5.はぐれ勇者
前回のあらすじ
意図せぬストリーキング
リズ
「むしゃくしゃしてやった。反省も後悔もしている」
バイス
「反省はするが後悔はしていない」
※1月17日 中ほどに『はぐれ勇者』に関する小話を追加
リズの放った魔法に気付き駆け付けた衛兵達が目にしたのは、奇声を上げて槍を突き出す同僚と、その槍を剥き出しの腹筋で受け止め続けるバイスの姿。
理解不能な光景に戸惑いつつも、彼らは迅速に不審者二人を拘束、詰所へと連行した。
リズとバイスは取り調べを受けて、牢屋で一晩過ごす羽目になった。釈放されるときに言い渡されたのが、騒乱罪の罰金と奉仕活動。これはリズの使った魔法の威力に対して非常に軽い量刑であった。
二人の行動をトルーデンの法に照らし合わせた結果。
・二者の間の諍いの結果であり、破壊行為や脅迫目的ではなかった。
・魔法が街に背を向ける形で使用され、拘束時も無抵抗だったので人的、物的な被害がなかった。
以上の二点から、騒乱罪以上の罪にはならなかったのだ。
リズとバイスの二人は早朝に釈放されて、そのままリズが借りている宿に向かった。今はリズがベッドに腰掛け、バイスは入ってすぐのところで腕組みして立っている。
「音は漏れないようにしたから、それ以上近づかないで」
「分かった」
「で、これからどうする? 私がエルフなのもバレたし、アナタが化物なのも知れ渡ってるわよ」
「化物は大袈裟だろう。ちゃんと弱い勇者に劣るようにしていた」
それ聞いたリズは、眩暈を起こして壁に頭をぶつけそうになった。
「……ああそう、モノサシが最初っから狂ってたわけね。どうして勇者を基準で考えたの? しかもアナタが知ってる勇者って、上から数えた方が早いのばっかりでしょ?」
「そうだったか?」
「そうだったのよ! 周りを見て、おかしいって、気付かないのかしら? 気付かないんでしょうね! 脳筋だからっ!?」
「ふむ」
ようやくリズの懸念が分かったらしく、バイスは珍しく長考に入る。
だがどれだけ考えたところで手遅れだ。これまでの奇行で十分人目を引いていた上、昨日の騒ぎも広まれば、熊殺しの噂が更におかしな方向に進む。
バイスはリズの放った攻城戦級の魔法を無傷でしのぎ、無防備に受けた二撃目も軽い火傷で耐え切った。その火傷も一晩で完治している。この異常な耐久力を誤魔化せる詭弁などそうそうない。
「なるほど、ならいっそ『はぐれ勇者』のふりでもするか」
「まさか、それこそヤブヘビじゃない。わざわざ教会から狙われるよな真似なんて」
まるで思い付きのようにとんでも無いことを言い出したバイスにリズは食って掛かる。
二人が最も警戒しなければならないのは聖導教会だ。なのに『はぐれ勇者』のふりなどすれば確実に聖導教会の目に留まる。
「下手に正体がばれるくらいなら、『はぐれ勇者』の方が動きやすいだろう。今まで通りに振る舞えば、向こうで勝手に『はぐれ勇者』だと思い込んでくれる」
そもそも『勇者』とは、聖導教会の崇める『正しき神』の祝福を『聖剣』という形で授かった超越者だ。
聖剣が生み出す『聖気』によって人の限界を超えた力を得て、人類の天敵である『魔人族』を滅ぼす英雄。
しかし、聖剣がいつ、誰の元に現われるのかはまるで分からない。突然手にした力に溺れ私利私欲に走る『勇者』もいれば、覚悟が定まらずに名乗りを上げない『勇者』もいる。
一般的に教会や国に属し、守護者としての使命を全うする者を『勇者』。それ以外を『はぐれ勇者』と呼んでいる。
聖剣を授かる者には法則や基準が無い。聖導教会はそれが分け隔ての無い『正しき神』愛の現われであり、聖剣を手にした者が正しくその力を受け止められるよう、教えを説いて導く事を教義の根幹にしている。
