表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名のない死神  作者: ハデス
1/13

ep1

硬い石の床に、窓すら付けられていない暗い牢。

この地下牢に収容されている人間は、ただの1人だけ。


纏っている服は、擦り切れ、穴だらけ。

大きく露出してある身体すらも、生傷こそ少ないものの多くの傷が刻まれている。


その男は、突然に、ゆっくりと目を開いた。


その目には生きる気力、その一遍も感じられない。まだ死者の方がこの男よりも生者と見えるほどに。



コツコツコツコツ……



澄んだ水面に石が投じられたかの如く、生きたものの歩く音が大きく(こだま)する。


女のよく透き通る声が、この何も無い空間で、歌のように流れ出す。


「過去の死神よ。もう一度、その刃を主がために使う時がきたぞ」


その言葉に反応する用に、男の指がピクリと動く。


「死を纏うその刃、今再び見れる事を願う」


そういい終わり、軽く男を一瞥した後、女は手から1枚の紙切れを手放す。



パサリ



紙が床に落ちる。ただその音さえも大きく響く。


女は床に紙を落とした後、コツコツと大きな波紋を作りながら牢を去っていった。


男は手紙を手に取り、目を通す。


ただそれだけの動作でさえ、周りには違和感が残る。


男の周りには空気が存在しないかのように、音が消え去り。手紙を手に取るだけの動作が、舞のように美しく映る。


男は瞳を手紙から少しあげ、気だるそうに立ち上がる。


見るからに、そして文字通りの廃人だった男の瞳にほんの少しの炎が灯る。


その男はただ歩くように牢の格子に近ずき、そして静かに牢の外へと移る。


もしも、ここに人が居合わせたら、幽霊がいたとでも吹いて回るだろう。


それほどまでになんの違和感も感じさせないほど、されど違和感しかないこの動作が、何事もなく行われた。


男の周囲には相変わらず音が存在しない。歩く音さえも。


見るからにボロボロの男は、悠然と地下牢の出入口に向かう。


男の囚われていた地下牢は一本道。一つの出入口から道が続き、その両端に粗末な、それでいて強固な牢が並ぶように配置されている。


男が横を通る牢には人はいない。

静かに腐臭を漂わせる肉塊が置いてあるだけ。


男が出入口の扉に手をかけた時、男の耳には確かに声が聞こえてくる。


「おいおい、さっきの綺麗なねぇちゃん。あれ入れても良かったのか?」


「あぁ、こんなもう誰もいない様な牢屋に誰入れても構いやしねぇって」


「全くお前は、毎日毎日飲みながら仕事していいご身分だな」


「はっはっはっはっ! 違ぇねぇや。いやぁ、こんな楽な仕事も中々ねぇぜ。どぉだ? お前も1杯やってかないか? この仕事の唯一の悪いとこといやぁ、話し相手が居ねぇとこなんだ」


「はぁ、俺はお前とは違って忙しい。と、言いたいとこだが、今日はお前の様子を見るだけで仕事は終わりなんだ。是非1杯貰おうか!」


「そう来なくっちゃぁ! にしてもこんな誰もいない牢屋に見張りなんているかね?」


「お前は楽出来るからいいだろ?」


ゴクッ


「くぅーーー! 昼間から飲む酒はいいなぁ!」


「そうだろぉ! ほら、飲め飲め」


彼らの後ろの扉にはほんの少しの隙間が出来ていた。いつからだろう。それさえも分からない。






男はゆっくりと外に足を踏み出す。周りを軽く見渡しながら。


男の視界には崖が映っていた。高い、その言葉しか出てこないほど高い崖。


その崖にはエレベーターのようなものがついてはいるが、男はその機械には目もくれず崖にそっと手をかける。


「登れる」


ボソリと掠れた声で呟き、そして素早く登り始める。


流れるように身体が動き、見るもの全てが美しいと言うほどに無駄な動作が一切ない。


鳥が空へと飛び上がる。それよりも遥かに早い速度でただ静かに登っていく。


果てしないようにも見えるその崖を登り終え、男の目に子供が1人映り込む。


「あぁ、来てくれたか。死神、久しぶりだね」


幼い声で、それなのに落ち着きのある口調で、子供はそう男に呼びかける。


「仰せのままに」


男は膝をつき、頭を垂れながら、掠れた静かな声でそう返す。


「はは、相変わらず変わらないね。色々と話さないといけない事があるけど、とりあえず、父が死んだ」


暗く沈んだ声色で子供はそう口にする。

男はほんの少し頭を深く下げ、子供に先を促す。


「よってこれより僕が主になる。よろしくね」


「御意」


「……うん。まず僕からの最初の命令を言うね。父と君がした約束、うーん、命令? になるのかな。その中で継続が可能なものは、今後僕が主の間は継続するように」


「御意」


「これは父からの遺言でもあるんだ。多分君なら思い当たるものがあると思うけど、よろしくね」


主は軽く笑いながら男にそう言う。続けて話し始める。


「さ、もっと話したい所ではあるけど、まずは場所を変えないと。あんまりここに長居するとまた捕まっちゃう。悪いけど、僕を安全な道筋で安全な場所まで案内お願いできるかな?」


「御意…………1つ良いでしょうか」


俺は顔を上げながらそう呟く。


「うん。構わないよ」


「ここまでどのようにして来られたのでしょう」


「あー、それは、君もあったでしょ?女の人」


「彼女に……理解しました」


「うん。じゃあよろしく頼むね」


男は静かに立ち上がる。そして小さく主に向けてこう呟く。


「では、こちらに」

1話目、最後まで読んでいただきありがとうございます!


こんなご時世ですのでなるべく直ぐに、次に次にと出していきたいと思ってます。

ただ、1話の長さに関しては、かなりばらつきのある作品になると思いますので、そこだけご了承ください。


感想等是非お願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