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A国から逃げ隊  作者: 瓜
30/35

拷問吏

大分適当に書いてます。

「テロリスト」がゲシュタルト崩壊。

「…なぁ、終わったか?」

「あぁ。丁度な」


 一人の兵士が、小部屋の中を覗き込んで話しかける。

 小部屋は薄暗く、僅かに薬品と血の臭いが漂っている。何処となく、空気も重苦しく淀んでいるようだ。

 その中で、一人の男がペンチに付いた血を拭っていた。

 男の傍らに置かれたトレーには、数枚、剥がされた手指の爪が載っている。

 よく見てみると、部屋には他にも、メスやライトや注射器や、様々な道具が置かれている。


 男は拷問吏だった。

 此処での彼の職務は、部隊が引っ切りなしに連れて来る「テロリスト」達を拷問し、『旅団』に関する情報を吐かせる事である。


 戦争に於いて、捕虜への虐待や拷問などは、国際法で禁止されている。

 しかし、捕虜という特権的身分になる事が出来るのは、交戦権を持つ団体──平たく言うと、殆ど主権国家の軍隊の軍人だけだ。

 テロリストには、その保護は適応されない。クチナシシティに侵入し、地下の『ベクトル発生装置』を破壊しようとする「テロリスト」に、容赦する必要はない。


 A国の避難民は?

 そんなものはいない。

 善良なA国民は一人残らずゾンビ化しており、クチナシシティに侵入する者は、全てテロリストである。


 拷問しても何も吐かないのは?

 それは、そいつが末端構成員で、『旅団』の中枢について詳しく知らされていないからだろう。

 何にせよ、テロリストである事に変わりはない。


 彼らが従っているのは、こういう論理である。


 だが、兵士にも、勿論拷問吏にも、彼らが拷問している人間の大半がただの避難民だという事は分かっていた。

 最早、彼らが一般市民を拷問しているというのは、公然の秘密だったのだ。


 兵士は、何処か冷笑するような調子で男に尋ねる。


「何か、有益な情報は得られたか?」

「いや…どうやら、ただの避難民だったようだな。これだけやって吐かないのだから、それはほぼ間違いないだろう」


 兵士の問いに、拷問吏の男は、抑揚のない声で答える。

 拷問吏の、「テロリスト」が「ただの避難民」だと認める言葉には、一切の感慨が篭っていなかった。

 彼の声を聞いた兵士は、一瞬軽蔑の表情を浮かべ、それから、皮肉っぽく笑った。


「そうか…お前も、えげつない事をするもんだな」

「仕方ないだろう。これも上の命令だ」


 拷問吏は即答する。

 それに対し、兵士は、今度こそ「救えない」とばかりに大笑した。


「それにしてもだよ。俺だったら、同じ人間相手に、表情一つ変えず爪剥ぎをするなんて、とても出来ないね」

「……………………。」


 拷問吏の男は、そこで少し考え込む。


「しかし、誰かがやらねばならない」


 男の返答に、兵士は、少し態度を和らげて言う。


「あぁ、そうだとも。有り難いと思っているよ」

「だからもう暫く、お前と違って心が弱い俺達のために、頑張ってくれ」


「そのつもりだ」


 その言葉に頷くと、兵士は「頼むよ」と言って、自分の職務に戻っていった。


「……………………。」


 それから少しの間、男は立ち止まっていたが、やがて我に返ったように、自分が拷問していた少年に向き直る。


「悪いな」


 拷問吏は短くそう言うと、てきぱきと少年の治療をしていく。

 少年は、朦朧とした意識の中で呻く。彼には、この拷問吏が、得体の知れない異常者にしか見えなかったのだ。


 しかし、この拷問吏は異常者でも何でもなかった。

 ただ、彼は常に冷静で、自分の職務に忠実であり、尋問に必要なだけのA国語の素養を備えていた。それだけだった。

 少年達に治療を施しているのも、彼自身の慈悲だった。

 建前上は「テロリスト」である少年達を治療せずとも、彼は、罰されはしないのだから。わざわざ同僚に頼んで、治療に必要なものを持って来させているのだ。


 そうして、少年が外へ運び出されると、直ぐに新たな「テロリスト」が連れられて来る。

 拷問吏の男は連れられて来た「テロリスト」の姿を見て溜め息を吐くと、磨き抜かれた仕事道具を手に取った──

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