表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A国から逃げ隊  作者: 瓜
3/35

小さな再会

相変わらず文章力はありません。

そして、展開が超特急です。

 消火器を噴射し、振り回す。

 教室にいる"生き残り"の存在に勇気づけられ、普段からは考えられない程力強く。


 生き残っている人を、助けなきゃ。

 私がどうにかして助かるより、何故だか、そちらの方がずっと大切な事のように思えた。


 筋力にブーストがかかる。

 振るわれた鈍器が、辺りを巻く白煙を切り裂いた。

 片腕だけで振り回しているとは思えない程の重さと速度が、ゾンビ達に猛威を振るう。

 形振り構わず、激しく振り回された消火器は、それに当たったゾンビを霧散させる。

 生ける屍者の群れを、本来の物言わぬ肉塊へと還しながら、私は少しずつ、教室に向けて前進する。

 私がさっき襲われた時とは少し違った意味で、世界が遅くなる。


 突如現れた邪魔者わたしに、ゾンビの集団が殺到する。

 足に、腕に、その冷たい手を這わせる。


 でも駄目だ。彼らでは遅過ぎる。

 足に絡みつく手を蹴飛ばし、腕を掴む指を、体を捻って振り払う。

 ついでに、遠心力を利用して、私の周囲のゾンビを消火器で一掃する。

 右腕の重みでバランスをとって、体をもう一捻り。そうして、更なる追撃を加えていく。


 ゾンビは、私の猛攻の前に徐々にその数を減らしていく。

 私自身も、ここまでやれるとは思っていなかった。

 戦える、という事実は、今この場に於いてはプラスに働いた(が、しかし、一生知りたくはなかった)。


 そして、私は教室の入り口に辿り着く。

 扉は丁度、今しがた破壊されたようだった。

 そこに溜まり、教室内の人間(まだ、人間であると良いのだが)を脅かすゾンビの、頭を吹き飛ばす。腕を粉砕する。

 跳ねる血飛沫と、まごつく死体の群れの先に。


 …見えた、生存者だ!

 どうやら、まだ無事らしい。

 その事実に、更に鼓舞され、残ったゾンビも屠っていく。


 ゾンビというのは、かつての知人達、そして私の成れの果てでもある。

 当然、それを殺すのは、悲しくも、申し訳なくもあった。

 「生存者」の姿をこの目で見るまでは、確かに多少の躊躇もあった。


 でも多分、これが唯一の救いなのだ。

 残酷ではあるが、私も完全にこうなってしまったら、土に還る事を望むだろう。人間を喰う化け物として、未練がましく此岸に留まるより。

 そう、そうだ。生者のためには、死者が現世を去らなければならない。その逆があってはならない。

 だから……


「お休みなさい」


 私は、覚悟を決めて、最後の一人の頭を叩き潰した。


 *

 幼馴染は一瞬泣きそうな顔をして、教室に集る最後のゾンビの頭を壊した。

 その後、ふっ、と此方に向き直る。

 そしてやっと、私が『三雲みくもさき』である事に気付く。


 *

 ああ。あれは幼馴染だったのか。

 私は、半ば反射的に、無数の元友人を殺し、代わりに一人の幼馴染を護ったのだ。


 この判断は正しかったと、思う。

 いや、思いたい。けど。


 この気持ちは何だろう。

 今、私が救った彼女も、私が救えなかった友人達も、どちらも等しく大切だった。

 死者のために、生者が道を譲る謂れはない。それは絶対だ。

 きっと彼らも喜んでいる。

 正しく、人としての生を終えられた事を。

 それを、希っていた筈だから。そうでなかったにしろ、彼らは『さき』を殺さずに済んだのだ。

 分かってる、分かってる。

 あぁ、でも、わりない。


 *

 彼女は、私に向けて笑いかけた。

 とても不恰好な笑顔だった。

 眉根は寄せられ、頬の上がり方は不自然だ。唇の端からは息が漏れ、目から溢れた涙の雫が、僅かに眼鏡のフレームを濡らしている。

 アンデッドを蹴散らしている時の、鬼神のような顔とは丸切り違った、幼く、か弱い少女の表情だ。


「…ありがとう」


「ううん…」


 私達は共に余裕なく、ぎこちなく、二言三言交わす。


 間も無く。

 突然、ピンポンパンポン、と校内放送の合図がかかる。

「何、」「しっ」

 時間的に、パンデミックについてだろう。

 でも、誰が?

 校内に、生存者がまだ居たのか?

 確かに、時たま何処かから破壊音はしていたが……

 私達があれこれと訝しがるのをよそに、音質の悪いスピーカーはがなり立てる。


「……です!…町の生存者の皆さん……は…国から逃亡…船を……ます。十……日後に天原港あまはらこうを出港し……」


 雑音が入って、所々聞き取れなかったが、こんな内容が聞こえてきた。

 つまり、何処かの団体が船を用意していて、それでこの国から逃げる。だから、生存者は港に集まるように、という事らしい。


 互いに顔を見合わせる。

 タイミングが余りにも良くて、胡散臭く思ってしまう。

 こんなに都合よく、救いの手が差し伸べられるものか?

 しかし、だ。今の放送が本当なら……


 *

 私は、まだ助かる可能性がある。

 折角此処まで生き延びたのだ。港まで行けば、何処に逃れられるかも知れない。

 そうして、生きたい。


 *

 私は、きっと何れゾンビになる。

 だけど最期に、彼女を無事に天原港に送って、この国から逃がしたい。

 そうして、逝きたい。


 *

 それに、結局、此処に留まっても助かる訳じゃあない。

 ならば、少しでも可能性のある方へ進むべきだ。

 そうと決まれば、時間がない。

 二人同時に、そう結論づける。


「「それじゃあ」」


「行こうか」

「往こうか」


 こうして私達は、壊れ果てた学校を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