村っぽいところ編 その7・問
とりあえず、村長の家を出る。確か…カナの家に来いということだったか。テルが指を指した方向を思い出す。
「あー…歩くのめんどくさ…」
結局誰が殺されたのやら。
・
カナの家ははっきし言って遠かった。テルの家ほどは遠くねぇよなーとか思いながら歩いていたら、テルの家を横切ってしまった。地理感がねぇな私…。
歩いている時に、考えることは一つだ。考えの整理をしていた。
「はんぺん!」
「なんですー?」
おっ、いた。
「今、何が足りないんだと思う?」
抽象的な質問だな…。だが仕方ない。死んだと思ったミキは生きてるし、行方不明者もいないという村長の言。マジでただの家出とは思えんが…。
確か、ミキとカナがピリピリしてたってテルが言ってたな。だからカナが殺したと思ったんだが…な。
「うーん…自分は、あの若い男が気になるです」
「村長と同じ名字のか…久美…っと」
こういうときは検索するに限るぜ。「久美 名字」で検索する。…全国に、およそ10人…。確実に血の繋がりあるだろこれ。
いや、確かに親類だとは知ってた(てか、村長が言ってたもんな)が、こんな形でも親類であることが証明されるとは…。
「なんだか、村長は何か隠している気がします」
「…それは、私も思った」
なーんか歯切れの悪い回答だった。あの若い男、村長のなんなんだろうな?
「ま、それを訊けばいいわけだし」
視界の隅に小汚ないおっさんが映った私は、そう言った。こんな昼間から道を歩いているおっさん。なにしてんだ。定年済みか。
「すみませ~んっ!」
私は声色を半音上げてそのおっさんに近付いた。
「な、な、なにかな?」
おっさんは明らかに動揺していた。そりゃそうだ。今の私は美少女JKだかんな。
「すごい自信です…」
見透かすようなことを言うな。
「村長さんのことについてお訊きしたいんですが…村長さんってぇ、家族はいらっしゃいます?」
「あ、あ、ああ。奥さんはもう亡くなってて、息子さんが一人いたはずだよ」
「その息子さんってぇ、どんな人なんですかぁ?」
おっさん、テンパってんな。
「た、たしかとんでもない子だって」
「…とんでもない子?………ですかぁ?」
一瞬低くなってしまった…迂闊。
「う、うん。髪の毛もまっ金々に染めて、都会のほうで借金をたくさん作ってるって…これも、十何年前の話だけど」
外見によらず意外と年なのか。…もしかして。
「スポーツカーに乗ってたりします?」
「た、確かそうだよ」
…見えてきた気がする。いや、かなり見えた。あと少しの情報があれば…というか。そうなってもらわないとおかしいことが、まだ起こってない。私の考えが正しいなら、それは近いうちに起こるだろう。ならば、それまでに集めれば言いわけだ…必要な情報を。
「あーりやとっした~!!」
足取りが軽くなった私は、走り出した。ローファーも、意外と走れんじゃん?
「あ、あ…嵐のような…美少女…」
「はっはっはんぺん!」
走りながら話しかける。
「なんです?」
「大谷に入る方法、あの金網以外にないか探してきてくれ!それと…」
「…了解です!」
よし、後は…。
・
カナの家にはすぐ着いた。がんばって走ったからな。カナの家ことリトル洋館の前には4台分もの駐車場があったが、車は停まっていなかった。おかげで巨大感マシマシである。
インターホンを押す。ピンポーンって鳴るかと思ったらジーって音のタイプだった。変わってんな。
「はーい!…あ、ミソラさん!」
カナが出迎えてくれ…ん?カナの格好、見覚えがある。
つーか、チャイナドレス!!
「また罰ゲームカードで遊んでんの?」
「はい…負けちゃって」
カナがモジモジしている。かわいいなぁ女子中学生。私もおっさんみてーなもんだな。
「みんな居ますよ。上がってください」
「オッケー。…ミキちゃん、大丈夫?」
「たぶん。私たちもさっき別れたのを最後に会ってないんですけど…メールでは普通な感じでした」
普通な感じ…ねぇ。
靴を脱いで、揃える。明るーい色の木材の床を歩く。やっぱ建築士の家だけあって、小綺麗である。てか綺麗。…おっと、今、質問のチャンスじゃん。
「カナちゃんさ、ミキちゃんと喧嘩でもしてたの?」
「テルから訊いたんですね?…はい、してました」
「どうして?」
「…内緒にしてほしいんですけど、私たち、テツヤのことが好きなんです」
す、す、す、好き!?
