過去のなくしもの
早朝からテリーは昨日遅くにリリーと仕事から戻ってきた栞が早朝からグラニエ城に行くというのでついてきていた。テリーはまずヴィクトリアひいおばあ様に挨拶に向かうことにした。
〝トントン‶
「おはいりなさい」
中からヴィクトリアひいおばあ様の声が聞こえてきた。テリーはドアのノブをまわしてゆっくり扉を開けると部屋の中に入った。
「テリーです、学校が三日間休みなので三日滞在させていただきたいと思いまして来てしまいました」
「あらテリー、あなたまた背が伸びたんじゃないの?」
「そうかなあ・・・」
ヴィクトリアひいおばあ様は足を怪我してから、部屋でも車椅子で過ごすようになっていたと聞いていたが少し元気がない様子で、窓の外を眺めていたようだった。
入ってきたのがテリーだと気づいたヴィクトリアは車椅子回転させて、ドアの前に立っているテリーにほほ笑み返しながら近づいてきた。
「あなたが三日間も滞在してくれるのは嬉しいことだわ。何かしたいことがあるみたいだって碧ちゃんから連絡がきていたけど何をしようとしているのか教えてくれないかしら」
(碧ちゃんが先に連絡を入れてくれていたんだ。やっぱり碧ちゃんには叶わないな、母さんも何気に何も言わなくても図書室の鍵を先に渡してくれたし・・・さすがだな)
テリーはそんな事を思いながら、軽く息を吸い込んでから話し始めた。
「はい、実はある部屋を探し出したいと思っているんです。夏休みが始まったら本格的に捜索したいと思っているのですが、今回はその部屋を探す資料を探せたらと思っているんです」
「ある部屋?」
「はい、実は夢に出てくる部屋なんですが、その部屋は秘密の部屋みたいなんです」
「秘密の部屋?あらこの城にそんな部屋があるの?」
「いえ、僕の夢ですからわからないんですけど、その部屋にはマティリア様の銅像が中央に置かれていて、いろんなものがあったんです。僕ではない大人の人と僕ぐらいの男の子が出てくるんですけど、そこは代々の城主の宝物を置くための部屋みたいなんです。お金としての価値ではなくて、思い出のような物だと言っていた気がするだけど、ヴィクトリアひいおばあ様はご存知ありませんか?」
「思い出をしまう部屋・・・そんな部屋があるなんて知らないわ。もしかしたら、何代目かの当主が次の当主に伝え忘れてしまったのかも知れないわね。それか、伝えることができなかったか・・・そんな部屋があるなら私も残しておきたいものがあるわ」
「あの・・・僕のただの夢かもしれないんです。実際にはそんなものはないかもしれないですし」
「あら、私はあると思うわ。もしあるのなら、探し物もそこにあるのかもしれないわね」
「えっ?」
意味ありげな言葉にテリーは聞き返したが、ヴィクトリアひいおばあ様は笑顔でそれ以上は言わなかった。ただ一言
「見つけたら私にも見せてね。あなたは私のひ孫なんですもの、私が許可を出してあげますよ。この城の中を思う存分お調べなさいな。そうだわ!この城のことならチャーリーに聞くといいわよ。なんだか知らないけれどあの子私よりこの城のことよく知っているから。いつもどこにいるのかしらないけど、不意に出てくることあるのよ。きっと秘密の部屋をたくさん知っているんだわ。私には全然教えてくれないけれど」
「碧華おばあちゃんもそう言ってました。お城の事はチャーリーひいおば様に聞いたらいいと」
「そう、頑張ってね」
「ありがとうございます。ひいおばあ様」
「不思議ねぇ・・・あなたはレイモンドの小さい頃に良く似ているわ」
それはとても聞き取りにくい声だった。思わずヴィクトリアの顔を見たが、いつもの優しい笑顔だった。