だから聖導教会は積極的に『はぐれ勇者』を探し出して勧誘する。国も『勇者』を重要な戦力として囲い込みたがる。その一方で更生の余地がないと見れば、容赦なく刺客が送り込まれる。『勇者』による『はぐれ勇者』狩りだ。
「誤魔化しきる道具はある。悪さをしなければしつこい勧誘ですむだろう」
「アレを持ち出すの?」
「他にいい方法があれば言ってくれ、本位でないのは俺も同じだ」
「……」
リズにとって腹が立つ事に、バイスの提案は綱渡りだが筋が通っていた。
「……時々思うのだけれど、そこそこ考える頭があるのに使おうとしないわよね?」
バイスが血の巡りの鈍い馬鹿ではなく、むしろ頭の回転が速い部類だと言う事をリズは知っていた。
ただ、普段は深く考える前に動き、稀に頭を使っても発想がズレている事が多い。だからリズが苦労する羽目になる。
「どれだけ小難しく考えたところで、最後には愚直を徹すだけだ。ならばいちいち迷う意味もない」
「アナタといいリノアといい、どうして好き好んで――ボーァズ?」
一瞬聞き流しかけて、バイスがエルフの俗語を口にした事に気付く。
『愚か者』を指す『ボーァズ』。それは時折リズがバイスに浴びせる罵倒だ。
エルフの俗語は発音の仕方で細かい意味が変わり、ゆっくり丁寧に発音すれば好意的な意味に、短く縮めれば侮蔑的な意味になる。
ボーァズの場合、前者は『一途』や『敬虔』となり、後者が『愚鈍』や『偏執的』という具合だ。
侮蔑の発音なら『バズ』と聞こえて、バイスの名前を短く縮めたように聞こえる。バイスもまるで気付かない様子だったのだが。
「どうして、今まで知らない振りをしていたのかしら?」
馬鹿にしているつもりが、実は陰で馬鹿にされていたとなれば黙ってはいられない。
「さっき今思い出した。一々気にしていなかったからな」
普段使わない頭を使ってる間に思い出したらしい。
「脳筋」
「ふむ。神官の説教で『名前とはその魂の形を示す』と言っていたのは、こういう意味か。面白いものだ」
それも開き直った脳筋なのだから始末が悪い。
以降、リズの機嫌が急転直下で悪くなり、何度も横道にそれたもののどうにか話はまとまった。
その過程でリズは一つの結論を得た。バイスが頭を使おうが使うまいが右往左往する結果は変わらないのだと。
「脳筋の意見がほぼそのままなのが、とても癪に障るわ。よりにもよって『はぐれ勇者』の振りなんていう、馬鹿なマネの片棒を担ぐなんて」
リズの愚痴を聞いたバイスは一瞬呆けたような顔をしてから、懐かしそうに目を細めた。
「昔に一度、似たような愚痴を聞いたな」
リズは特大の苦虫を噛み潰したような顔になる。
「……そうね。あの時がアナタを殺す最後のチャンスだったのに」
「それがリズの本心でも、俺は感謝している」
「吐き気がするわ」
バイスとリズが共有する過去。それに対する思いは真逆で、二人の溝は決して埋まることが無い。
「私が選んだのはリノアの意思を見届ける事。その願いを見守る事。その中にアナタが含まれていても、私がアナタを許すかどうかは別」
「そうか」
「いつまで居るの。もう話すことも無いでしょ」
リズは不貞腐れたようにそっぽを向く。
「分かった。ではこれからは『はぐれ勇者』らしく振舞う」
リズは「今までと何も変わってないでしょ」というセリフを飲み込んだ。売り言葉に買い言葉では、また自分だけが不愉快な目に合うのが分かり切っていたからだ。
妄執を愚直と思い込み、愚鈍さと潔さをはき違えた脳筋に皮肉など通じない。
◆◇◆◇
ちなみに、『はぐれ勇者』を題材にした物語や演劇は昔から人気のあるジャンルだ。
正体を隠していた青年や少女が、家族や友人に振りかかる危難を払うべく一念発起したり、長い物に巻かれず、傭兵や冒険者として孤軍奮闘する筋書きは陳腐だが分かりやすく、国家や聖導教会を過度に批判する内容でなければ目こぼしされている。
