く興味のあるジャンルでしたので、ずっと書きたいと考えていました!

コスプレイヤー様やコスプレが好きな方などの目に留まれば嬉しいなと思います!


皆様の読んだ感想なども、沢山お聞かせ頂けると幸いです!

今後ともどうぞ、宜しくお願い致します!

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