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朝色小夜曲  作者: 芦野
15/28

Another chapter2

このchapterはAnother chapter1の続きとなっております、未読の方はぜひそちらからお願いします。

1

いつもソファーの上で寝ているせいか、ベッドの寝心地の良さが分かる気がする。

「……っと」

体が軽いとまではいかないけど、体調はだいぶ良くなった。

一時間目の途中で急に頭が痛くなってきたので、休み時間に真央に言って保健室で寝ていたわけだけど、気がついたらもう12時を過ぎている。


「?」

あれ、誰か隣のベッドにいる。別に珍しいことでもないのだろうけど、どうしてかそのことが気になってしまった。

四時間目が終わるまで時間を潰して戻るか、そんなふうに考えていたそのとき、着信音らしきものが急に鳴り始めた。

わたしの携帯の着信音じゃない、どうやら隣のベッドから鳴ってきているようだ。

「はい花恋です。ええ、聞いていますわ」

聞き覚えがある声、それに花恋というつい最近聞いた名前。隣のベッドにいるのはどうやらあの生徒会長様らしい。

「ええ、そのことはすでにお父様に話してありますから。ええ、よろしくお願いします」

どうやら電話は終わったようだ。

「すみませんうるさくしてしまって……あら?」

仕切りのカーテンを少し開けてこっちを見る椿原と目が合う。

「……どうも」

「隣に誰かいらっしゃると思ったら、百合さんだったんですね。体調の方は大丈夫ですか?」

「……寝てたらだいぶ良くなった感じかな」

というか、この生徒会長さんは体調が悪いようには見えないけど何してるんだろ。

「そうですか、それはよかったです」

そう言って椿原はふっと笑う。

「突然ですが実はわたくし、この前少しお話させてもらったときに確信したんです」

「は、はぁ」

椿原はわたしの目をじっと見つめてくる。

「誰かから聞くのではなく、貴女がどういう人なのか、自分で確かめてみたいんです」

「……どういうこと?」

言葉の真意が分からない。いったい何が言いたいんだろう。

「ふふっ、要するにわたくしとお友達になってもらえませんか、ということです」

「え」

予想してなかった答えだ。

「嫌……ですか?」

「別に嫌じゃないけど、その、予想してなかった答えでちょっとびっくりしたってだけ」

「自分からこういうこと言うのが、初めてで緊張してしまって」

まあ確かに椿原は誰かに声をかけるというよりも、かけられる側だろうと思う。

「あっ、もうそろそろ授業が終わりそうですね。では……これを」

おもむろに椿原は、制服の胸ポケットからメモ帳を取り出す。そのままさらさらっと何かを書いて、破った一枚をわたしに差し出してきた。

「わたくしの連絡先です」

受け取った紙片には携帯の番号とメールアドレスが書かれていた。

「あ、どうも」

「よろしければ、百合さんの連絡先も教えて貰えませんか?」

「あっ、うん。……これがアドレスで、こっちが電話番号」

携帯を取り出して椿原に画面を見せる。

「ふふっ、ありがとうございます。ではまた」

椿原が保健室を出るのと、ほぼ同時にチャイムが鳴った。


「大丈夫?」

教室に戻ったら、真央が心配そうな顔をしながらわたしに聞いてきた。

「寝てたらよくなった」

「朝よりは体調良さそうに見えるし、ちょっと安心した。でも、無理しちゃダメだよ」

「うん」

真央は少し大げさだ、保健室に行ってただけでそこまで心配することない。そもそもそんなに体調が悪いならわたしはさっさと帰る。

いつもサボっちゃダメだとか小言を言うくせに、こういうときはやけに過保護なところが、真央らしいと言えばそうかもしれない。

「……やっと終わった」

結局、午後の授業もいつもと同じように起きてるのか寝てるのか分からない感じで、ほとんど座ってるだけだった。

授業が終わるとわたしは、いつもと同じように足早に教室を出た。


2

「ん……」

睡眠時間は十分足りているはずなのに、ソファーから起き上がれないまま、わたしは日曜日の夕方を迎えていた。

明日からまた学校が始まると思うと、本当に憂鬱になる。

「あれ?」

携帯が鳴る。誰だろうと思って画面を見ると、そこには椿原明日葉と表示されていた。


「もしもし」

「あっ、えっと今大丈夫だったりする?」

「大丈夫だけど」

「……えっと、もし良かったら息抜きにちょっと付き合ってもらえない? 具体的には映画とかゲームセンターとか」

「……その二つだったらゲーセンの方がいいかな」

B級映画は別に嫌いじゃないけど、今日は映画って気分じゃない。

「て、ことは付き合ってくれる?」

「まあ、いいけど」

そんな露骨に嬉しそうにされると、なんか照れる。そんなにたいしたことじゃないのに。

「じゃあ、この前映画見たショッピングモールの最寄り駅にあるゲームセンター分かる? 駅のすぐ近くのとこ」

「うん」

最近はあんまり行ってなかったけど、前は毎日のように行っていた場所だったし場所は当然分かる。

