第四話 ー ネパール
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ネパール ―
5月初旬、バンコックの空港を後にした私はヒマラヤの山懐に抱かれたネパールへ。ここはお釈迦さんが生まれた国だ。観光客は大富豪からヒッピー、登山家、仏教徒、ヒンズー教徒までと多彩。
到着の日、上空からのヒマラヤ連峰はあいにく雲に隠れて見えなかった。首都カトマンズに降り立った私は空港の余りの小ささに驚く。大都会の空港を見慣れてきた私にはミニチュア模型の世界に足を踏み入れたような感じだ。タラップを降りて徒歩で税関の建物に向かう。すると、旅行者を待っているのか、小学校高学年くらいの男の子が十数人、税関の先のほうに見える。
通関後、「ホテル、ホテル」と数人の子どもが声高に叫んで寄ってくる。私は最初、見知らぬこれらの子どもを警戒したが、子供たちの純朴さにひかれて一人の子どもに「オッケー」する。案内されたのは簡素なホテルで、オーナーも人のよさそうな顔をしている。そこで、一泊。
翌朝、私を当ホテルに連れて来た子供にエベレストはどこかと尋ねる。
「そこだよ」と子供は前方に顔を向ける。
私は彼の指し示す方角に顔を向けたが、黒い大きな岩肌のようなものは見えても山とおぼしきものは見えない。
「お客さん、もっと頭を上に向けて」と子供が言う。
私は地上に近いところを探していたのだ。白雪のエベレストは雲の遥か上空にあって、その偉容に私はしばらく言葉を失った。
ネパール エベレスト山
その後、カトマンズ市内を見て回る。道を歩いているとヒッピーらしき日本人と出会った。
「どこで泊まっているんだい?」と気軽に私に話し掛けてくる。
「市内の外れ」
「中心街に泊まったほうがいいな。便利だし、、、」
「じゃあ、一緒のところで泊まろうか」と応えて、一室を二人で分け合った。
注 : エベレストは、チベット語でチョモランマ、ネパール語でサガルマータという。