第九話 ー パキスタン
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パキスタン —
私はインドで買ったゆったり加減のクルタパジャマを着込み、髪の毛は伸び放題、顎髭ボーボー、サンダル姿という出で立ちで颯爽とパキスタン入りした。
鉄道でラホール駅に降り立った私はお目当ての安宿を見つけ、宿主は愛想がよいので先ずはひと安心。その後、ラホール博物館へと足を運んだ。この博物館には落ち窪んだ眼、血管やあばら骨までくっきりと見える仏陀苦行像(Fasting Buddha)があり、写真で見るのとは大違い、まるで生きているかのような芸術作品で、一見の価値がある。又、パキスタンはインダス文明の発祥の地だが、モヘンジョダロの遺跡は列車で10時間かかるという理由で、又、仏塔・仏寺の遺構が数多く見られるガンダーラの都市遺跡タキシラ(タクシラ)は近くを通ったものの体調が芳しくなかったので行けなかったのが悔やまれる。
ラホール市 ― 向こう正面にモスクが見える
人に誘われて行ったので、どこの町だったか、何という湖だったかどうしても思い出せないが、同じ宿で出会った総勢5人の日本人と海抜二千メートル前後の山岳湖を見に出掛けた。着くと周囲の山肌がむき出しになっていてゴロゴロとした地面もさることながら原始時代に戻ったみたいだ。そんなところに円形のこじんまりとした湖があって、これが火口湖と呼ばれるもの。水が湖底から湧き出ているらしく水が溢れて、湖岸から流れ落ちている。湖の中を覗くとその透明さに思わず息を呑んだ。
「魚はいるんだろうか」と言って、私は中を覗く。少なくとも5メートル先まで見える。
「見えないねぇ」と同行の一人。
「泳ごうか」
「水を汚すよ」と冗談半分。
「そんなアホな。湖水が溢れ出ているよ」
それで、みんなで泳ごうとなって、パンツ一丁になる。
「私は離れて見ているわ」と紅一点の女の子はそう言って遠ざかってしまった。
この太古の昔を思わせる周りの景色を眺めているとネッシーが現れそうな気がしたが、私たちは短い遊泳時間を十分に楽しんだ。
夕方、ペシャワール行きの列車のチケットを購入するために駅へと向かった。インドでもそうだったが、鉄道職員は英語が堪能だ。外国人観光客を誘致するために力を注いでいると思われる。私はいつも2等車の乗客であるが、1等車も3等車もある。3等車は「スリ・盗難に注意」とよく耳にするが、2等車は庶民的な雰囲気があって落ち着く。私は当時ヒッピー然としていたので地元のパキスタン人のほうが私を怪しんだというのが実情だろう。それはともかく、この国は女性一人で旅をするのは危険極まる。それが証拠に私はインドでアメリカ人女性から当地に同伴を請われた。
* クルタは、パキスタンから北インドにかけて着用される男性用の伝統的な上着。細目の立襟、長袖、太ももから膝くらいの長さが特徴。ゆったりとしたシルエットで、風通しがよく、快適に着られる。パンツと合わせてクルタ・パジャマと呼ばれ、日本のパジャマの語源になったと言われる。