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村っぽいところ編 その3


「この人生すごろくを使いますよ…」


 そういってカナがロッカーから取り出したのは…煤汚れみたいなのがいっぱいついた箱。…きったねぇ!


「つ、使うのか…これを!」


 テツヤが驚いている。まるで魔物でも見るような目である。


「え、なにこれヤバイの?」


「1980年製の…()()()()()()()…」


 テルもガチな顔になっている。眼に輝きがない…。


「そう。ルールに抜け穴だらけ。自己破産をすれば最終的に勝てる…」


 なにそれ人生イージーモードかよ?


「だから今回は自己破産禁止。それでも抜け穴は…数えきれない」


「最終勝利は一番所持金の多い人だよね?じゃあ、決めておこうか」


 そう言って、フミカは机の中から輪ゴムで束ねられたカードを取り出した。


「それは…!」


 テツヤに衝撃が走っている。お前はリアクション担当か?


「罰ゲームカードMAXIMUM…」


 なんでこんな神々の戦い的なノリなの?


「勝った人が、罰ゲーム指名ね…」


 皆、雷に撃たれたように固まった。どういうノリだよマジで…最近の中学生はわかんねぇよ…。


「ま、勝つしかないか!」


 ・


 このゲームはガバガバである。例を挙げよう。まず数字の印刷ミス。このゲームには、職業がある。中盤に、みなどれかの職業には必ず就けるようになっている。普通、医者が一番給料が高い。例に漏れず、医者の月給は90万円(二番目の教師で50万円である)と高い。

 しかし、建築士。この職業の月給は20万円と安いが、マイターン(ターン=月数なのである)物件を一軒建てられ、貸与量を5万円プラスで貰える、つまり月給が徐々に増えていくというシステムなのだ。

 いや建築士が不動産もやってるやんとかいう突っ込みはなしね?

 で、印刷ミス。月給が200万円。桁が多い。で、貸与量も一桁多い。…つまり、建築士になれなかった時点でほぼ負けるのだ。

 今、建築士は…。


「ふっ!」

「ふふっ」

「よっし!」

「あははー」


 私以外の、四人である。


「なんで狙って踏めるのさ!?建築士のマス!」


「いや、なんか今日は運がいいんだよね…」


「両親が建築士ですので…私」


 クソ!って言いそうになったが、堪えた。この金持ちどもが。

 ちっ、と心の中で舌打ちし、さいころを転がす。


「あっ、ミソラさんまた結婚回避だー」


「うっ…うるさいよっ!」


 ・


 しかし私は巻き返した。捲土重来である。

 最後の最後、夢の七マス。ここは、もうダメである。一気に無一文になるか、大富豪になるか。ゲームバランス最悪だよ。普通に。

 私はあるマスを踏んだ。ゴールのひとつ前。

 「宝くじに当たる。今期の宝くじの満額もらえる。」

 …今は夏。満額7億。この時点で、テル以外の全員は追い付けない。彼らはゴールしているが、私より総資産が下だ。

 紙の札束を、ごっそりと自分の前へ置く。


「ミソラさん、やべぇ…いや、このゲームがヤバイのか…」


「はっはっは…!」


 実は私、本気を出していた。狙った数が出ないと思った時は、机をちょっとズラして床に落とし、やり直しをしていたのだ。もちろん、バレない程度にね!


(素に戻ってるし…脱線してるし…イカサマだし…です!)


「じゃあ…テルがこの後…」


 深刻そうな顔の、カナ。


「ああ。テルの所持金が6億…ミソラさんが7億9000万…残りの7マスは2分の1が金が貰えるマスだ…でもその内ミソラさんを超えられるのは!」


「同じ、宝くじのマスだけ!」


「やめてやめてやめてやめて」


 テツヤが祈っている。テルが勝ったらその身に罰ゲームという名の災厄が降り注ぐからか…。MAXIMUMってそんなヤバイのか…?


 …つまり「5」を出せればテルの勝ち。確率としては6分の1。あり得るが、私の方が有利だ。

 ドク、と心臓の鼓動が速くなるのを感じる。こんなの何時ぶりだろうか?総体のラストポイント、センター試験、大学入試。なんだか懐かしくて、思い出に庇護欲が湧いてきた。

 …あっ、私は推薦だったわ。


「出た~!」


「なんだと…」


「う、うわぁ~!」


 他のメンバーが悲鳴を上げている。

 …なんで私、あんなにマジになってたんだろ。


(勝手に熱くなって勝手に冷めてやがるですー)


「いやー負けちゃったよ…」


「えへへ…何も考えないのが実は一番なんだよ!」


 私、イカサマしたと思われてる…?


(してたし…です)


「じゃあー罰ゲームはミソラさんね!」


「…え?私?なんで?」


「えーとね…なんとなく!」


「えぇー…」


「お部屋のことも、教えてあげるから!」


 じゃあ…仕方ないか。


「引くね!」


 テルが、シャッフルしたトランプから一枚取り出す。


「…チャイナドレス」


「ハッ!」


 私は鼻で笑った。嘲笑った。


「そんなものは、ない!」


「あったよ~」


 フミカの声。


「は?」


「これ、理科室の骸骨が着てたよ」


「は?」


「まあ罰ゲームは罰ゲームだから!」


「は?」


 ・


 背が高い草木を掻き分けてしばらく行くと、金網が見えてきた。フェンスだ。というか…。ここ、()()だ。どうやら、彼女たちが言ってるお部屋というのは崖の中腹にあるらしい。もう日は落ちかけていて、橙色の太陽が輪郭をぼやけさせている。…かっこいいこと言った?


