第十話 ー パキスタン(2)
10
パキスタン(2) ー
ペシャワールに着いて、新市街にあるグリーンホテルという宿屋に泊まった。別にホテルの宣伝をしているわけではないが、半世紀前の宿泊なので、今でも存続しているのかどうかわからない。
ペシャワールと言えば、東西文化融合のガンダーラ美術を思い起こす。高校の歴史の本に出てくる、カニシカ王の治世で隆盛した。ここにあるペシャワール博物館では「鬼子母神像」が見応えがあった。今まで他人の子供をさらっていたが、釈迦により子供を奪われて苦しむ親の気持ちを知り、我が子も他人の子も愛すようになった子供の守護神だ。単純に「どうして他の母親の気持ちがわからなかったのだろう」と考えてしまうが、彼女の盲点が却って、守護神となる機会を与えたのだろう。
旧市街のキッサ・カワニ・バザールが面白い。お茶屋、金物屋、ジュエリー屋、両替屋、野菜市場など、様々な店が軒を連ね、まるで迷路のようになっている。
このペシャワールから遠くないところにカイバル峠がある。標高1000メートルそこそこあるが、紀元前4世紀にアレキサンダー(アレクサンドロス)大王が通ったところだ。この両隣りには4000メートル級、5000メートル級の山々が連なり、これらを越えて侵略するには空気が希薄(酸素不足)で、その上、武器・食料の運搬には重すぎて適していないのは自明の理。又、私たちに馴染み深い玄奘三蔵もこの峠を越えているが、孫悟空・猪八戒・沙悟浄が登場する60年代のアニメ映画(東映)が懐かしい。
カイバル峠 (カイバ―峠、ハイバル峠 とも表記)
アフガニスタンの首都カブールへ出発するバスを待っていると一人の若いアジア人顔の男性が私に気付いて近づいてくる。私がアジア人だから親近感を覚えるのだろうか。彼は英語が殆ど話せなかったが、モンゴル人であると言う。私は今までいろいろな国籍の人と出会ってきたが、モンゴル人と喋るのは初めてだ。
「アイ・アム・ジャパニーズ」と自己紹介したが、彼は日本という国を知らない。
「どこへ行く?」と彼は尋ねてくる。
「カブールへ」
「おいらは国境まで」
同じバスに乗り込んでちょっくら喋り、彼は国境で降りた。車窓から目で彼を追ってゆくと、境界線と思われるところを何のためらいもなくひょこひょこと通り抜けてゆく。本当に国境があるのかと私は疑ってしまったが、検問が厳しくなるのは、3年後のソ連のアフガニスタン侵攻からであった。




