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A国から逃げ隊  作者: 瓜
14/35

備蓄倉庫、夕焼け、別れ

前回に引き続き、gdgdで進展がないです。すみません。

そして相変わらず、ゾンビ要素が少ないです。


ただ何となく、この話で長すぎるプロローグが終わった気がします。

 何袋かの食糧と飲み物を持って、私達はコンビニを出た。

 消費期限が長いものが案外少なかったため、食糧は大した量にはならなかった。

 そういった事情もあり、コンビニから徒歩5分程度の場所にある公園の、備蓄倉庫にも行ってみる事にした。


 *

 さきより4m程前に出て、露払いをしながら進む。


「ァ、アァア…ア」

 前方には、当て所なく町を徘徊する死者の群れ。

 …私達への迎えだったら、楽になれるのかな。


 駅で拾ったモップをゾンビ達の肩から首にかけて打ち下ろし、蹴倒し、柄で頭蓋を何度も打ち据えて潰す。

 なるべく、彼らが攻撃されたと気づかない内に。


 黒い血が跳ねる。

「ァ、ア…ギッ、ァ」

 彼らにとって、恐らく二度目の断末魔。


 最早そこに、彼らに対する悪意はなく、ただ機械的に、片付けていく。

 悪意というよりはむしろ、ゾンビ達への罪悪感や遣る瀬無さが込み上げてくる程だった。

 仕方ないと、割り切ってはいた。

 しかし、倒しても、倒しても、それに慣れはしない。


「………………。」


 どうしようもなく、心苦しい。

 彼らは、以前、そして今も、私の同胞であり、このパンデミックの犠牲者なのだから。

 今、この状況パンデミックは、憎くて堪らなかったが…

 胸が塞がる思いで、しかし、時折確認するさきの無事にほっ、とし。

 矛盾した思いと共に歩む。


 *

「さき、もうちょっとこっち来ても平気そう」

 やや小さめの声で、たまは私を呼ぶ。


 私は、たまのために何も出来ていない。

 戦う事も、何にも。

 彼女に汚れ仕事を押し付け、自分はただ、後をついて行くばかりで。

 狡いなぁ。

 情けない。今現在における、自分の無力さが恥ずかしい。

 そして、怖い。

 …彼女がいなくなったら?

 そうしたら、私はどうなるのだろうか。

 死ぬのだろうか。それとも、空っぽになって生きるのだろうか。

 そもそも、たまとの別れそれ自体が、恐くて仕方ない。


 …私が彼女の立場だったら、あんな風に戦えただろうか。

 たまがゾンビ達を倒していく様は、決して漫画みたいに派手ではない。

 一体ずつ相手をして、無茶な動き方はしない。

 先程、我を忘れて飛び出したような真似はせず、進むスピードはゆっくりとしている。

 一見すると、非常に冷静だ。

 しかし、それでも少なからず思うところはある筈だ。


 元々人間だった彼らを殺しながら、彼女は何を考えているのだろう。

 その胸の内には、どんな思いが渦巻いているのだろうか。


 たまから目を背けて、道の両側を見る。

 視線の先の、荒らされた店内の薄暗がりが、ぽっかりと開いた死者の眼窩のようだった。


 *

 それから程なくして、目的の公園に着いた。

 パンデミックが起きた時間が時間だったので、誰もいなかった。

 近寄って開けようとしたが、備蓄倉庫には、簡易的な鍵が掛かっていた。


 …嗚呼、すっかり失念していた。

 本当に私って駄目だな。


 倉庫自体は、如何にも脆そうな感じがしたが、モップで突いて歪ませる訳にもいかない。

 音に反応して、ゾンビ達が来てしまうかも知れないからだ。

 それは、さきを危険に晒す事にも繋がる。

 …何より、私は余り殺したくなかった。


 幸い、倉庫の鍵の置き場所なら、心当たりがあった。

 公園から程近い、商店街組合の事務所だ。

 "何時も"なら、大抵何処かの店のおじさんだかおばさんだかが居た筈なので、鍵も掛かってないだろう。

 今から取りに行けばいい。


 とは言っても、つい取手をガチャガチャやってしまうのが、鍵を忘れた人の性である。

 私も例に漏れず、倉庫の扉に手をかけ、力を込めた。


 ミシミシ、と音を立て、扉が軋む。


「えっ」


 思わず間抜けな声を漏らしつつ、もしかして、と更に力を強める。


 バキッ。

 続いて、何かが折れるような音。

 恐る恐る横に引くと、扉はガタガタ、と音を立て、不恰好に開いた。


「…嘘でしょ?」


 私は別に、元々怪力でも何でもなかった。

 これは、どういう事だ?


 …考えるまでもないか。

 右腕の傷を見つめる。力を込めた時から、不思議な熱を持ち始めたそれを。

 原理は分からないが、ゾンビと怪力には、何らかの関係があるのだろう。

 これだって、よく考えればフィクションの常識じゃないか。

 俯瞰しているかのような、第三者視点からの自嘲。

 今や、私がフィクションの化け物だよ!何て。

 何にせよ、いい事ばかりじゃない。


 でも今は、怪力の恩恵を受けておこうと思う。

 それに、過ぎた事を悔やんでも、仕方ないじゃないか。勿論、楽観視は出来ないけれど。


 備蓄倉庫の中は多少埃っぽかったが、特に荒らされた様子もなかった。

 さきは、持っていたスポーツバッグの中身を捨て、代わりに、倉庫の非常食を有りっ丈詰め込んでいった。


「何か、寂しいな」


「数学とか、やりたくないやりたくないって、いっつも思ってたのに、いざ捨てるとなるとさぁ」

「ちょっと、ね…」


「うん、わかるわかる」

 切ないような、可笑しいような、複雑な気持ちで相槌を打つ。


「や、しょうがないって知ってるし、割り切ってはいるよ」

「命に代わるものなんかないし」


 さきはハハ、と困り眉で笑い、纏めた教科書類と、部活のユニフォームを床の片隅に置いた。


 その時、一番上の教科書の表紙が目に留まる。地理の教科書だった。

「あ、今日地理Bだったんだ」

「地図帳は一応捨てないどいてー」


「ん、あぁそうだな」

「…でもまさか、たまから地図を読もう!なんて発想が出るとは」


 悪戯っぽくさきが笑う。


「ちょっ、それどういう意味」


「だって、たまって社会苦手だったじゃん」

「何時だったっけ、テストで30点台とったの」


「小5ー6じゃない、多分」

「っていうか、まだそんな事憶えてたの…?」


 恥ずかしさと、呆れが込み上げてくる。

 それと同時に、泣きたくなる程の懐かしさも。


 それから少しだけ、取り留めのない話をした。

 学校の事だとか、大半は思い出話だ。


 *

 その内に物資を纏め終え、日が傾きつつある公園に出た。


 何時だって懐かしい夕暮れ時。

 淡い水色に、少しずつ溶けてゆく金色。

 浴衣の帯のようにたなびく雲。

 寒くないのに、何処かひんやりとした空気。

 物寂しい。

 何があっても、ずっと変わらない黄金色の空が、こんなにも辛い。

 多分、友人も同じように思っていたのだろう。

 何方ともなく二人顔を見合わせる。


 それから、郊外に向けて歩き出す。

 郊外から縦に伸びる、大きめの道路を真っ直ぐ行けば、海沿いの街に出る。


 まだ先は長い。


 心を決めて。

 私達の故郷に、お別れを言ってあげよう。


「さよなら」


 そうして私達は、この町を発った。

読み返したら、似たような言い回しばかりでびっくり。

切実に語彙力が欲しいです…

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