「もう少しで、破れたところがあるんだよ」


 テルが言う。と同時に、私の体…というか格好を見つめている。


「すっごいね…それ…」


「ホント。テツヤには刺激が強すぎるかもね」


「は、はぁ?こんなのなんでもないって!」


 カナがテツヤをからかっている。真面目ちゃんかと思ったら、そんなこともなかった。

 それにしてもこの格好、キツい。ピッチピチである。ニーハイも履かされた。血が止まりそうだ。大学生の時の私じゃあ、とてもじゃないが着れない。いや女子高生でもキツいけど。

 まあ、連れてきてくれただけ良しとするか。


(ぷぷぷ…面白いです!)


「うるさ…」


「ミソラさん、ここだよ」


 その言葉の通り、金網が少しだけ破れている。体を丸めれば通るくらいか。


「こっから降りたら、採掘場の跡地があって…そこが秘密の場所なんだぁ」


 テルが満面の笑みをたたえる。友達との時間が、何より好きなのだろう。それにしてもかわいい。


「へぇ…いいね、そういうの」


「うんっ!」


 はぁー…。無垢だなぁ。

 私も、そんな時期…あったかなぁ?


「じゃあ、足元に気を付けてね!」


 気付くと、テルが金網を潜って向こう側にいた。


「カナちゃん特製の手すりがあるから、それに沿って降りてきてくださーい!」


「ちょっと、やめてよ…」


 さっすが建築士の娘、DIYもお手の物か…。

 金網を潜ると(キツかった)、右の壁に沿うようにして手すりが据え付けられていた。塩化ビニルのパイプで、体重を支えるにはちょっと怖い。そんなこと考えてるうちにも、べべれけチームはどんどんと降りていった。完全に慣れている動きである。

 道は螺旋のようになっており、人一人が通れるくらいだ。左側はフェンスも何もなく、落っこちたら死ぬだろう。たぶん。底は見えないほど暗い。

 しばらく行くと、ある程度の広さの踏み場に繋がった。その踏み場は鉄のタイル(で、いいのか?)で、裏側は壁に打ち付けられたパイプかなんかで支えられているようだ。おかげで、すこしグラグラする。


「こっちだよ」


 テルの声が響く。奥の方に、さっきの金網と同じくらいの穴がある。そこから聴こえてきた。


「マジでー?ここ潜るのー?」


「うん。こっちに来たら驚くと思うよ」


 また声が響く。私は観念して、体を縮こめながら穴を通過した。ニーハイに砂がついて気持ち悪い。

 穴は1mほどで、意外と長かった。降りると、クシャ、と音がした。…クシャ?

 足元を見ると、一面草だった。いや面白い意味の草じゃなくて。草原だった。辺りを見回すと、この子達によって持ち込まれたと思われる机やらベンチやらがある。風を感じて顔を上げると、もう暗くなった空が映っな。


「あれ、吹き抜けになってるんだ」


「うん、秘密基地っぽいでしょ?」


 吹き抜けになってるのが秘密基地っぽいかと言われるとどうなんだと思うけど、そこはかとない「いい感じ」はあるな。


「ここが、お部屋?」


「そうです。雨の日の後は草がべちょべちょになっちゃうんですけど…もう乾いてるみたいで、よかった」


 ほう。それにしても、よくもまあこんな所に草がぼうぼうと生えたものだ。崖みたいな固い土の所って、生えないのかなぁと思っていた。…いや実際生えないのでは?なんか特別な理由があるんじゃないの?


「こんな所に草って生えるんだねぇ…」


 それとなく訊いてみる。


「私たちも、最初見つけたときはびっくりしました」


 カナがにこやかに返してくれた。


「あの時はよ、フミカがみんなをいきなり金網のとこに連れてきてさ」


「だって、見つけたから教えてあげたいなーって」


「…ミキちゃん、ここを見つけた時、ホントに楽しそうだったよね…」


 テルの言葉に、場が沈黙する。ジー、という虫の音だけが、やけに耳に残った。


「あいつ、どこに行っちまったのかな」


「村のみんなは家出なんて言ってるけど…信じられないよ」


「…」


「…どうして、信じられないの?」


 …これは、齟齬か?。はっきりとは分からないが、私の中の認識か、何かと、ズレている気がする。確かに、岬ミキの父親も家出を信じられないと言っていた。だがそれとは違うのだ、この違和感は。


「家出するようなヤツじゃないですから、ミキは」


 テツヤがきっぱりと言う。


「あいつは俺たちをほっといてどっかに消えるようなヤツじゃない」


 友情によっぽどの自信があるようだ。


「私も、そう思うよ」


 フミカ。はつらつ系のキャラがシリアス感出すときは大体本当のことを喋ってるよね。うん、共感を求める部分が細かすぎた。


「…」


 テルは、うつむいたまま何も言わない。

 やはり何か知っていそうだ。てか、隠す気あんのかよ。思わせ振り過ぎだわ。思わせ振りは美人の特権だから許すけど。

 まあ、みんなの前では言いたくないことなのだろうたぶん。後から訊くわ、覚えてたらな。

 …うーん、違うな。何が違うんだろうか。齟齬なのか違和感なのか何なのか。それすらも分からん。



 

大筋はありますが意外とノリで書いています。

イカサマです!ーーーーはんぺん、珠玉の句

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