第十八話 ー ドイツ ~ オーストリア
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ドイツ ~ オーストリア ー
ここはミュンヘン郊外。道路脇で親指を立ててヒッチハイクをしていると、ものの5分も経たないうちに目の前に車が止まった。
オーストリアに車で行くには山道を上らなければならない。ドライバーは見た目には30そこらの男性。車の乗り心地は必ずしも良いとは言えないが、文句は言えまい。走行中、余り話はしなかったが、突然、彼は23ドルの相乗りの賃金を要求して来る。前後に車が見えないし対向車も殆どなし、こんな人里離れたところで降ろされると次の車を簡単につかまえられるかどうかわからない。高額の支払いを要求されているわけでもないので、彼の言った金額を手渡す。
車はオーストリアの国境に達し、パスポートを見せるだけで、簡単に通過。暫く走って今度はスイスとオーストリアの国境に着く。オーストリア側から30メーター程行くと今度はスイスの税関吏が待っている。片田舎の検問所であるのか、中年のおじさん一人しか働いていない。先ずはパスポートの提示。日本の旅券を見せても反応がない。まるで日本を知らないようだ。次に私のリュックサックを細かく調べ出す。最初に出て来たものは羊皮のコート。このコートはヨーロッパの冬に備えてイスタンブールで買ったもの、新品同様だ。この税関吏はこれをスイスに持ち込んで売る気かなという顔付きでコートの前後を丹念に見回す。次にリュックから一つ一つ所持品を取り出して調べる。最後に所持金は幾らかと訊く。「17ドル」と答えると「リターン」と言って、オーストリアの税関のほうを指し示す。私を乗せてここまで連れて来てくれた彼は気の毒がって、先に払った23ドルをその場で私に返してくれた。
スイスに隣接するオーストリアのフォアアールベルク州
私はとぼとぼオーストリアの検問所のほうに向かって歩くが、その時にある旅行者が私に語ったことを思い出した。
「国境で両検問所に入国を拒否されて、もうかれこれ10年、二国の間を行き来している人がいる」と。
オーストリア側は若い税関吏だ。追い返された旨を伝えると、笑って通してくれる。「何で笑うんや? 面白くもないのに。」 しかし、「通してくれるだけでもマシだよな」と思い返した。この国境からさほど遠くないところに小さな村があり、幸いにも郵便局がある。日本に残してきた旅費を送金してもらうように実家に頼んだが、この小村に届くのはそれから10日後であった。