何より、その多くが実話を題材にしているというのも大きい。
家族や友人を助けるために勇ましく戦った青年。
その正体が中年男性である事を言ってはいけない。
想い人のために立ちふさがる者を退け、他の女性と結ばれる姿を見届け、静かに身を引いた悲恋の少女。
彼女のモデルが孫の恋路を助けた老婆である事を指摘してはいけない。孫がその後、振られたに触れてはいけない。
今際の際に聖剣を授かり、祝福されながら息を引き取った聖人。
彼が悪逆非道の限りを尽くして一代で財を成した悪徳商人であり、犠牲者を脅し殺めた愛用の凶器そっくりの聖剣を見て「許してくれぇぇ!」と絶叫し、その死に顔が二目と見れぬ凄惨ものであったなど、知っていてはいけないのだ。
◆◇◆◇
リズとの相談を終えたバイスは自分の宿に戻って着替えてから、借りた服を返しに衛兵の詰め所を訪れた。
「すまない。ザイードに服を返しに来たのだが、呼んでもらえるか?」
「ん? ああ、お前が……バイスとかいう奴か。あいつはもう帰ったはずだから俺が預かっておこう」
「面倒を掛ける。後、これは差し入れだ」
対応した年かさの衛兵に畳んだ服と果物の入った籠を渡す。
「おお、ありがとな。詳しくは知らんが、これに懲りてあんまり女を怒らせるような真似はするんじゃないぞ」
「気を付けてはいるのだが、難しい」
「ははは、お前も苦労してるみたいだな。俺の女房も気が強くってな、普段は尻に敷かれておいて、ここぞという時にガツンと強く出るのが付き合うコツだ」
「そういうものか?」
「そういうもんだ。失敗したらモノを投げつけられるがな! 女房が魔法使いじゃなくて助かった」
何が面白いのか、年かさの衛兵はバイスの背中を叩きながら大笑い。
「それはそうと、お前さんもう冒険者ギルドには報告を入れたか? 事情がどうあれ一晩牢屋に入ってたんだ。呼び出される前に自分で説明した方がいいぞ」
「分かった。教えてくれて助かる」
話の切れ目を狙って青い顔をした衛兵が、年かさの衛兵をバイスから引き剥がし、バイスは冒険者ギルドへと足を向ける。
◆◇◆◇
「小娘が舐めてんじゃねぇっ!!」
冒険者ギルドに入った途端、野太い怒号がバイスの耳に入る。声のする方を見れば、掲示板の前で数人が固まって押し問答をしている。
巨漢を中心に五人が円陣を組むように並んで、その円陣を越えようとする三人を阻んでいる。円陣を組む五人もその中心にいる巨漢もバイスの知らない顔で、「良いからそいつを見せろ」だの「話にならない」だの「上の奴を連れてこい」だのと喚いている。
さらによく見れば、巨漢と掲示板の間にスミナが挟まれて青い顔をしている。
一目見てバイスはおおよその事情を察する。
「スミナ、少し頼みたい事があるのだが、時間は取れるか?」
理解した上で、物怖じするような繊細さは持ち合わせていない。
「バイスさん、助け――」
「すっこんでろ小僧!」
バイスに助けを求めるスミナの言葉を巨漢が遮る。
「見ての通り立て込んでんだ。関係ない奴は黙ってろ!」
「か、関係あります!」
巨漢の恫喝に肩を震わせながら、スミナは胸に抱えたていた書類を突き付ける。
「この依頼、この緊急依頼のリストには、そこのバイスさんが指名されています。関係ないのは、その、横から割り込んだ、そうです、横入りしようとする貴方達の方です!」
所々で詰まりながらも、言うべきことを言い切ったスミナは、再び書類を抱えこんで縋るような視線をバイスに送る。その顔は更に血の気が引いて蒼白になっていた。
巨漢は目線をバイスに移し、品定めするように顔から足元まで眺めてから、「ふんっ」と鼻を鳴らす。
「この細っこい兄ちゃんに緊急依頼の指名だぁ? 笑わせんじゃねぇ!」
