村っぽいところ編 その4
まあ、分からないならどうしようもないか…。
「このテーブル、よくここまで持ってこれたね…」
「あ、はい」
突然の話題転換で、みんなに面食らわせてしまった。すまない…。
「これもカナちゃんのおかげなんだよっ」
テルが本日何度目かのニコッと笑顔を見せてくれた。もう言うことなし。
「ロープとかの材料を準備してくれて、それでみんなでがんばって運んだんだ」
さっすが建築士。…ん?待てよ?それはとび職じゃないか?建築士はおうちの設計いたしまーす的なあれじゃないのか?もしかして、違和感ってそれ?DIYとかしねーじゃん的な?まじか…拍子抜けだわ。
ロープか…嫌な想像をする。ロープで吊るされたのが、机ではなく岬ミキだったなら。それはこの場の全員を疑うことになるし、そうとは思えない。まだ岬ミキが死んだと決まった訳じゃあない。ただ、もし死んでいるなら。全員で口裏を合わせていたとしたら…背筋が凍る。
今、私が立っている場所の下に、岬ミキは埋められているのではないか。不自然な草原は、それを隠すためにどこからか持ってきたのではないか。
…って、邪推が過ぎたわ。さすがにそれは無理だ。岬ミキがいなくなったと思われる時間は夜中から朝方にかけて。いくら中坊とはいえ夜中の外出は親が不審に思うだろうし。…あっ、でも岬ミキの父親は自分の娘の外出に気付いてなかったんだったな…。
「なにボーッとしてるの?ミソラさん」
テルの声にビクッとした。
「記念写真、撮ろうよ!」
…え?このカッコで?忘れちゃいまいか、私はチャイナドレス姿。せっかくのテルの提案だが、断らせていただく。
「あーーでもこの格好じゃー」
「はいチーズ!」
気付いたときには、総員が私の背後にスタンバイ、テルがスマホを掲げていた。フラッシュが焚かれる。
「ぅぉぃ…」
負けた気がした。
・
フェンスの所まで戻った時にはすでに辺りは真っ暗だった。スマホの時計で見ると、6時。夏にしては早い日の入りだ。まぁ休日の私だったら今の時間までは寝てるな。
「じゃあ、ここで解散ということで」
カナが切り出した。もう今日はお開きらしい。
「えーっ、もっと遊ぼうよ」
「また明日遊べるだろ?昨日も一昨日も遊んだんだしよ」
フミカが不満そうだが、それをテツヤが諌める。
「夏休みは一日も欠かさずに遊んでるよね、私たち」
テルが微笑む。
一日も欠かさずに…マジか。
「今日だって、朝8時集合だなんてよ…遊びすぎだぜ」
「昨日も一昨日も、そうだったじゃん」
へぇー。
「あ…そうだ、ミソラさんはどうするの?」
「どうするって、なにが?」
テルがなにやら。何の心配だ?
「今日、どこかに泊まるの?この村、ホテルなんてないよ」
「それ、私も不思議に思ってた…旅行って…」
「あー…」
どうなんだろう…な。はんぺんワープで家に帰って寝るかな。
「うーん、どうしよっかな」
「え、ノープランなの?!」
つい喋ってしまった。つい。
「……泊まっても、いいよ?」
今、なんと?
「私の家、泊まってもいいよ?」
テル。いやぁ、それはマズいのでは?
「お言葉に甘えて…」
マズいとか言っておきながらあれだけど、まあこれくらいいいかなというか、行き掛けのなんとやらというか。
「うん、よろしくね」
そのテルの言葉には、なんだか深みがあった。
・
テルの家は、まあ普遍的な一軒家というか、都会の方にあっても別におかしかないんじゃないかってな感じの家だ。白いコンクリートの無機質さを覆い隠すように、煉瓦風の外壁がぺったりくっついている。屋根は三角だ。角度は150度くらい。
ちなみにだが村長のドデカいハウスとはまあまあな距離がある。まあまあ。視認はできるくらいな感じ?
「入って入って!」
「お母さんにオッケー頂いた?」
さすがにね。いくら浮浪の女子大学生と言えど気にするとこは気にする。
「うん。既読ついたし」
大丈夫じゃないのでは?
(…まさか、テルに話を訊くためにここまでするとは…です)
急にはんぺんが出てきた。
「いや、私が言ったんじゃないよ?てか見てなかったの?誘われたんだよ私?」
(こっちの世界は初めてだから、観光してたのです)
「…さらっと変なことを言うよね、お前。まあ興味ないけど」
「おっけーだって!」
テルのかわいらしーい声が夜の帳に響き渡る。本当に暗くなるのが早いことだ。
許可も頂いたことだし、踏み入らせて頂こう。今日で一番きれいな言葉遣いをした気がする。
「まあ…かわいらしい!!」
玄関に入って早々、若いお姉さま(と、いってもテルの母であろう。なんか騙された気になるのは癪である)に両手を両手で捕まれた。
「お母さん、この人、ミソラさん。都会から来たんだって」
「やっぱりね。カナちゃんやフミカちゃん達とは違う魅力があるわぁ」
「そ…そうですか?」
勢いが凄い。圧も凄い。女の子ハンターが職業なのかな?
