メイドとお嬢様
日曜日の朝。
お目当てのアニメを視聴するためにテレビの前で待機してるチビッ子や大きなお友達でなければ誰もが眠りこける至福の時間だ。
窓から射し込む暖かい陽の光に暗い部屋が照らされる。
素人目にも一目で高級なことが分かる豪華なカーテンのついた天蓋付きのベッドで気持ち良さそうに眠るのは軽いウェーブのかかった綺麗な金髪のドールのように整った顔立ちの女の子。
子供らしい幼さを残す膨らんだ頬は、雪のように白くて柔らかそうだ。
年頃は十歳に届くかどうかだろう。
机の横に放置された赤いランドセルは彼女がまだ小学生であることを示唆している。
部屋全体を見渡せば、机、クローゼット等の家具もまた、最高品質の高級品。
彼女の家は相当な金を持っていることが伺える。
「リアお嬢様、起きてください。 朝ですよ! 朝食冷めちゃいますよ!」
青を基調にした清潔感のあるメイド服を着用した専属のメイド。
このお嬢様と呼ばれた少女と同い年の幼いメイド少女は、お嬢様とは正反対の、それでいて満月のように美しい銀色の髪をした少女だ。
青い瞳は一流職人が手作業でカットしたサファイアのように澄んでいて、見る者の心を吸い込むように美しい。
「う~ん、あとごふんだけ~、ですわ~」
「ごはんもう出来てるんですよ! 早くこないとキリカがぜんぶ食べちゃいますよ!」
「それはダメ!」
お嬢様―――リリアスはカッと目を開いて飛び起きる。
「では早く着替えてください。髪も寝癖ひどいですよ」
キリカがそう言うと、リリアスは腕を万歳の姿勢で固定する。
「ん」
着替えさせろということらしい。
「………ではお着替えさせていただきます」
キリカも日常茶飯事なのか、呆れた様子で手際よく服を着替えさせた。
パジャマから私立小学校の制服に着替えるだけでいちいち専属メイドの手を借りるのはどうかとも思うが、これだけで特別手当てがたっぷり貰えるのだから、美幼女メイドとはかくもボロい商売だと思う。
その思考は小学生女児が持つべき回路ではないが、リアリストにならざるを得なかった彼女の境遇を鑑みれば妥当だったりする。
その分、年相応に夢見がちのお嬢様を心ではナメていたりもするがそれは置いておこう。
「朝食はなぁに?」
「今朝はトーストと半熟卵の目玉焼きとレタスとトマトのサラダですよ。 早く食べてくださいよ、片付かないってシェフに睨まれるの私なんですから」
真夏の道路の脇で死にかけている虫ケラを見るような冷たい眼差し。
日々、自分の非でないことでシェフに睨まれるのが相当なストレスになっているようだ。
「あぃ………」
主従関係を考えれば絶対に逆らえないはずの相手に反抗されても、リリアスは逆らえない。
キリカ無しでは生きては行けないほど、生活の全てを彼女に依存しているからだ。
キリカもそれが分かっているのでリリアスにここまで強気に出られるのだ。
旦那様の前では年頃のかわいい女の子の猫を被るから、家族の前でもぐーたらなリリアスよりも信頼されている節すらある。
そんなありがちな主従だった。