「な、なるほど…」
っといかんいかん。正気を保て。
「それで、ちょっとしたいざこざが起きてしまって…ミキとはちゃんと、話し合うつもりです」
…そうか。
「それは…内緒にしとくよ」
「ありがとうございます」
カナより私の方が照れてる。…嘘だけど。
「あー!ミソラさん!」
「遅いぜ!村長と何話してたんだ?」
「こっちだよ、ミソラさん!」
暖かく迎えてくれたのは、いつものメンバー。…って、私が初めて会ったのは昨日だけどな。
「ミソラさん、今日は前言ってたテーブルトークなんちゃらだよ!」
「ゲームマスターはフミカなんだけどよ…意外と進行がうめえんだ。全く解らん」
「へっへっへっ!日本語は難しいでしょ~!」
ああ…無垢。超無垢だわ。私もこれくらいの頃は…無垢だったような…。
「じゃ、罰ゲームありでいこう!」
・
午後4時・夕方。私はバニーガールであった。なんと、カナの家にあったのだ。信じられるか?信じられねぇよ。私は真っ先に、謎に辿り着けずに死んでしまったのだ。いやー、ひでえ。
で、今は何してるのかというと、みんなでまた秘密基地に向かっていた。今朝の大きな音が気になるのだという。…私も気になるところだ。
破れた金網を潜ると、すぐに右側に手すりが見えた。異常ナーシ。
「うわっ」
下の方から小さな悲鳴が聴こえてきた。テルだ。もう判別つく。
「足場がが凹んじゃってるよ!」
「落石…か?」
テツヤが言う。
「崖だからねー…ここ」
テルに続いて、みんなが降りていく。パキ、という音が足元から聴こえてきた。見下ろすと、それは鏡の破片だった。拾い上げる。
「…」
「ミソラさーん?」
「あ、はーい」
と、突然。謎の声が頭を揺らす!…はんぺんである。
「助けてですー!!」
「な、なにこの声…?」
バッカあの野郎。みんなに聴こえてるじゃねぇか…。
「私行ってみるね…あはは」
「まって、私も!」
テルが着いてきた。…なんか理由つけるのもめんどくさいし、いっか。
・
大谷の穴の周りであることは間違いない。だって近くに聴こえたし、私が探せって言ったんだからな。金網を出て、フェンスに沿って穴の周りを回る。穴はまあまあでかく、どこまであるのかもよく分からない。
「助けてー!ですー!!」
お、近くなった。
「ミソラさん!もうすぐです!行きましょう!」
心なしか、テルは楽しそうだ。
「そ、そう…」
背の高い草を掻き分けて進むと、ちょっとだけ広い場所に出た。右を向くと、なだらかな坂が延々と続いている。けもの道というような雑多な印象はなく、普通に「道」って感じだ。こんな場所あったのか…。
で、左手にははんぺんと…なんかきっしょい男たち二人がいた。つーか人間が今ここにいることにビビったわ。
「まさに!U!M!A!」
「取っ捕まえてやる!」
「た、助けてでーす!!」
はんぺんは男たちに追い回されていた。男たちは私たちに気づきもしない。
「おーい」
気づかない。
「おい!」
私は小太りの男の背中に蹴りを喰らわせた。
「いっ!いたいっ!何者!って…バニーガール…」
「テメーら、ここで何やってんの?」
「ミソラさん、そういうキャラだっけ…」
あ…。まあいいか。
「トゥーイッターで我ら東北オカルト連合の間で話題の、べべれけ村謎の大谷!過去の自殺者は数知れず!」
あ、そういう…。てか、名は体を表しすぎだろ。
「最近、謎の音が聴こえたと!それも二回も!」
「あーはいはい。分かったから。で?」
「む…よって、ここにたどり着いたのだ」
ガリガリが指を指す。私たちの左手に、両開きのフェンスがあった。
「だが!この扉を開ければすぐに崖!八方塞がりであった!そこにこの謎のはんぺん型UMAが」
「…テルちゃん。ここの大谷の管理者って、誰?」
「…知らない」
「そっか。ガリガリ、お前は知らんの?」
「えっ…えっ、えっと…」
知らないみたいだな。…だが、多分…。
「…帰ろっか」
(…はんぺんも、早くこい!)
(た、たすかったです~)
「あ、あれ?はんぺんは?」
「オカルト共も早いとこ帰れよー」
…変な奴が来るもんだな。
「ミソラさん、結局誰のSOSだったの?」
「さぁ?さっきのオカルトオタクが崖から落ちかけたんじゃないの?」
すっげー嘘だな。
「うーん、それにしては声が高かったような…」
「はは…」
(…ミソラ)
はんぺんの体の球体が、黄色く点滅している。
…やっぱり、当たっちまったか。
「…テルちゃん」
「なぁに?」
「昨日の朝にさ。誰がみんなに、ミキちゃんが行方不明になったー、って言ったの?」
「…誰、だっけ」
「覚えてないや」
「うん、分かった」
…これで、おそらく。
分かったのだと私は思った。
「バニーガール…似合わないやつは相当似合わない」
ーーーー無銘。