「うちのお母さんです。スタイリスト…って言ったらいい感じだけど、もう芸能関係の仕事は辞めちゃったから…今はなにかな?」
「うーん、凄腕の女の子スナイパー?」
「やだなー、お母さんはもう女の子じゃないよ」
女の子を(射抜く)スナイパーだろ…たぶん。
「じゃ、ミソラちゃん。ゆっくりしてってね?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ご飯はまだできないから、テルのお部屋かリビングで待っててね」
「じゃあ、一緒に部屋に行こう?」
笑顔が眩しい。ここで断るやつはきっといないと信じている。
それに…いろいろ好都合だからな。やましい意味でも。
・
「テルちゃんさ、何か知ってるんじゃない?岬ミキちゃんについて」
単刀直入に、切り出した。緊迫した空気が流れている…はずなのだが。謎のピンクペンギンぬいぐるみ数多数が目に入ってきて、落ち着かない。なんだこれは。ベッドの上にも、下にも、机の上下にも。数百匹はいるのではないか…?
「…私も。話そうと思ってた」
いやあ顔はマジだけど部屋がこれではな。集中できないよ話に。ホントにマジで。
「あのね。ミキちゃんとカナちゃん、なんだか最近おかしかったの」
ミキと…カナが?
ペンギンは…さすがに慣れた。
「おかしいって、どんな風に?」
「ミキちゃんはなんだか悲しそうで…カナちゃんはピリピリしてる」
(おい、はんぺん)
小声で作戦会議をする。
(これはカナが岬ミキをぶっ殺したってことじゃねーの)
(短絡思考すぎるです…)
(あ?なんだとぶっ殺すぞ)
(ひど…どうしてそう思うのか、言ってみるです!)
(カナはピリピリしててミキは悲しげ。これは二人が喧嘩、というかミキがなんかやらかしたんだよきっと)
(例えば?)
(痴情のもつれとか?同じ男が好きで一方がフラれたとかな)
テルが私を訝しげに見ている…ちょっと待ってくれ!
(まぁ動機はこの際いいです…それで?)
(夜中に呼び出して、ぶん殴って…そうか!)
あの、秘密基地だ。あそこから落とせば、誰も気付きやしない。
(でも、夜中に動けばどちらかの親が気付くはずです!)
(本当にそうか?現に岬ミキの父親は気付いていないだろ)
(…ですが、容疑者はこの村の人間全員です。動機はどうでもいいと言いましたが、やはり不自然ですよ。岬ミキが殺害されているのは、ほぼ間違いないと思いますが…)
「どうしたの?」
「あっ、ごめんごめん。それで?」
「…それだけなの。ごめんなさい」
おっと。これは逆の意味で予想外だ。
「でも、確かな違和感は感じた訳だよね」
「うん。たぶん…間違いないと思う」
「今日もカナちゃんはピリピリしてた?」
「ちょっとだけ。でも大分和らいでたと思う」
やはり、か。カナが死んで、清々したのか。…いや、まだ推測の域は出まい。
…だが、段々と真相に近付いていると感じる。
(こりゃ、明日はこの子たちの身辺調査だな)
(…)
(なんだよはんぺん。不満か?)
(不満じゃ、ないですけど…)
(雲をつかむような捜査なんだよ、ちょっとずつ絞ってった方がいいだろうが)
(…でも、まだ能力は使わない方が…いいかもしれません)
「…あ、そ」
…確かに、早とちりな所はあったかもしれない。
解明する準備の出来上がらないまま真相に近付いていけば、当事者の人間が生モノであることを考慮すると、幾らでも複雑になってしまう。
今日、私があの4人に近付いたことで、もう何かが変わってしまっているのだろうか。あの中に、いたとしたら。
「ご飯、できたわよー」
「ご飯できたって。ミソラさん、行こう」
「う、うん」
目の前の彼女が人を殺したかも、しれないんだよな。
…そうだよ。私は普通の文系女子大生なんだから、殺人なんて物々しいモノに関わること自体、なんだか変だったのだ。だからこうしてはっと恐怖を覚えるのも…無理はない。
「おでんよ~」
…気を取り直して。晩御飯はおでんだった。この沸沸と煮たっている白い三角形は…。
「はんぺん…お前…」
(…この白いの、僕に似てるですか?)
(似てる。チョー似てる)
(…みそら)
神妙な顔つきのはんぺん。字面が面白すぎないか?
(…何さ)
(怖いかもしれませんが、みそらにしか、できないことです)
(…ふん)
見透かされたような感じで、軽く腹が立った。だが、そんなに悪い気はしない。
「さ、どんどん食べるぞ~…はんぺんを」
「まあ、かわいい!」
お母様の過剰リアクションが怖い…。
・
次の日の朝、ペンギンだらけの部屋にお母様がどたばたと音を立てて突っ込んできた。まだ日も出ていない。
「ミキちゃんが、帰ってきたって!」
え?
展開重視で順番が入れ替わったりします。
ピンクペンギンの台頭は必然なんだよ?
ーーーーテル、黎明の句