第十九話 ー オーストリア ~ スイス
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オーストリア ~ スイス ー
ここはスイスとの国境近く、オーストリアの片田舎。野原と小村が一つあるだけだ。幸い空気がとても新鮮で、又、好天の日が続いたが、この村にはユースホステルもないし、ホテルがあったとしてもホテル代を払える所持金もなし。手持ち無沙汰で何もやることがないのだ。
昼間は送金がまだかまだかと郵便局に足繫く通い、パン屋に行ってパンを買いジャムやバターを付けて食べ、又、チョコレートをサンドウィッチのように挟んで食べることもあった。夜は野原でシュラフに潜り込む。
ある日、田舎道をアジア系の女性が手に本を持って、読みながら歩いてこちらにやってくる。先方も私に気付いて足を止め、お互いすぐに日本人だとわかったのか、「こんにちは」と挨拶した。
「こんなところで日本人に会うなんて思ってもみなかったわ」
「僕もびっくり」
「何をしてるの?」
「スイスの国境で入国を断れられて、ここで日本からの送金待ち」
「そう」
「何を読んでるのかな?」
「小説」
「ドイツ語で?」
「そう」
こういった簡単な会話を済ませて二人は別れた。その後、道で再び彼女と出会ったのだが、この時は二人のオーストリア人の女友だちを連れ立っていた。談笑後、私は三人一緒の記念写真を取った。
フォアアールベルク州のスイス国境近く、とある小村で 1976年撮影
彼女の女友だちを見ると高校生に見える。今、60歳ぐらいだな、どんなマダムになっているんだろう?
この小村に滞在して10日後、送金が届いた。すぐさま鉄道駅に行ってスイスのルツェルン行きの切符を購入。列車内にスイスの税関吏がやって来て私のパスポートを一目見て終わり、いとも簡単に国境を通過したのだった。