長身で体格の良いバイスを「細っこい」というだけあって、その巨漢は非情に逞しい――いっそ奇形と言ってもいい程の筋肉で全身が覆われている。バイスと比べて慎重で頭半分、体重は倍以上あるだろう。太腿がスミナの腰回り以上ある。
「それともなんだ、俺が舐められてんのか? いいか、もう一度言ってやる。このガントレン様が面倒事を片付けてやるって言ってんだ! 四の五の言わずに依頼の内容教えやがれ!!」
「ビビッて女一人連れ出せねぇ腰抜けはすっこんでろ」
ガントレンと名乗る巨漢の啖呵に迎合して、仲間の五人も好き勝手な事を喚き散らす。
耳を傾けてみれば、ガントレン達はクルジアッドという街では名の通ったパーティーで、しばらくの間トルーデンで仕事をするらしい。
そしてスミナが緊急依頼の掲示をする時に、丁度ガントレン達が冒険者ギルドを訪れ、腕に覚えがあるから自分達にもその依頼を回せとゴネ始めたのだ。
この緊急依頼というのは、その名の通りに緊急の――素早く確実な対応が必要な案件で、冒険者に一定以上の能力や、場合によっては専門的な技能が求められる。その性質から半強制的に誰が受けるか指名され、断れば罰則がある。加えて報酬に特別手当が付いて実入りが良く、指名されればハクがつく。
先日ゲーリッツ達が受けた鹿鼠の駆除も指名依頼の一つなのだが、あれは割に合わなくても手抜きをしないという信用の証で、『外れ指名』や『持ち回り』と呼ばれている。
昨日今日やってきて、実績も無く緊急依頼を寄越せとゴリ押しするガントレン達。その鼻息の荒さに、スミナを助け出す機会を伺っていた三人の冒険者も困惑顔だ。
「なあ、熊殺しの旦那。ああ言ってるが、あのおっさんと旦那だったらどっちが強いと思う?」
「俺の方が強いぞ」
「ああっ!? 寝言抜かしてんじゃねぇぞ!?」
ガントレンが丸太のような右腕をバイスの襟首に伸ばすが、バイスの左手がその腕を掴んで止める。ガントレンはバイスの腕を振り解こうとするが、動かない。
「力比べのつもりかコラッ!」
青筋を立てたガントレンは、空いた左手でバイスの左腕を掴んで、バイスを壁に叩きつけようとするが、やはり動かない。
「このっ、ふざけんな!」
ただでさえ太過ぎるガントレンの全身の筋肉が膨張して、血管が浮き上がり、身体強化の魔力が陽炎のように全身を覆う。踏み締めた石畳に亀裂が入る。それでも、バイスの身体は微動だにしない。
最初は何を巫山戯けているのだと、囃し立てていたガントレンの仲間たちも、ガントレンが全力を出し始めた辺りで異常に気付き、目を見開いて二人の力比べを眺めている。
バイスは掴んだ上を捻りながら下げていく。
ガントレンはその動きに逆らえず、地響きのような唸り声をあげて必死に抵抗するが、上半身が傾き膝を付く。それでも堪え切れず、ついには地面に倒れ込んだ。倒れながらもバイスの足首を狙って蹴るが、踏みつけで防がれた。
「参ったっ! 降参だ降参!」
腕と足を床に縫い留められた標本のような姿でガントレンは悲鳴を上げる。
バイスはあさっりとガントレンを開放し、自由になったガントレンは虫のように這ってバイスから距離を取る。ガントレンの右腕は内出血で青黒く腫れ上がっていた。
「チッ、負けた以上は逆らわねぇ、気のすむようにしやがれ」
「こう言っているが、どうする?」
「ふぇ? あ、はい。そうですね」
スミナ開きっぱなしの口元を隠して顔を朱に染める。一度深呼吸して、仕事用の顔を取り繕ってから。
「備品の破壊や乱闘での負傷者も……いませんし、厳重注意以上の処罰は無いはずです。この街の規則に従って頂けるのであれば、ですが」
「ああ、分かった。筋は通す」
「ありがとうございます。それでは、トルーデンでの冒険者登録がまだでしたら登録からお願いします。クルジアッドのギルドの紹介状があれば、そちらも忘れずに提示して下さい。クルジアッドでの実績も評価されますので」
