ep2
「死神、君の動きはいつ見ても綺麗だね。ただ歩いてるだけで、こんなに綺麗に見えるのは君だけだと思うよ」
牢の崖の上、そこからは生い茂った森が暫く続いていた。
ただ、看守が通れるようにだろう、舗装された道が1本だけ伸びている。これを今彼らは歩いていた。
「ありがたきお言葉」
死神と呼ばれる男は、辺りを警戒しながらも小さき主に心からの感謝を述べる。
「口数が少ないのも相変わらずだね。っと、どうしたの?」
唐突に足を止めた死神に驚くように、主は尋ねる。
「我が主、これより先、1人の鼓動がしますゆえ」
「よく聞こえたね。さすが、腕は鈍っていないのかな」
「いえ、少々反応が遅くなりました。ほんの少し、待っていて頂けますか」
「ああ、わかった。安全になったらそうだな。鳥の鳴き真似をしてくれ。昔聞かせてくれたことがあったろう」
「確かに出来ますが、お聞かせした事がありましたでしょうか」
これを聞き、主は驚くように目を丸くする。
「覚えてないのかい? まあ、今はそれはいいか。とりあえずそれでお願いできるかい」
「御意」
死神はその場から音もなく姿を消した。
少なくとも主には、姿を消したようにしか見えなかっただろう。
素早く道脇の森を進み、死神はその道の終着点とも言える場所へとたどり着いた。
主と別れてから1分足らずの事だ。
彼の眼前には、立ちながらうたた寝をしている看守とその看守が守っている門が映っている。
門は車が1台入れるほどの大きさで、鍵も掛けられてなくただ大きく開かれていた。
不用心だ。そうとでも思ったのか、死神は一瞥した後即座に動き始める。
看守の後ろに素早く近ずき、うたた寝している彼の顔の両脇に黒い影が出来る。
ゴキッ
重く、耳に張り付くような鈍い音が辺りに響く。
その音が鳴り止む頃には、看守は死神に背負われていた。
流れる水のように、なんの乱れもなく死神の身体は、この一連の流れを行い終えた。
その後、看守を担いでる。それさえも嘘のような自然な歩きで森の中に消えていく。
主は死神を見送ってほんの数分で、鳥の爽やかな囀りを耳にした。
「相変わらず手際がいいね」
死神と合流した主は、久しぶりに見るであろうその仕事ぶりに感嘆する。
「ありがたきお言葉」
ゆっくりと淡々とした、それでいて喜びの籠った声で、死神はそう返す。
「うんうん。そうだこれを渡すのを忘れていた」
そう言い、差し出した手には、薄汚れた布に包まれた物が置かれていた。
「……これは」
「あぁ、君がずっと使っていたものだろう? 父からずっと預かっていたよ。たしか、死漕だっけ」
「ええ、しかし、よくこれがまだ残っていましたね」
死漕と呼ばれる、その布に包まれた物を受け取りながら、驚いたようにそう返す。
「父は君が居なくなってからも、ずっと君のことを気にかけていたよ。直ぐに渡せてなくてごめんね」
「いえ、構いません」
死神はゆっくりと布を剥がしていく。
そこには見るものを魅了するかのように、妖艶に光る、黒色のナイフがあった。
惹き込まれるように主が口を開く。
「綺麗だね」
「えぇ、とても。ただ、主はこの美しさに魅入られてはなりません。この美しさは死という不変の美しさ。この美にどうか魅入られないでください」
「うん。分かった。君が言うならきっとそうなのだろね」
「主、ここ以上を進むには、私の恰好は少々、似つかわしくないかと」
「たしかに、牢から出てそのままの恰好だったね。うん、さっきの看守の服でも借りたらどうかな? 僕は先に行っているよ。この道を道なりに進めば大丈夫?」
「はい。ここから先は人の住む街。今は少々外れにいますが、直ぐに人の生きる音で溢れると思います」
「ん、わかった。じゃあ、街で待っているよ。場所は……君なら直ぐに見つけられるか」
「はい」
「よし、また後で。気をつけてね」
「御意。主もお気をつけて」
ep3にて大きくこの物語が動き出す…!はず!