村っぽいところ編 その1
私、坂月魅空!19歳!女子大生!はんぺんの妖精に頼み込まれて女子高生になっちゃった!…って自分で言ってても意味わかんねぇわ。
取り敢えずはんぺんを追い掛けて山道を下る。山道っつってもコンクリートの道路だ。まあ急がなくてもいいでしょってことで歩くわ。
…ん?すると前の方からツヤッツヤのスポーツカーが走ってきた。すっごい速い…というか法定速度的には完全アウトだ。自動車教習で乗り上げまくった私には分かる。
「あーれー」
車が横切った。圧がすごい…風の。おかげで私はくるくる回った。こんな田舎でもスポーツカーっているんだなぁ。
猛スピードのせいでドライバーは見えなかった。金持ち…かな。大農家とか。ヤのつく自営業とかかもな。
それにしても道が長い。
「あぁーめんどくせぇーっ!!」
叫んだ。まあ誰も居ないでしょってことで。
…ガサガサ、と葉同士が掠れる音。正直言って心臓が止まるかと思ったよマジで。音の方向は歩いてた道の真左。ガードレールの向こうだ。木々が繁茂(って言い方かっこよくない?)してて、真っ暗とは言わんがそれに準ずるくらい暗い。ダジャレではない。
金網のようなものが見えた…気がする。怖かったので深追いせずに下りることにした。まだ本当か分からんけど殺人事件が起きたらしいし…処理中とかだったらヤだし…遺体の。
「はー、いつ着くのかねー」
独り言が森に消える。…寂しいッ!
・
歩くこと10分。道も開けてきて、人家が見えてきた。まだ急な坂道の途中だけどな。人家よりもでっかい田んぼの方が目を引く。家がおまけに見えるくらいほぼ田んぼだ。実は私は田んぼを見るのは初めてだ。シティーガールだかんな。
「みそら~こっちです~!」
はんぺん野郎の声だ間違いない。どこだ?
「こっちです~!」
あの甘ったるい声、腹立ってきた。
目を凝らすと無数の田んぼの向こうに米粒のようなはんぺんが見えた。山影に隠れていたから気付かなかったが、まあまあ大きい屋敷がある。そこの庭にいた。家のサイズと同じく大きい柵が屋敷の周りを囲っている。家は木製なクセして柵は洋風な金色の槍か針金みたいなやつだ。それにしても、よくよく見ると本当に大きいな。
…危惧していた、例の自営業なのでは…?
いや、問題はそこじゃないよ。
遠っ!遠すぎるわ!空飛べない魔法使いってなんなの…と思ったけど別に魔法使いじゃないんだっけか。
「テメー!連れてきたときにワープしてたろうがもう一回やれー!」
やれーやれーやれー…とコダマする。
「疲れたですー!」
ですーですーですー…と…ムカついた!
「なぁにが疲れただ馬鹿野郎が!てめーが連れてきたんだから最後まで責任持って連れてきやがれ!」
やっべ、口悪いな私…。
「…です」
何か言ったらしかったが聴こえない。
「なにーー!?」
少しやわらかめに言ってみた。
「分かったから待っててくださいですーー!!」
「はじめからそうすりゃいいんだよヴァーカ!」
ああダメだ。口悪いわ。
・
はんぺんは最初に私を連れてきた要領でワープした。隣でめっちゃ疲れた顔してるけど知らない。
屋敷の庭には大勢の人が集まっていた。ダジャレじゃないよ。多いといっても大体十数人くらいだ。どうやらこの家は村長のモノらしく、これは集会という訳だ。私たちは後方でそれを観賞していた。みんな正座して話を聴いているから、正直申し上げて気持ち悪いしちょっかい掛けたくなるよね。
その聴衆の前に、一段高いところ(といっても、ただの縁側なんだけどサ)から髭を生やしすぎてもはや仙人みたいな人がくっちゃべっている。袈裟のようなダッセー格好をしている。別に老人のカッコまでケチつけるつもりはなかったけど、みんなが普通の洋服な分浮いている。耳を澄ますと言葉がはっきりと聴こえてきた。
「皆、岬の娘が燃えたことは知っておるな」
…燃えた?萌え萌え的な?という冗談はさておき焼かれて殺されたってことか?
