EX.5
この作品はアフターストーリーです。本編未読の方はぜひ本編を見てからこの章を読むことをオススメします。
「……」
なんか今日は真央の機嫌が悪い。
わたしに対してどうこうというわけじゃなくて、表情だとか、ちょっとした仕草とかからなんとなくわたしが感じてるってだけだけど。
……うーんどうしたものか。
シャワーを浴びながら考えてるけど、いい案が浮かぶことは今のところなさそうだし。
「あっつ……」
髪を乾かしながらリビングに戻る。
いつもだったらちゃんと服着なよ、とか早く髪乾かしなよ、とか言って来るんだけど、真央はちらりとこっちを見たあと何も言わずに目を逸らした。
「……」
何も言わずに真央の横に座る。
テレビの音が控えめに流れるなかで、わたしも真央もずっと黙っていた。
きっと、真央もわたしが何か言いたげにしてるって分かっている。
わたしだって、真央が何か言いたいことがあるんだろうって分かってる。
こういうとき、どうしたらいいんだろう。
わたしがどうしたのって訊ねてしまえば、きっと真央は話してくれるんだろう。だけど、それじゃいけない気がする。
「ごめん、私が悪いんだ」
「……何もが謝られるようなことないと思うけど」
「ううん、百合は本当に悪くないのになんかイライラしちゃって……」
「何かあったの?」
「聞かないで! ……話したくない」
そう言って真央は泣くのを我慢するような顔のまま、黙り込んでしまった。
「……分かった」
真央を残してわたしはリビングを出た。
「ふぅ……」
ベッドに倒れ込んで、大きく息を吐いた。
──昨日は別に真央に変わったところはなかったと思うけどなぁ……。
まあわたしが気づいてなかっただけ、ってだけかもしれないけど。
まあでも、ああ言ってる以上余計に詮索されたら嫌だろうし、そっとしておくのが一番いいはず。
「……」
ベッドに入ってどれぐらい経ったのかは分からないけど、そろそろ寝落ちしそうになってきた。
今日朝早かったからなぁ……こんなことになるなら昼寝でもしておけばよかった。
まぶたが重い。
重いけどもう少し頑張るか。
「……ん」
足音が聞こえた気がして目を開けると、ドアが開いて真央がゆっくりとベッドに入ってきた。
「ごめん起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫。頑張って起きてた」
「……ごめん」
「なんで謝るの、わたしが好きで起きてただけだし」
「……だって」
真央はポロポロと涙を流し始めていた。
「無理しなくていいよ。真央が話すまでわたし待ってるから」
真央の涙をそっと指で拭く。
「──うえっ」
急に真央に抱きしめられて、思わず変な声が出てしまった。
「……ありがと、でも大したことじゃないから」
真央は感情が豊かというか、たぶん他の人より感情に敏感だと思う。
まあ、そういうところがあるのは前から知ってたけど、付き合ってから、よりそういう一面を見ることが増えた気がする。
「……そ、分かった」
……真央にいつだったか、わたしのことを全部知りたいみたいなこと言われたなあって、ふと思い出した。
知りたい。誰かに対してそう思うってことは、その相手のことが好きだってことなんだろう。
そのときは不思議というかちょっと怖いなって思ったけど、今なら分かる。
真央という存在は時間をかけて、今よりもっとわたしにとって近しくて、大切なものになるはずで。
それは真央にとってのわたしも一緒だと思う。
だからゆっくりでいい。
それから数日後、真央から不機嫌の理由の理由を聞いたわたしは思わず笑ってしまった。
「……つまりわたしが冷蔵庫のケーキを勝手に食べたと思ったら、そもそも自分で食べていた……と。ぷぷっ」
「だからくだらないことだって言ったじゃん……もう」
「ごめんごめん、でも安心した」
そう言いながらわたしをポカポカ叩きながらも、真央も最後は笑顔になっていた。




