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A国から逃げ隊  作者: 瓜
15/35

幹線道路の出発点

 郊外に出て、そこから伸びる幹線道路に乗る。

 日が傾きつつあるとは言っても、今は夏。

 まだ日没までは大分間があるだろう。

 多分、普通に歩き続ければ8,9kmは進めるのではないか。

 ただそれは、何事もなければの話。

 今日みたいに明らかな異常事態では、そこまで進めずとも仕方ないと思う。

 死と隣り合わせの状況で学校から此処まで歩いて来て、私達は、肉体的にも精神的にもかなり摩耗していた。

 今日は、後6kmも進んだら休もう。それだけ進めば、隣の市の手前には辿り着ける筈だ。

 結局、二人でそう決めた。


「ぁー疲れた…」

「私も、正直休みたいなぁ」


 二人して、溜め息混じりにぼやく。


「西日きついね…」

「本当、きっついな…」


 夕日の眩しさに目を細めつつ、足元から伸びる、俯きがちの長い影を一瞥する。

 影は、斜陽を浴びて黒々と克明だ。

 それがまた、夏の日を感じさせて、余計に暑苦しい。


「昼よりマシとはいえ、まだまだ暑いねぇ」

「あー、うん…」


 疲労からか、受け答えも段々と雑になってきた。

 一歩進む毎に眩暈がする。地面に足がつく度、振動が身体中に響く。

 レジ袋一杯の缶詰めをガシャガシャいわせ、重たげに腕をぶら下げて歩くシルエットは、まるでゾンビだ。

 私は兎も角、さきの動きまでもゾンビじみている。

 ふらふら、ふらふら。


 時折頭上に現れる、道路案内標識を読んでは落胆し、また歩く。

 何だか、時間が止まったみたいだ。

 幹線道路の上には、前後に何処までも、停まった車が続いている。その果てが見えない。歩いても歩いても、見える景色が変わらない。実際には、何かが少しずつ違うのだろう。車種や、車内に居るモノだとか。でもそんな事、私には分からない。


 いっそ、本当に時間が止まってくれたら。そうしたら、さきと何時までも一緒に居られるのに。

 …まあ、考えるだけ馬鹿らしいか。

 それにしても暑い。気怠い暑さだ。嗚呼、何だか、意識が朧だ。


「……ぃ…」


「…おい、たま!」

「ふゃい!」


 急に話し掛けられたものだから、素っ頓狂な声を出してしまう。我ながら、かなり間抜けだ。


「っぷ、何だよその声」


 さきは、小さく笑いながら体を震わせ、それから、急に真面目な顔になった。


「…なぁ、あれ」


 恐る恐る、といった調子で彼女が指差した先にいたのは、ゾンビの集団。数は結構多い。


「…どうする?距離があるから気づかれてはいないと思うけど」

「遠回りした方がいいんじゃないか?」


 全部倒すのは無理だろう、とさきは付け加える。…倒す、か。


「…うん、そうだね」

「一旦、あそこの道に入ろうか」


 さきの言葉に頷き、脇道へと逸れていく。

 脇道にもゾンビはいたが、決して倒せない数ではなかった。


「御免なさい」


 そんな言葉を呑み込む。


 *

「全部倒すのは無理だろう」


 そう言った時たまの表情が曇ったのを、私は見逃さなかった。

 何故、あんな顔をしたのか。解らない。ただ、何と無く気まずい。


 モップを構えたたまの姿は、とても頼もしい。得物はモップなのに、様になっている。

 …もしかしたら、全部倒すのは無理、と言われて、自分の力を否定されたような気持ちになっているのかも知れない。

 だとしたら、それは違う。私は、たまの事を信じているし、頼りにしている。

 ただ、彼女に怪我をして欲しくないだけなのだ。


 しかし、何と声を掛けたら良いのか分からず、たまについて行くしか出来ない。彼女は黙り告り、どんどん進んでいってしまう。

 その背中は、何処か怒っているようにも見えた。


 *

 夜が訪れる頃、少女達は目標としていた地点まで辿り着いた。

 結局、人が何人死のうが、すれ違おうが、嫌でも歩けば前に進むし、昼の後には夜が来るのだ。

最後の数行のぶつ切り感が凄い。

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