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朝色小夜曲  作者: 芦野
12/28

EX.4

ファースト√のアフターストーリーです。未読の方はぜひそちらから読んでください。

「うーむ」

改めて考えてみても不思議なものだ。同い年なのにこうも違うものなのか。

「〜♪」

上機嫌なのか、鼻歌を歌いながら洗いものをしている真央を眺めていて思った。

目線を顔から下に向けてみる。

服の上からでも確かな存在感のあるその一対のもの。

あえて言葉で表現するのならたわわ? たぷんたぷん? いや、ぼい──

「え、なにどうしたの」

「いや、なにも」

「そう」

真央の目線がわたしから手元の食器に戻ったことを確かめて、わたしはもう一度真央の胸元を見た。

「……」

バカなこと考えてるなぁって自分でも思うけど、真央のおっぱいはどうしてあんなに育ったんだろう。

「うーん」

真琴さんのモノのことをやっぱり遺伝というやつ……なのかな。

それとも何か他に秘密でもあるのだろうか。

「で、さっきからどうしたの?」

洗い物を終えると、真央はわたしの隣に座ってきた。

「……別に」

「本当に?」

「うん」

真央のおっぱいのことを考えてた、なんて言ったら怒られそうだし黙っておくことにした。



「……」

シャワーを浴びて自分の身体を洗っていても、頭の中に思い浮ぶのは真央の裸体だった。

自分の胸を触ってみる。

なんか、あるんだかないんだか分からない程度しかない自分と比べると、やっぱり真央はすごい。

「ふぅ……」

何を考えてるんだ、わたしは。

身体と髪を乾かしたあと、自分の頬をぺちぺちと叩く。

「ねぇ、百合そろそろ寝よ」

「うん」

正直わたしはまだそこまで眠くはないけど、真央と一緒にベッドに行くことにした。



なんだろう、何か悪いことをしたわけでもないのになんか気まずい。

真央に背中を向けてわたしは壁を見つめていた。

「ふわぁ……電気消していい?」

「うん」

間接照明のぼんやりした灯りに包まれた部屋に、真央とわたしのふたりきり。

もう慣れた、って言いたいところだけど、今日のわたしはなんかおかしい。

「……」

真央はいつものようにわたしの方に身体を寄せてくる。

「ねえ、百合」

「何?」

「こっち向いて?」

「え」

「いいから、ほら」

そう言いながら真央はわたしの腕を引っ張る。

「何か言いたいこと、あるでしょ」

「いや、その」

「もう、隠しごとするぐらいだったら、正直に言ってよ。心配になるじゃん」

「怒らない?」

「……内容による」

そこは怒らないって言うところだと思う。

「真央のおっぱいのこと、考えてた」

一度こうなるともはやこれまで、観念するしかない。

「……え?」

戸惑いと呆れが混じった複雑な顔を真央はする。

「真央の、おっぱいの」

「いや聞こえたよ、そういうことじゃなくてさ……」

真央は考えごとをするように、自分のこめかみを人差し指でつつきながら首をかしげた。

「で? どうして、百合さんは私のおっぱいのことを考えていたんでしょうか?」

……やめて。そんな軽蔑の目で見られるよりは怒られる方がマシだ。

「別に変な意味じゃなくて、純粋に不思議だなって思ったの」

「……どういうこと?」

「ほら、わたしと真央ってそんなに違わないじゃん。生まれた場所も、住んでるところも」

「……」

真央は黙ってわたしの顔を見つめていた。

「なのに、こんなに違うのって不思議だなって話」

「まあ、ひとまず安心したけど……心配して損した」

真央はため息をついた。

「ごめん」

「いいよ」

真央はわたしに背を向けて、本格的に寝る体勢に入ったみたいだ。

「……」

ダメだ、わたしも寝ようと思って目を閉じていたんだけど、どうしてか真央の裸体が頭に浮かんで眠れない。




ときどき不安になることがある。

私が百合のことを好きな気持ちと、百合が私のことを好きな気持ちが釣り合っていないことに。

わがままだって分かってるけど、もっともっと百合に私のこと好きになって欲しい。

「……はぁ」

なんて言ったらきっと百合は面倒くさがるんだろうなあ。

お風呂から出て、リビングに戻ると百合は本を読んでいた。

「……」

真面目な顔をして、本を見ている眼差しがやっぱりとっても様になるなって思うのと同じぐらい、私にその顔を向けてくれないのがいらだたしかった。

「前も読んでたよね、それ」

「……うん」

隣に座って話しかけても、私のことを全然気にしてくれない。

それに、さっきからページをめくる手が動いていない。

思わず百合の頬に手を伸ばしそうになって、やめた。

もしかして何か考えごとでもしてるんだったら邪魔したら悪いし。

「先にベッド行ってるね」

そう言って私はリビングから出た。



「……」

このベッドはひとりで寝るのにはちょっと大き過ぎる気がする。

自分で選んでおきながら、私はそんなことを考えていた。

しばらくしてからドアが開く音がして、百合が隣にくる。

「……」

私に背を向けて、壁の方を見ている華奢な背中に触れたくなってしまう。

百合は私のおっぱいが好きなのだとしたら、私は百合の首筋と肩が一番好きだ。

守ってあげたくなるって言うと変かもしれないけど、とにかくぎゅっと抱きしめたくなる。

「……百合、まだ起きてる?」

「どうしたの」

「ぎゅー」

そう言いながら、私は百合の後ろから抱きついた。

「え、なに急にどうしたの」

「百合は好きなんでしょ私のおっぱい。だからサービス」

百合の身体ってあったかい。私よりも体温がきっと高いんじゃないのかなって思う。

「……ねぇいつまでそうしてるの?」

「私が満足するまで?」

みるみる耳が赤くなっていく、百合は本当に色白だからはっきり分かる。かわいいなあ。

「……そろそろ満足した?」

「まだ足りないけど、ま、いっか。ねぇ、こっち向いて」

「なに」

ちょっと困ったような顔をしている百合に手を広げてみせる。

「今度は百合が満足するまでぎゅっとする番だよ」

「わたしはいいよ……」

「もう、遠慮しなくていいから。おいで」

「……」

観念したように百合は私の胸元に顔を埋めて、背中に腕を回した。

大好きな百合に、今抱きしめられている。

ありきたりな表現だけど、とっても幸せで満たされる。

私の体温と百合の体温が重なって、混ざりあって熱をもってゆく。

……このままひとつになれたらいいのに。

そんなことを思いながら、私は百合に抱きしめられていた。

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