1(云いたいことがある)
素敵な悪事のおさめかた(26)
「お前たちに云いたいことがある」シカゴが厚い唇を動かし、かすれ声で云った。「ご苦労だった」
横一列、パイプ椅子に並んで坐った者たちは、互いに顔を見合わせ、ぎこちなくも笑い合った。小さな採光窓ひとつの事務所の中でも外は初夏。そこはかとなく心地良い。
シカゴは綿毛のような白髪をそっと頭に乗せた太った初老の大男だ。「ドジ踏んじまったヤツが出たのは残念だ」
「ラーメン」中肉中背で細い口髭、インテリぶった伊達男が良く通る声で云う。他の者も、慌てたように唱和した。「ラーメン」信仰ちゃんぽん、ここに極まれり。
「罪深き彼らの魂の救われんことを」小柄な禿げ男の言に、再びさざ波のような笑いが広がった。大きなバタフライサングラスをかけた女は真っ赤な紅を引いた口元を押さえ、肩を震わせている。けれどもそれは、シカゴが言葉を続けるまでだった。「で、何でお前ら四人なんだ?」金壷眼をぐりっと向けた。「勘定が合わねぇ」
*
ここで前回までのあらすじ。
ぼくの名はコロラド。勿論本名じゃあない。今回のためにシカゴが用意した。間違いなくこの面子の中で一番若く、経験も少ない。ただの学生で、半年前の秋休暇、バイトを引き受けた。
母には年の離れた弟がいて、つまりこれが叔父なのだが、やりたいことと才能が折り合わず、半年前にいよいよ三振。スリーアウト。で、裁判所から叔父が云うところの「ム所」行きチケットを進呈された。
独身で気前よく、子供のぼくには憧れの兄貴分で、少しの悪い事から、だいぶ悪い事までの大抵のことを教わった。ただひとつ、収監が決まって母を泣かせたことだけは許せなかった。
「あの子のことで、もう心配しないで済む」
悲嘆でなく安堵の涙だったかもしれない。
少しばかりの事実を追加すると、学期中もぼくはバイトに勤しんでおり、それがときどき細くて長い法の線上を跨ぐこともあった。皮肉にも、ここで叔父の教えが役に立ち、手は一度も後ろに廻っていない。ぼくには叔父よりも少しの才能と少しの運があった。そして幾つかの人伝ての果てにシカゴと出会う。
「指定の日時、場所で荷を受けとり、指定の日時、場所に荷を置く」簡単な仕事。「用意はこちらで全部する」それには経費も含まれた。
「ただし」と話は続く。「受け取りは半年後」
これにはちょっと考えさせられた。おっさんの半年と学生の半年じゃ価値は全然違う。ぼくは叔父と面会した。そして仕事を引き受けたのだった。
ビーッとブザーが鳴った。重厚な焦げ茶色の巨大な両袖デスクの上に置かれた白いのプラスチックのインターホン。スイッチを押して、「なんだ」不機嫌にシカゴが応じる。
「あ、ボス。こないだのアーティチョークの支払いなんですが、」
気の弱そうな男の声に、「ばかっ」シカゴは皆まで云わせず、「ばかっ」スピーカーに向かって唾を飛ばした。「そっちでやっとけっ」
憤然と椅子に反り返るや、再び躰を起こしてスイッチを押し、「きっちり、間違いなく支払うんだぞ。値引きとかセコい真似はするな。帳簿の記入も忘れるな」
スイッチから手を放すと、やれやれとばかりに首を振った。「どいつもこいつも……」
顔を上げ、「なに見てやがる。見世物じゃねぇ」椅子に深く沈み込み、デスクを挟んで並び坐るぼくらを順に見た。「で、どうなんだ? 員数外は認めない」
「面子を揃えたのはアンタだ」禿げ男が云った。「自己紹介も済んじゃあいない。で、シカゴ。誰がデラウェアなんだ?」
部屋一杯に巨大なクエスチョンマークが現れた。ややあって禿げ男も見つけたらしい、「笑えよ」どうかすると情けない声で、「アメリカン・ジョークだ」




