02 ドン・ハリセン
α2
状況を軽く説明したい。
おれは -生家 大神- いくいえ ひろみ という平凡な男子留学生だ。
気づいたら誘拐され、移送され、密売され、密輸され、ここへきた。
留学生は建前で、数年はこれで警戒されない気がしたからで意味はない。
言葉は捨てられていたTVや本で覚えようとしたがすぐ諦めた。
人口が取り柄だったらしい街でひっそりと暮らしている。
家族はまだいないがいつか手に入れたい。
戸籍が入手できなくても気にはしない。
ニャポンは一度入国すれば比較的安全に過ごせることは知っていたから。
そしておれの暮らしているこの家。
デザインは凝ったように見られるけれど
機能性を重視していてより時短でより高効率にしている。
隣家まで1km程あり、道路もないので気兼ねなく過ごせる。
そんな日々を邪魔するのが様々な動物たちだ。
食料を入手したり無心するといつも攻撃してくる。
全く不愉快なやつらなのだ。
このカラスに至ってはその場でおれの装飾品を咥えて引き抜いて
物々交換をする有り様だ。
ただの飾りだったので気にしなかった。
だがある日また無心していると特に装飾に魅力がなかったのか
今度は時には肩に、時には頭に、時にはベルトにしがみつきながら
なんやかんやで尾行されて家を知られてしまったのだ。
次は無心せず初めて奪うことを決意したのだが
今日は先手を打たれたのかもしれない。
(何なんだこいつ)
(ったく散らかしやがって・・)
どうもスズメは死んではいないらしい。
器用にも飛べないように羽を毟っているようだ。
衣替えは終わってるしスズメの未来は危なそうだ。
カラスの気まぐれで演奏会が開かれなくなるのは許しがたい。
カラスへの処罰を考えることにした。
(こいつはいいカモだから毟りかえすのは得策じゃない)
(即席の罰にしよう)
そう思うとまずは逃げられないように窓を塞ぐため
静かにベッド頭側No1のノブを下ろす。
すると窓の両端に引き伸ばされていた波打つ物質が
窓の中心で柔らかく衝突した。
カラスは先程の余裕からはうってかわって慌てている。
「うわぅ なにヤバい」
カラスは飛び立とうとしたがあまりの暗さに思い直したように静かになった。
カラスの狼狽にほくそ笑みNo2のボタンを押し込む。
優勝者発表のような動きで光が天井中央に照されて
さらにその反射により柔らかい光が部屋を照す。
そのやや暗い照明で隅のカラスを確認するとカラスは
「びびったー やめてくんない?」
とでも言いたそうに
(・・いや言ってるなこれ!)
「はぁっ?!まてよ・・」
「おれはそういう夢は見ない」
そう呟くと
「聞いてないし 暗いところ嫌いなんだから
驚かせないでよコジキ」
そんな怒りが聞こえてくるような 気がしてほしい
と思っていたがどうやら聴覚は正常なようだった。
(んー覚醒してる感覚はある)
(おれはおかしくない)
「うん」
「うんじゃなくて謝れ」
「うん」
(とにかく現状カラスから暴言が聞こえてくるのは間違いない)
「はやく ほら」
(テレビの拡声器より臨場感があって上質だな)
(しかしこの技術 後々の安全面が懸念されるな)
「よし」
そう呟くと、まずは処罰を与えることにして
その後盗聴や盗撮や発信器が装着されてないか確認することにした。
生活上の懸念は解決しておかなければならないのだ。
そう思うとベッドの下に潜らせている虫取網を股に挟み
下に敷いてある1メートル四方になる布地を手に取り四隅を持つ。
その間カラスはダンスするように跳ねながら顔だけはこちらを向いている。
いまから捕まることを思えばその警戒行動は正解なので可哀想だとは思う。
しかし例外はあるものだと思いながら四つ折りにされた布を
カラスに向けて広げる。
「ちょっと!なにすんの!痛っ」
カラスは既に追い込まれていた。
先ほど避けて逃げ込んだ先は机の足場であり
部屋の壁と机の壁に囲まれて逃げ場は少なかったのだ。
六面の内四面が塞がれていたのをおれは見逃さなかった。
一面を布で覆い、残り一面の逃げ場をつくり待ち構えて捕獲する。
そのつもりだったが出てこないので確認すると腹を見せて倒れていた。
(飛んで火に入る ・・春のヌケカラス)
(カラスって自滅すんのか)
(器材は無事かな)
そう心配してはまず久々に立ち上がりけのびをする。
一息つき布をのけて道具棚横に掛けている自家製木製の皮紐を取り出し
引っ張ると首が締まるように首輪してさらに机の足に結んだ。捕獲完了。
(さて、朝食にしよう)
そう思い放置されたスズメを一瞥して踵をかえす。
チュン・・
諦めたらしい。
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=商品紹介の時間です= =カーテン=
ーなんということでしょうー
ーお分かりでしょうか この大きなカーテンー
ー自由を手に入れたハリセンを彷彿とさせる姿ー
ー演奏者に対して大きすぎる楽器ー
ーパイプオルガンと見まごう圧倒的包容力ですー
ー光の進入を一切許さないー
ー匠はここに宇宙を感じているのですー
ーそしてベッドに繋がれたワイヤーー
ーカーテンの豪華さからは想像できない驚きのワンタッチ式ー
ー一度使用すれば巻き取り式というオーソドックスな文化は踏襲されー
ー巻き取る際に響く音は変則ギアのようですー
ージェットコースターの頂上へと向かいー
ーそのエネルギーを一瞬で解放する様を思い起こさせる仕組ー
ーこれぞ一大エンターテインメントなのですー
「通販CRAZ 次の商品です」
「早速ですが素晴らしい商品ですね」
「前の窓も驚きましたが今回はさらに驚いています」
「先生としてこの商品の魅了はどこにあると思われますか?」
「ええ、なんといってもデザインでしょうね」
「デザインのどの点が魅力だと思われますか?」
「扇形にされた緞帳のようなデザインと贅沢さですね」
「贅沢さというと?」
「緞帳は垂れ幕として利用されるもので
このように使用されることは本来考えられないことなのですよ」
「贅沢さはというと?」
「はい、緞帳は手作業で刺繍したデザインなどがとても高価なんです」
「失礼致しました ご紹介している商品は無地の商品になります」
「では次の商品です」