その言葉に、聴衆は深刻な顔してぼそぼそと話し合っている。
いや異常だよね。みんな知ってるなって何なんだよ?村ぐるみで一人の殺人を隠してんの?てか落ち着いてるな?カルトか?カルトかこれは??
「ええ。どうも東京の方へと」
聴衆の中のひとりが答える。
死んでない…ってことか。
「誰だ?」
あ、やべえっす。
みんなが一斉にこちらに振り返る。流石に気圧される。訝しげな目でこちらを…
「…学生?」
「女子高生…」
「かわいい…」
あんまり悪くない気がしてきたぜ。
「静かに」
村長っぽい人だ。
「君、どこから来たのだね?この村の子じゃないね」
物腰が柔らかい…!私も見習いたいくらいだ。
「おい…はんぺん…どうすんだよ…」
私は小声で助けを求める。だって…ねぇ。どうするよ。
(今はステルスモードです~)
「はぁ?ざけんな」
「聞いてるのかい?」
ああ、これ以上待たせるとおじいちゃんが可哀想である。
「あー…私はミソラと言いまして、女子高生です。東京の」
(さらっと嘘ついてるです~)
はんぺんの頭をはたいた。ふらふらと落ちていき、コテンと地面に着地した。
「ほう。東京の学生さんが、どうしたのかな」
物腰柔らかいっつったけどやっぱり年相応の威圧感というものがある。
「えーっと…そう、旅行です。夏休みを使って」
「旅行?こんな村に?」
なんだこいつ腹立ってきたわ。
「自然の多いところがいいかなーって。あはは…」
だがこの人数の前でキレるわけにはいかない。
「…今の話、聴いていたかな」
「!」
やっべぇ。これはマズいぞ。返答次第によっちゃあ私も何されるか分かったもんじゃねぇ。もしかすると犯人の前に立っているのかもしれないからな。
「…聴いて、ました」
言っちゃったよ…
すると村長(仮)はニコッと微笑み、
「そうかい。外の人にも話を聴いてもらった方がいいかもしれんなぁ」
と言った。
まあ命は助かった訳だ。
「君もこっちへ来たらどうだい?」
「いや、それはー…遠慮しときます」
まだ信用できないしカルトっぽいのの一員と思われたくないからなぁ…。
「そう」
村長(仮)はまた話を始めた。聴衆はそれに合わせ体の向きを直す。日本にもまだこんなのがあるんすね。
(ぐ…痛かったです)
「おうはんぺん野郎よくも無駄な距離歩かせやがってよ、その上ステルスモードとはなんだコラ」
もう口の悪さが気にならなくなってきた。個人的に。
「みんな、自分の姿を見たら驚いてしまうです~」
一人称「自分」なのか…高校の時にそんな後輩いたなあ。
「あ、そう…で、私は何をすればいいわけ?」
「殺人事件が、この村で起こったのです」
「知ってる。犯人探ししなきゃいけないんでしょ?で、まずどうすればいいの?」
「まず、殺された人間が誰なのかを明らかにするです」
え、それ分かってないの?
「殺人が起こったことは事実なのです。だから自分たちはその被害者と、加害者両方を探し出すのです」
呆れたぜ…まったく…!
「あのね、世の中には無理なことがあんの。警察に頼んだらいいじない」
「警察は…もしかしたら、このまま事件に気付かないかもしれませんです」
「通報したら?」
「証拠もないのに取り合ってくれませんです…」
「…なんで、はんぺんは事件が起きたって分かるの?」
「…説明すると長くなるです。とにかく分かるのです!あとはんぺんじゃないです」
押しが強いので、引いた。
「分かった分かった。でもさ、難しいと思うんだけど。それ」
「そのために、みそらには能力があるのです!」
「犯人チェッカーとか?」
「そんな便利なモノはないです。嘘を見破るという能力です」
「え、楽勝じゃん」
「でも二回までしか使えないです」
なにその制約…。
「あ、話が終わったみたいですよ」
「ちょ、まだ訊きたいことあんだけど」
「また後にするです!村長のところへ行くです!」
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