「入ってすぐのクレーンゲームのとこで待ち合わせでいい?」

「分かった」

「じゃあまた後で〜」

そう嬉しそうに言って、明日葉は電話を切った。


「……」

クレーンゲームコーナーをぐるっと回って来たけれど、明日葉の姿はなかった。どうやらわたしの方が先に着いたらしい。

ただ突っ立ってるのもあれだし、目についた袋に入った駄菓子が景品のものをやって待つことにした。

「うーん」

久々にやると思ったよりも上手くいかない。結局1つ取るのに手持ちの100円玉を使い切ってしまった。

ちょうど千円札を崩してしているときに、明日葉が小走りで中に入って来るのに気づいた。

「ごめんごめん待った?」

「そんなにかな」

「急に誘ったのにずいぶんと早かったよね、もしかしてアタシにそんなに早く会いたかった?」

得意げな顔で明日葉は胸を張る。

「いや、単純に暇だっただけ、それにわたしここよく来てたし」

「そういうときは、冗談でもそうだって言うべきなの」

女心が分からないとモテないからね、と言うけどいやわたしも女なんだけど。

「はいはい……で、何やるの?」

「あれ欲しいなーあのぬいぐるみ」

明日葉は隣の筐体にいる、ブサイクな猫のぬいぐるみを指差す。

「え、あれ?」

思わず聞き返してしまった。え、こういうのが好きなんだ。

「そうそうかわいいじゃん」

そう言いながら明日葉は硬貨を筐体に入れる。

「この辺かな、えいっ」

「いいんじゃない」

二人して中を覗き込むようにしてじっと見る。

「あー! もう!」

アームで掴んだところまではよかったけれど、運ぶ途中で落ちてしまった。

「終わったのにボタンを叩いても出てこないでしょ」

「あったまきた! 絶対取るから」

「……」

そんなに熱くならなくても良さそうだけど、見てて面白いので黙っておくことにした。


「おめでとう、取れてよかったじゃん」

「まあね、アタシにかかればチョロいよこれぐらい」

使った金額からすれば、どう考えてもチョロくはなかったけれど、本人が満足してるみたいだし別にいいだろう。

「そういえばさ、学校でのアイツはどんな感じなの?」

「アイツ?」

いきなりアイツって言われても、誰のことか分からない。

「椿原花恋、生徒会長してるあの女。三間桜に通ってるなら知ってるでしょ?」


一瞬どうしてわたしが三間桜に通ってることを知ってるんだろうと思ったけど、そういえばこの前わたしも制服着てたな。

「同じ苗字だから多分そうだろうと思ってたけど、やっぱり姉妹だったんだ」

「そう。全くもって嬉しくないけど」

明日葉は心底嫌そうな顔をする。……あの生徒会長さんと明日葉は仲悪いんだろうか。

「で、どうなのアイツは。やっぱり外面はいい感じなの?」

「……いいんじゃないかな」

正直わたしがちゃんとした答えを返せるわけがない、ので適当に濁した。

「あーやっぱりねー」

「家にいるときは違うの?」

「家にいるときも基本はそうだけど、真面目ぶってお父様やお母様に媚びてるのがムカつく」

「……」

どうやら、本当に仲が悪いらしい。

「あーなんかイライラしたら甘いもの食べたくなってきた」

「クレープでも食べる?」

「そうしよ」

一度外に出て、入り口のそばにあるクレープ屋に向かう。

「抹茶味のクレープは初めてだし……あっ、でも思ってたよりも美味しい」

「へえ」

冒険、とまでは言わないけどチョコバナナ以外のクレープを食べたことのないわたしには、変わったチョイスに思えた。


「椿原さんのお母さんってどんな人なの」

ふと、気になったことを聞いてみる。

「どんな人って言われると、よく分かんない」

「優しい人?」

明日葉はわたしの質問の意図をはかりかねているのか、困った顔をしながら考え込んでしまった。

「多分それなりには優しいんじゃないのかな、最近はそうじゃないけど」

「……そっか」

まあ、わたしたちぐらいの子どもは誰だって多い少ないはあれど、親という存在とぶつかり合うものなのかもしれない。

「あっそろそろ帰らなきゃ、最後にプリクラ撮ろうよ」

「えっちょっ」

手を引っ張られてプリクラの筐体に連れ込まれる。

「今日の記念に撮りたいの、いいでしょ?」

「……まあ」

気が進まないけれど、年下の子の前でごねるのもあれだし、さっと終わらせることにした。まあ、色々書き込めば大丈夫だろう。


「今日はありがと、また誘ってもいい?」

「うん」

「やった! 今度はもっと長い時間遊べるといいなー」

ゲーセンを出たところに黒い高そうな車が横付けされていた。

「お嬢様、お急ぎください」

そう運転手の人に促されて、明日葉は車に乗り込んだ。

「じゃね」

「うん」

走り去っていく車を見送ってから、わたしは駅に向かった。


「……いるんだ、メイドって」

運転手の人が着ていたの、どう考えてもメイド服だったよな。

……まあ、多分あれが制服なのかな。

お金持ちの家には、いまだにメイドというものがいるんだと、感心しながらわたしは電車に揺られていた。

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