ガントレンのパーティーの一人が自分の荷物を漁り出す。仕舞い込んだ紹介状を探しているのだろう。
「もういいのか?」
「ええ、助けて頂いてありがとうございます」
「一つ用事がある。さっき言っていた緊急依頼の件も一緒に聞きたい」
「……」
スミナは仕事抜きの愛想で流し目を送っていたのだが、素の対応で反されて硬直する。
「まだ何かあったか?」
「……いえ、何でもありません。ええ、本当に何とも思ってないってよく分かりましたから」
「そうか」
「……コホンっ。緊急依頼については、夕方に合同で説明がありますので、その前に必要な準備についてお伝えします。資料もあるので奥に行きましょう。それで、バイスさんの用事って何だったんですか?」
「昨日衛兵に捕まった。その報告だ」
「はぁ? 何やったんですかバイスさん! ああ、もう、聞き取りの用意も必要だから早く行きましょう」
◆◇◆◇
ギルドの奥に消えていくスミナとバイスを見送った後、何とも言えない空気が残された。
改めて争う理由も無く、さりとて仲良くするような間柄でもない。ただ、バイスの朴念仁っぷりに毒気を抜かれた者同士の奇妙な一体感だけがある。
その微妙な空気を破ったのはガントレンの胴間声。
「騒がして悪かった。舐められちゃいけねぇと強気に出て、引っ込みが付かなくなっちまってな。そこんとこは分かってくれや」
「気にすんな、余所から来た奴はだいたい最初に揉めるんだ。巡礼や観光客が多いから、冒険者も余所よか行儀がいいらしい」
ホウランド王国の冒険者ギルドは半官半民で運営されていて、王都の本部の下に各支部があるのだが、各支部は独立性が強い。
広く魔獣の生息地と接するトルーデンでは狩人の組合の特徴が強く、元から住民全体の守り手という意識が強くあった。それに加えて、勇者リノアリアの故郷となり発展していく中で、領主や教会と連携が深まり、自警団も兼ねるようになった。
一方でクルジアッドは、大量に行き交う積荷と商人に関わる仕事が主流になる。護衛や荷物運びというまともな仕事だけでなく、積荷を奪ったり、壊したり、誘拐や暗殺といった犯罪行為の需要も多いと言う意味だ。犯罪絡みの依頼は符丁を使ってやり取りされ、それを冒険者ギルドは見て見ぬふりで仲介する。だから盗み殺しが本業の冒険者も多い。
二つの街の特徴を比べれば、トルーデンの冒険者は互いに助け合う仲間意識を強く持つが、クルジアッドの冒険者はいつ寝首を掻かれるか分からない敵同士。ここまで性質のが違えば揉めて当然だ。
「そうかい、荒っぽいのはご法度って訳だ。気ぃつけるぜ」
ガントレンは全身の関節を解してから、痛む右腕の具合を調べる。腕に残った痣は手形はバイスの手よりも明らかに大きい。バイスが無形魔法で腕全体を固定していた証拠だ。
ガントレンの怪力でバイスの身体を持ち上げられなかったのも、同じように足元を固定していたからだろう。
純粋な力比べでも、技術でも惨敗した事を改めて悟り、背筋が寒くなる。これがクルジアットなら、見せしめに死なない程度に壊されていた。
「なあ、さっきの兄ちゃんだが。まさか、この街にはあんなのが何人もいるのか?」
『勇者』リノアリア所縁の地トルーデン。
成り上りの田舎都市で、冒険者も狩人か何でも屋ばかりと聞いていたが。
「んな訳ないだろ。あの旦那は本当におかしいから」
「熊殺しって呼び名も、素手で岩熊を仕留めるからって話だ」
「ほう、そりゃあ剛毅なこった」
腕っぷしを見せつけるための手管だろう。ガントレンも似たようなことをする。さしずめ、今回はガントレンが魔獣の代わりに潰されかけたわけだ。
いきなり一番ヤバイのに当たってしまったが、ほぼ無傷ですんだ悪運の強さに感謝する。
今回のまとめ
KY王座決定戦:バイスvs『聖剣』